第2話 化沼の人狼伝説の1

PART 2 化沼の人狼伝説


1


歴女、腐女子、玲加との対話。

玲加。

幼い時から美智子オバサマの話は、薔薇のおじいちゃんからさんざんきかされてきた。北関東のさらに北の果てに薔薇の好きな、その町の人のことが大好きな、町を守ることに使命を感じている娘が住みついている。娘はおじいちゃんの反対を押し切って3年ほど前にヒトと結婚してしまった。その町には、わたしたち一族の敵、人狼もずっと昔からいる。そいつは肉食系の今風にいえば吸血鬼だ。わたしたちの一族が都落ちしてきた玉藻の前を守護して東北まで落ちのびようとしたとき食らってしまったヤツラダ。どのへんで枝分かれしたかわからないが、もとは同族。それで頼りにしていた、無防備だった。それをいいことにして那須野が原の林の奥でわたしたち一族を、襲い、血を吸い、たべてしまった。野蛮な人狼一族。その拮抗はいまだにつづいている。そんな危険な地域で必死に人としての暮らしをしている。美智子オバサマ。いまその伝説の夫婦の家にわたしはいる。寄宿することになった。歴女としてこんなわくわくすることはない。

美麻。

そうなのよ。玲加ちゃん。この町の人はこの町を支配しているのは、自分たちとおもっているの。自分たち人間以外に怪しいモノが住みついていると信じてはいないの。かってに、周囲の森や林や原野を耕してしまった。人外のものが住むには劣悪な環境にしてしまった。いまそのリベンジが始まっているのがわからないのよ。

黒川水は昔のような豊かな流れではない。街路樹まで、神社の森まで消えていく。寂しいことだよね。

山の木が伐採されたままだから雨が降ると黒川は濁流となって増水する。でもそれは一昼夜くらいでまたいつもの細々とした流に戻ってしまう。でも、水量はへったけれど、町の中央を黒川のような清流が貫通している町はめずらしいらしい。山の動物たちも川伝いに町におりてくる。そして人狼も例外ではない。

人狼の群れは、男社会なの。いまでいうBLの世界なのよ。わたしたち九尾の世界がアマゾネスのように女だけの戦闘集団であるように、かれら人狼は男が男を愛し合う習俗がむかしからあるの――。

玲加

わあ、わあうれしい。腐女子としての最適環境の地にわたしはきたのね。

麻生学。

歴史に興味をもつことはすばらしい。この町ではいまや伝説となる事件がおきょうとしているのだよ。玲加クン。この町の伝説の生成過程にキミは参加することになる。

人狼吸血鬼とmind vampireの闘いに立ち会うことになったのだよ。終わってしまった歴史ではなくてこれから歴史にのこるようなことに名をとどめることになるだろう。

「ますますすごいことになるわ」

と美麻。学と玲加の顔を交互にみて、うれしそうにうなづいている。



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