第5話 狂狼戦士・武
5 狂狼戦士・武
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武は〈狂戦士〉――人狼集団の長の次男坊だ。奈良に向かっている過激派の長男章夫とはちがって穏健派だとはいっても、なめたらアカンデヨ、いざとなれば殺戮の喜びのために殺戮のできる狼だ。
そういう玲加もじぶんがマインド・バンパイァであることを忘れていた。いまは、歴史的にみてずっと長いことひとの血はすっていないはずだが、これからさきのことはわからない。
喉の渇きをかすかに感じることがある。そんな時は……じぶんが浅ましくなって、悲しみながらトマトジュースをガブ飲みする。
いまその渇きの発作がやってきた。玲加はジロリと肥満女を睨みながら武の拳からしたたるトマトの汁をぺろりとなめた。ひとがいいきもちで、いやわたしたちはひとではない、ひとの範疇、カテゴリイからはかけはなれている。まあいいか。ひとがいいきもちで武と買い物にやってきたのに、嘲るほうがわるいのだ。中年肥満醜悪女たちがふるえている。
「おかしいよ。あのアンちゃんと姉ちゃん、眼がひかった。ひかった」
店内からレジ袋を両手にさげた男たちがでてきた。これまた大男。わめく。
「うちのカアチャンになにした」
「なにもしてませんよ。お上品な奥様たちですね」
「まあな」
「そんなこといわれても許さんぞ」
他の悪の権化みたいな男がつめよってくる。
レジ袋をゆっくりと凄みをきかせて床に置くと、パット殴りかかってきた。武はおおきくアギトをひらいた。バカな男だ。狼の口のなかにパンチをくりだした。カブツト武が口をとざした。咀嚼音がする。
「ああ。おれの手が、拳が喰われた」
「なにいってるんだ。タカオよ。ちゃんと手はついてるぞ」
幻覚をみせられたタカオは噛みちぎられたあとから血がふきだしているように見える。首にまいていたタオルを手にまきつけている。
「わあわあわあ」
大男が脱兎のごとくにげていった。
「武さん。帰ってきていたのですか」
バイクがバーストしながら急停車した。犬飼族のめんめんがおりてきた。玲加は首をかしげてブリッコぶりっこの挨拶をした。
「猛夫がきてくれてたすかったよ。こんなところであらそいたくはないもの」
「無断欠席がつづいたので、五十嵐先生が心配している」
「月曜日からは出席する」
「わたしもよ」
「仲がよくて、いいですね。これでお狐さんたちとのあらそいはなしですね。でも……章夫さんたち過激派に噛まれたRFはどうなりますかね」
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