11話 作戦名は……なんだろう特になし

「あははは!してやられたな少年!まあ、しょうがない。相手が悪すぎたな」

「渋川井先輩笑い事ではないですよ」

騒ぎのあった日の放課後、俺は、部室で今日のことを相談しようと部室に行くと渋川井先輩が一人、退屈そうにしていたので、今日のことを話すと愉快そうに笑い飛ばした。

「いや……はは、少年がそこまでソフィアのために真剣に悩むなんて思ってもいなかったからな、ついつい笑ってしまった、すまないね。それで相談とは、ソフィアをアメリカにはいかせたくない。なんたって少年が好きだからだったっけ?」

「アメリカに帰りたくないソフィアのために俺は、なにができるかです。俺は、アイツのことなんて嫌いです」

渋川井先輩は、心の底から楽しそうな表情で笑っている。まあ、俺が、先輩と同じ立場だったら、恐らく同じような対応をするだろうし、気にはしない。

「そうだね。正直に言えば、三つある。一つは、八百長で勝たせる。これは、ソフィアのお爺さんも許可していたから、一番の最善策かもしれないが、その場合、ソフィアのプライドは傷つくし一番、可能性があるが、一番してはいけない」

「まあ、俺も、それはないと思っています。口に出す爺さんも分かったうえで言った発言ですし……その案は、却下です」

確かに、一番楽だが、あの負けず嫌いでプライドの塊ともいえるソフィアが、そんな手をゆるはずもない。

「二つ目は、少年が、ソフィアに自分の戦い方を手ほどきする。もちろん互いがいいと思うのならだが……するとするなら、互いに仲がいいことを認めないといけない。これが私の考える最善策なのだが」

「だから俺とソフィアは、仲が悪いんですって」

「うむ、そう言うとは、思っていたが……そうなると、これは、最も成功率が低い案だがきく覚悟はあるか?」

……覚悟することか、俺は、渋川井先輩の提示した案の二つは思い浮かんだが、次の案は、予想もつかない。

先輩も、少しだけ真剣な雰囲気を醸し出しているからか、つい背筋がピンとなってしまう。

「ヒール役に徹する。この際、爺さん側に付いたふりをして、ソフィアと戦い、彼女の実力を上げ勝たせる」

「けれど……」

「ふむ、私の提案は、全て、少年が達成可能の可能性があることだけを言ったつもりだが……可能性のあることに、少年は、ケチをつけるほど、できた人間でもないと思うぞ」

「可能性って……」

信じられなかった。俺は、どこにでも普通の男子高校生。ソフィアや、渋川井先輩の様に才能があるわけではないのに、俺に出来ると先輩は、言った。確かに、可能性にかけないまま終わるのは嫌だ。

「安心しろ、少年。私は、君のこと割と好みだからな。好みの人間に嘘などつかないよ」

「なら、結婚しますか?」

俺は冗談で、返す。自分の自信の無さを隠すために、しかし、先輩は、それすらも見越してなのか、俺の肩を叩く。

「君の弱い所も見せてもらったからな。婿に貰ってあげるのも悪くはない。少年が、全部失敗して悲しみに暮れているのなら結婚してもいいぞ」

「言質取りましたよ。会って間もない、フラグも一切立てていない俺をちゃんと婿に取ってもらいますからね。成功しなかったら」

だから、俺は、渋川井先輩の慰めや、期待に応えようと、決意を冗談混じりに口にした。そして渋川井先輩も俺と同じように返してくれた。

「婿には、取らないでいいようにしてくれ、じゃないと、のびちゃんと私が、少年を取り合って修羅場になってしまうからね」

「あはは、先輩?なぜ月夜野が突然出てくるんですか?」

俺は、不思議に思い聞いたのだが、先輩の発言の意味を次の瞬間理解してしまった。

「沼田先輩って、実は、たらしですか」

気まずそうに部室の出入り口に立っているのは、瓶底メガネをかけた、見慣れた格好の月夜野であった。

「月夜野……お前は、なんとも絶妙なタイミングで入って来るな」

「それは、いいタイミングですか?悪いタイミングですか?」

「どっちもだ」

「うん、私的には、のびちゃんの入ってきたタイミングは、最高に良いけれどね。共犯は、多い方が、有利に進むことも多い」

「悪いタイミングだとしたら、企みが失敗する確率が上がるとも言えますが、まあ、話は、大体盗み聞きしましたので、有利に進む共犯になりましょう。と言うわけでその話、私も協力しますよ、沼田先輩」

盗み聞きとは、行儀の悪い後輩だが、月夜野の助けは、確かにこの計画が有利に進むかもしれないので、俺は、月夜野も巻き込むことにした。

「ありがとうな月夜野。そしたら、少し話そうか」

「話そうと言っても、ソフィア先輩のことですよね。お爺さんのことは、うちのクラスでも話題になっていましたから……それで私は何をすればいいですか?」

面倒ごとに巻き込まれたはずなのにやけにウキウキしている月夜野。それをみて先輩も、何かを思いついたような企み顔をした。

「そうだね、そうしたらのびちゃんには、ソフィアのヒロインとなってもらおうか」

「ヒロインですか……?」

「そう、ヒロインだ。これから、私と少年でソフィアに宣戦布告をする。お前をゲームでは、勝たせないって……そうだね、お爺さんに金でも積まれた設定にして、それで、きっとソフィアは私たちに敵意を向けるはずだ。その敵意は、彼女の成長にもつながるが同時に私達は、ソフィアの動向を知れなくなってしまう。そして、のびちゃんは、できるだけソフィアの傍にいて私たちに彼女の同行を私たちにリークしてくれ、この方向でいいなら、現状維持。悪いなら、方向転換する」

……この人は、簡単にえげつないことを言うな、いや、ヒール役をするのは、さっきの話で聞いてはいたけれど、金を積まれて爺さんに鞍替えって、俺、流石に性格悪すぎないか?

