第7話 芸術家の温床の1

7 芸術家の温床


1 


 ともかく美しいものに触れていたい。

 そのわたしの心のときめきが美麻にもたまらないらしい。

 九尾族=吸美族のカミサンの糧となる。美しいものや美しいものを求める芸術家の伴侶として至高の存在だ。吸美族に芸術への情熱を吸われると倍になってその情熱はもどってくる。そばにいてくれるだけで、こころが波だち創作欲をかきたてられる。

 明治の天才画家青木繁の才能を認めて愛人となった福田たねもこの地方の生まれだ。

 もしかすると彼女も美麻の同族かもしれない。二人の間に生まれた、認知はされなかったが福田蘭童。笛吹き童子のテーマソングで一世を風靡した。

 その子、石橋エータロー。「そういえば、蘭童さんはこの街の西大芦村で老後を過ごしたいといっていた。坂本龍一のルーツはわが家の薔薇園の隣の空き地らしいんだ。これは街のヒトの噂だから確かめてみないとわからないが。未確認情報だ。 女流作家人気絶頂の山田詠美は美麻と同じ東中学から高校まで同じ出身校だ。これは確認済み……。この地方は芸術家の温床だとおもう……」

 学は玲加の痛みから気をそらしてやろうと話し続ける。

 歴女の玲加は熱心に聞き入っている。武も同調している。

「ハンドルがとられている。ブレーキがきかない」

 玲加にこの地方の歴史をレクチャーしていた。油断してはいけなかったのだ。なにものかが車に介入している。

「だいじょうぶ!? 学、落ち着いて」

 学は喉元まで苦い液が逆流してきた。あわてて制御しようとしても車が勝手に暴走している。玲加も武も青ざめている。

 玲加が唇を噛みながらPCで美麻を呼びだす。

「あなた、そのまま相手の誘導にまかせて!! 誘導されるままに……」

 カミサンの声をきいただけで冷静になった。

 どうせハンドルの自由を奪われているのだ。

 なすがままにまかせる。

 どうやら車はクリーンセンターに向かっているらしい。

 さきほど、上空に蝿の大量発生がみられた場所だ。

 あれが、その何パーセントは幻影だとしても場所がごみ処理場のあるところだ。 蝿の王。悪意の発生源かもしれない。車のスピードがあがった。

「学!!! 気をつけて。わたし達は、武もわたしも、不死のもの。メッたなことでは死なない種族よ。学がいちばん危ないから。無理しないで」

「そういわれても、なにもできないのがつらい。なにを仕掛けてくるのだ」

 空が暗雲にとざされた。初夏にしては暑い日がつづいた。北関名物の雷雨になりそうだ。

「玲加! 痛むのか!?」

 玲加は返事をしない。武をにらんでいる。

 いやちがう。半眼になっているのだ。 瞑想しているようだ。

 いやちがう。玲加はあの技を使おうとしているのだ。武と学の危機にコウモリ寄せの技で対抗しようとしている。その技に体が抵抗している。傷ついた体では負担がかかりすぎる。それ以上無理をさせまいと本能がしている。

 玲加はコウモリの大群をイメージしている。

 コウモリの大群はすでに玲加の半眼の瞼のうらにやきついている。

 でも、それはアクチュアルではない。

「歩道にのりあげないように」

「心配するな。ハンドルの自由にならないのだ。アチラさんまかせだ」

「そうでしたね。What will be will be」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る