第3話 洋子の救出の1

3 洋子の救出


1


 わたしは素早く理解しなければいけなかったのだろう。でも、理解するまでに数分かかった。美麻と玲加はわたしに心配かけまいとして事情をふせておいたのだ。 そんな配慮はあまりありがたくないのに。

 部外者あつかいされるのにはまだ慣れていない。

 美麻が一部屋を教室に改築するまえは、剣道場だった。五歳の誕生日から剣の道を父にたたきこまれた。夢道流。下野道場の父は最期の道場主となった。わたしの代から学習塾となったのだ。わたしは、親不孝だ。

 はたしてわたしはこれから小説家としてやっていけるのだろうか。新聞記者。郷土史家。やっているとが多すぎる。

 ……と疑問がわく。彼女たちの年齢からしたらわたしは、子どものような、いや、遠い子孫のような年ではないか。

「ごめんなさい」

 わたしの思考をよみとってカミサンがぼそっとつぶやく。

「洋子さんのことが……どうなるかと、心配なの……」

「あっ、反応が消えた」

「携帯に気づかれたのよ。でも生きてはいるらしいわね」

 玲加は走りだした。なにかわたしにはない直感につきうごかされているようだ。

「あ、また映った。電波のとどかないところを移動しているのよ。きっとそうだわ」

 一縷の望みが、玲加の走りをさらに加速した。

「玲加。玲加」

 わたしはぜいぜい息切れがしていた。カミサンは身軽にすいすいと玲加についていっている。ようやく、このころになってわたしにも、ビジョンがみえてきた。洋子の後ろ姿だ。床にころがされている。屋上の部屋かもしれない。窓に月がうつっている。

「でも、GPSからみると地下みたい」


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