第5話の3

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 猛夫のバイクに武はのっている。玲加が後ろからだきついている。救出したクラスメートはつぎつぎと彼女たちの家の近所までおくりとどけた。

 玲加たちは美麻の薔薇園についた。バイクは園芸用の道具や肥料などをしまっておく納屋に隠した。

「こんな日がくるなんて思ってもみませんでした」

「わたしだってそうよ」

 と玲加は猛夫にいう。

「武とは仲良くするから。よろしくね」

「それより、あのとき何に気づいた? 聞かせて――」

 武が照れくさそうにきく。

「わたしたち二つの部族はだれかにあやつられていた。人狼とわたしたち九尾族が一体となると目覚めるforceがあるの。それを、その力の発現をきらっているものがいるのよ」

「それって何者だ」

「わたしたちの新たな力はそいつと戦うためのものかもしれない」

 屋敷のそとでふいにバイクの騒音がおきた。

「あいつらもまた団結したみたいだ」

「どうした猛夫」

 武と玲加も二階の窓から外の騒音の元凶を見下ろす。

 門の外の駐車スペースにバイクが乗りいれてきた。門とバラのヘンスにさえぎられて屋敷内には入ってはこられない。

「わたしたちは遥かむかし天国で仲良く薔薇園の園丁をつとめていた。美しいとわたしがいってはおかしいかもしれないけど、九尾族の女たちと人狼の男たち。それを妬んで、神にわたしたち九尾族のものが指に刺さったバラの棘からふきでた血を吸っている。吸って……うっとりとしていると神に告発したものがいた。それで二つの部族は楽園追放にあったのではないかと……」

「それは、その告げ口をしたのはなにものだ?」

「わたしたちのあとから天国を追放された……堕天使。悪魔となったベルゼブブ」

「ベルゼブブだって?!」

「嫉妬深い、蝿のような醜いヤツ」

「そいつが神に告げ口して、おれたちをはっきりと二つの部族にわけ、地上に落したのか」

「たぶんまちがいない。こんどの大麻ファクトリだって、たぶん人狼に働きかけ、あんな醜悪な仕事に手を染めさせたのよ」

「そのものが、アイツラをあやつっているのか」

「人狼の過激派を奈良へ追いやって……弱体化したところを襲ってきたのよ」

 玲加は話しながら携帯でメールを打つっている。むろん、神代寺にいる美麻に。

「さすが歴女。その推察はただしいとおもう。長老たちが悪魔にだまされていた」

「このことは章夫お兄さまにも知らせておく必要があるわよ」

「ヘンスが破られそうです」

 猛夫が叫ぶ。


 薔薇がざわめいている。薔薇園が波立っている。楚々とした白いアイスバーグ、ドミニックロワゾー、赤、黄色、ピンクの花々が激しく揺らいでいる。

「わたし試したいことがある」

 玲加はベランダに出た。毎朝、水をあげているかわいい薔薇タチニ呼びかけた。

「美麻にかわって、わたしはあなたたちを守らなければならないの。今宵はあなたたちがが、おねがい、わたしを守って」

 玲加は真剣な表情で、唇を噛みしめた。両手の掌を波立つバラの花々にむけた。あたたかな愛情に満ちた念波を薔薇にむけて放った。

「悪魔降伏 怨敵退散 七難速滅 七復速生秘」とさらに唱えた。「怨敵退散。怨敵退散。怨敵退散」唱えつづけると、見よ!!! バラの波頭が高鳴りヘンスを補強する。今まで敵のゆさぶりでゆらいでいたヘンスが微動だにしない。

 それどころか、ツルバラを這わせたヘンスはさらに高くなり棘が鋭角に巨大化した。いままでヘンスに手をかけてゆすっていたものたちが悲鳴をあげて退いた。棘にさされたのだ。

 ブアンと玲加たちを耳鳴りがおそった。

「なんだ。これはなんだ! なにが……」

 そこまで武がいったときだ。

 夕空が真っ黒になった。

 ふいに、闇が訪れたようだ。

 いやちがう。空をおおっているのは蝿の群れだ。空一面に黒い蝿の群れが不吉な黒雲のようにわきでておそってくる。

「空からくる気よ。だったらこれはどう」

 玲加は空に向かって両手を広げた。薔薇園の空はコウモリの大群が「わたしたちのでばんよ」とでもいうように玲加の念に応じて飛び交う。

 コウモリが喜々として蝿を咥えてのみこむ。

 空には無数の小さなtornadoが渦巻く。いや地上には垂れこめてこないで薔薇園の上空だけで黒い渦となって戦っている。だから正確にはトルネードとはいえないかもしれない。

「玲加すごい。蝿がどんどんきえていく。ほら満月が輝きだした」

「武! なにか忘れてない」

「??????」

「満月よ。満月」

 猛夫たちがいちはやく気づいた。空の月にむかって遠吠えする。

 ウオオン。ウルルルルウ。

 まさに狼の遠吠えだ。かれらの咆哮は音波攻撃となって蝿をふきとばす。

 時空を超えた――久しぶりの(人狼と吸血鬼になるまえの)園丁時代に遡っての共同作業だった。

 薔薇たちが武と玲加を祝福するようにふるえている。

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