閑話①「アームズ」

 アクアリウス南方市街、壊滅。

 このニュースが王都サダルスウドに伝わったのは、3日後であった。

 敵は正体不明。見慣れぬ鉄の甲冑に身を包み、『水装アープ』を使う兵士。

 水装以上の武装をしていないアクアリウス兵は彼らに敵わず全滅した。市民も皆殺し。南方市街にある『森の泉』は敵の手に渡った。

 そして3日後とは、『黄道審判』から王が帰還する日であった。



「なんという事だ!王の不在を狙って南の城壁が突破されただと!?」

「……突破されたのが4日前の夜。その次の朝には砦の街を占拠され、昼には……例の『泉』の街へ侵略」

 金髪蒼眼の王は帰ってもまた会議であることに少し参った様で、玉座に肘を突く。

 隣の大臣が会議の出席者に怒鳴る。

「護国の『水装士アーバーン』はどうした!奴等が居てみすみすやられる訳が無いだろう!」

 それを受けてやや若い将が手を挙げる。今この場にはアクアリウス軍の幹部以上、総勢20名が集まって円卓を囲んでいる。

「早馬によると、攻め込んできた敵の数は4000。南の城壁を護る水装士は2000」

「たかが倍の数なら、守りのこちらが優勢だろう!地の利がある!」

「そして現在の敵の数は……約6000」

「何!?」

 円卓がざわついた。若い将は続ける。

「さらに敵は『水装アープ』を使う。……つまり――」

「寝返ったのか!?我らが誇り高き『水装士アーバーン』が!国家機密である『水装アープ』を横流しして!」

 若い将の言葉を遮って大臣が叫ぶ。

「……ですが」

「!」

 それを制したのは王の向かいの玉座に座る女性。

「姫……!あ、いや……女王!」

 彼女はまだ若いが、この国の君主だ。ステラの母親でもある。王と同じく金髪蒼眼。陽に反射した水面のように美しい髪を持つ、気品と風格を併せ持った女王。

「……。たかが6000でしょう。取るに足らない数です。敵も水装士だろうと、兵を10000も動かせば収まる事です」

「で、ですが…この問題の危険性は」

「それより、『森の泉』が落とされた事が問題でしょう。……陛下」

 王は頷く。

「……ふむ。泉の街に生き残りは?」

「報告では皆殺しと」

「……!!」

「なぜ砦の街の兵は取り込まれ、泉の兵は殺されたのだ?」

「……恐らく、砦の兵は以前から敵と接触していたのだと。若しくは……」

「ステラ様の居場所の情報が漏れたのか!」

「馬鹿な!機密だぞ!」

「今言っても仕方あるまい。……それで?」

「はっ。只今都の水装士が全速で救出に向かっております」

「……必ず救い出せ。でなければこの国は滅ぶと思え」

「はっ!」

 その時、部屋の扉が荒々しく開かれる。

「ご報告します!」

 水装士だった。

「貴様!神聖なる軍議の場であるぞ!控えよ!」

「もっ申し訳ありません!しかし!火急の報せで!」

「……申してみよ」

「はっ!……だ、第3の都市、シェアト、陥落!敵の数は2万を越えました!」

「はぁ!!?」

 もはや国中の誰もが、何が起こっているのか理解出来なかった。報告の度に敵は増え、街は制圧されていった。王都からも軍を動かし迎え撃つも、報告に帰ってくる者は皆敗戦を伝えた。

 敵の、王都サダルスウドへの進軍を許すのは時間の問題であった。



「……っ!!」

 燃え上がる街。アクアリウスの水装士だろうか、剣を振り上げ、甲冑を着た敵に向かっていく――その姿のまま、彼は固まった。

 ここは先程の軍議から1ヶ月後の王都近辺。

「な……なにが……ぐばっ!」

 彼は自分の腹を確認した。だが、そこに腹は無かった。

 大きく穴が空いていた。水装を貫通して。

 倒れた彼を見て、甲冑を着た兵士は兜を取って後ろを見た。

「……おお。それが、今回実戦投入された武器ですか!」

 そこには甲冑を着ていない、黒い衣に身を包んだ男が居た。その手にあったのは鉄で作られた筒状の棒のようなもの。

 見たことの無い、妙な形をしていた。だがそれは、『別の世界』では良く似た武器がある。

「ああ。アクアリウスの『水装アープ』に対抗するためにあんたらに依頼されてウチが開発した――」

 男は鉄の筒を逃げ惑う市民に向けた。すると先程水装士を貫いた時のように爆音が鳴り響き、次の瞬間には市民の首から上が吹き飛んでいた。

 火薬を使い、鉛の弾を発射する強力な武器。

「『火器アームズ』だ。見なよ」

 黒衣の男はアームズと呼ばれた筒を前に向けた。その方向を甲冑兵も倣って見る。

「あれが王都サダルスウドで……一番デカイ建物が王宮……『宝瓶宮アクエリアス』だ」

「おお……いつの間にここまで進軍していたか」

「ここの指揮は俺が執るってアネゴの指示だからね。……さあここに兵を集めてくれ。今夜中にアクアリウスを落とそう」

「はっ!了解であります協力者殿!」

「ほいほい。そんな時だけ畏まって」

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