「あ……あの渋川井先輩……」

「つまり私は、スパイと言うわけですね!任せてください!得意です!」

「ちょ!月夜野!?」

俺が少しだけ、話を違う方向に変えようとしたが、意気揚々と返事をした月夜野の返事にかき消されてしまった。

「よし、じゃあ、ソフィアの敵になって、盛大に負けよう作戦開始だね!」

「渋川井先輩?」

「どうした少年?結構ノリノリだぞ、私は」

「そうですよ、沼田先輩!私もノリノリです」

……言えない。流石に金を積まれた設定だけは、変えませんかなんて。だって、もうなんかやる気満々なんだもんこの人たち!



そして、作戦の当日俺と渋川井先輩は、放課後の屋上にソフィアを呼び出した。月夜野には、偶然を装ってソフィアと共に屋上に来た。気まずそうな演技をしている月夜野。流石アイドル、演技がうまい。

「で……果歩先輩と英二がそろってどうしたの?」

「あの爺さんに勝負内容を伝えようと思ってな」

「私は、少年の付添人とでも思ってくれ」

「……あぅ」

渋川井先輩もノリノリな演技をするのだがソフィアは、驚きどころか、興味すら示さない。どこかおかしい。

「あっそ、事情は、全部のび太ちゃんから聞き出したから安心して、よは、エイジが金を積まれて私と対立するっていう演技で私を奮い立たせるっていう魂胆なんでしょう」

「そうだ!俺は、あの爺さんに金を積まれて……え?」

待ってくれ、計画がばれているのだが……いや、この完璧な計画は、バレるはず……と思ったが嫌な予感がして、俺は、月夜野の方を見ると申し訳なさそうな顔で、俺達に謝った。

「すみません!先輩方!速攻でバレました!」

「あ……あの月夜野さん?あなた、演技なら任せろって……」

「うん、少年。すまん、私も誤算だった」

どうやら、渋川井先輩も予想外だったらしく、表情は変わらないが、冷や汗をかいていた。

「いや、しょうがないわよ。だって、一年生ののび太ちゃんが普通、屋上のあたりでたむろっているなんて、思わないじゃない。それに、エイジだけに呼ばれるなら私も分かったけれど渋川井先輩までいるとなると悪知恵が回っていないはずがないじゃない?」

そう、よく考えたら、一年生の教室は、一番下の一階にあり五階建ての校舎の最上階は、三年生の教室や進路相談室。一年生の月夜野がたむろする理由もなかった。

「月夜野……ちなみにどうして話した?不自然でもしゃべらなきゃバレることもないだろうに」

そう、確かに不自然でもあったが、先生の手伝いとでもいえばなんとでも言い逃れたはずだったのだが……

「だって!話しかけた瞬間、ソフィア先輩になんでいるか聞かれて、先生の手伝いって言ったら、いきなり胸倉をつかまれて壁ドンされたんですよ!しかも英語でいきなり怒鳴られて……最後に一言だけ『言わなきゃ殺すわよ』なんて言われたら話さない訳もないじゃないですか!怖いですもん!」

「うわ……引きますね、渋川井先輩」

「流石に私も、ソフィアが部の後輩にそんなことするなんて思わないよ」

普通に俺達は、ソフィアの行動にドン引きしていた。口は悪いことは知っていたが、暴力まがいなことまでするとは思わなかった。

「しょ……しょうがないじゃない!明らかに怪しいじゃない!疑うじゃない!しかも英語で話した内容だって、昨日見た映画のセリフだもの……マフィア映画だけれど。それに番外戦術よ!」

「こ……怖かったですよ!英語とか分かりませんし!」

あぁ……人選ミス。この後輩、あまりにポンコツすぎる。こんなんだったら、先輩と役割を交換……いや、それはそれで、迫力負けしそうだし。

「あー、悪かったわね!でも、安心しなさい、私は、勝負ごとにおいて手は抜いたことないのよ!だから、逆に宣戦布告してあげる!」

少しバツが悪そうに叫ぶソフィア、俺達の思惑は、たった数秒で壊滅し、昨日の話は、茶番となってしまったが、ソフィアは、気にせず、俺に人差し指を指してくる。

「内容は、チェス!持ち時間は、無制限。白黒つけるわよ!コソ泥みたいに逃げないことね!」

「かかってこい!悪いが、手は抜かんぞ!俺はお前が嫌いだ!」

「ふふ、私もアンタが嫌いよ!」

やっぱり、変に小細工するよりこうやって、いつもみたいに勝負を楽しんだ方が俺らしい。俺は、ソフィアの売り言葉を正面から買った。

これが、どんな結果になっても、俺は、後悔しない。ソフィアが帰ることになったたら、土下座してでも引き留める。そう言った決意ができたのだ。結果的には、昨日の茶番も悪いものではないと思った。

「ふむ、チェスか……それに盗人……ふむ」

「し……渋川井先輩?どうしたのですか?やけに機嫌がいい気がしますが」

「いやね……楽しくなりそうだなと思っていたのだよ」

「はあ……私は、ただ怖い思いしただけなのですが」

こうして、この後、俺とソフィアは、部室に顔は出さず、互いに戦略を練り、顔を合わせなかった。決戦に向けて……

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