第5話の2

2

 

 猛夫が固い表情で武の顔をのぞきこむ。武もなんにんかは噛んでいる。血をすすっている。それがいまでは悔やまれる。マインドバンパイァ、見園玲加とつきあいだしたからだろう。彼女の支配下にある。でもなんともうれしい。このキラキラするようなよろこびは血を吸ったり、肉食系として山野をかけめぐってエモノを捜すより心が高揚する。わくわくする。

 猛夫が鼻をひくひくしている。

「だれか、スーパーのうらでおそわれている」

 いちはやく玲加ははしりだしていた。

「おそわれているのは、クラスメートよ」

 テレポートするように速い。バンパイァ特有の走りだ。武も負けていない。

「なんだぁ。きさまら」

 暴走族が女子高生をとりかこんでいた。

 彼らにしたら、なにもない空間に玲加と武がわいてでたように見えたろう。

「わたしは、このひとたちのクラスメート。お友だちよ」

「ぼうやたち、なにしてるのかな」

「なんだぁ!! お前らのほうがガキだろうが」 

 暴走族のいくつもの顔が怒気を含んで叫んだ。

 くるわ。玲加は感じた。チエンがうなりをあげてとんできた。武と玲加がぐっとチエンをひとにらみした。チエンの先が伸びきらず〈?〉クエスチョンマークのようにかたまった。

「なんだ。どうしたんだよ。ケントさん」

 玲加もおどろいていた。武と組むことによって、ふたりには新たな力、念動力が発現したのだ。

「ケント!!!」

 ドタッとケントが倒れた。 

「なにがおきたってんだ」

「タケシ!! あたらしい歴史よ。わたしたちが組むと、サイキックパワーに目覚めるのよ。あとではなすけど、わたしなにかわかった気がする……」

「なにが……なにいってるんだ。わらない。説明して」

「だめぇ。まだ敵は目の前にいるの」

 これだって、ぜんぜんオカシイ。わたしと武が化沼にもどってきたとたんに、こんなトラブルにまきこまれた。人狼って最強ではなかったの。マインド・バンパイアって最強でなかったの。わたしたちに戦いをいどむ敵がこの地にいたとは、オドロキ……と思ったところへ鉄パイプの攻撃が来た。

 倒れたケントをかばって革のジャケットをきた巨体がおそってきた。相撲部屋の入門試験をうけたほうがいいのではないかと忠告したくなるような男だ。

 タァッ。と気合いをかけて掌底をつきだす。

 なんと、巨体が吹っ飛びその後ろにいた仲間がひともちになってコンクリートの上を雪崩れていく。

 なにこれ珍百景に登録ねがいたいようなめったにみられない光景だ。一度目覚めた能力だ。ひとりだって発揮できるんだ。

 武も気づいた。ウルルンと吠える。琥珀色の眼光。暴走族の猛者がかたまった。漫画みたい。人狼に睨まれただけだ。両目からほどばしる光を浴びただけだ。射すくめられて動けないでいる。

「なんだ、つまらない。帰ろうよ、武。みんなもいこう」

 玲加はこれまた乱闘をみて怯えていたクラスメートに声をかけた。

「タケシってすごい」

「玲加ってそれでもニンゲンなの」

「ゲームの世界にまぎれこんだの」

「わたしたち、なんだかチョウたのしい」

「モットヤッテエ」

 大変なことになった。

「記憶を消せるか。このひとたちの記憶が消せるか」

「それは……もう……表芸ですもの。忘れたの、わたしはマインドバンパイァなのよ」

 ひとのこころを操るなんて、たやすいことなのだ。

「そうは簡単にいくかな」

スーパーのお店をぬけてきたのだろう。裏口の従業員専用口がさきほど表であらそったこれまたデブ男たちを吐きだした。

「トウチャン!!!」

 未来の力士が歓喜の声をあげた。なにこれ珍百景。またこれかよ。なにこれ。これこれ……なあに? 巨体少年。デブ男。肥満女。ジャジャント、御一行様揃い踏み。シコフンジャッタ。とはいかないが。まことにもって、壮観だぁ。

「どうする。猛夫」

 表のパーキングからかけつけた人狼バイカーに武がのんびりときいている。そこで玲加はまだここにきてからこのとは瞬時のハプニングだとみとめた。わたしたちなにか新たな歴史を、都市伝説を創生しているみたい。

「いちおう、引きましょう」

 玲加は武と猛夫にこえをかけるとバイクのりヤーシートにとびのった。クラスメートも喜々として玲加にならった。高鳴るバイクの轟音。煙が辺り一面にひろがった。おもしろがってバーストさせている。


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