10話 意外と食えない物
「たく、とんでもない目に会ったわい」
この学校で大騒ぎを起こした張本人の爺さんを空き教室に連れて行った俺とソフィア。
この拘束された爺さん……ハワード・クラフトは、アメリカの綿花会社の社長にして大富豪、そして、ソフィアの爺さんらしいが、最近、部下の行動が目に余り嫌気がさし、ついつい、孫の居る日本に勢いで来たが、事前の申請がないため前回の懲罰により、校門で昼休みに門番をさせられていた老神先生と激突し今に至るらしい。
「それは、こっちのセリフだ」
「本当だよ!言ってくれれば、迎えに行ったのに!」
そして、身内の不祥事に本気で怒る、ソフィア。ちなみに湯原には、倒れた老神先生
を介抱してもらっている。
「だって……サプライズしたかったんだもん」
……いや、アホか、この爺さん。
「で……爺さん、アンタ、孫に会いに来ただけじゃないんだろう?目的はなんだ?」
面倒くさいので、俺は、爺さんに本題を突き付けた。そうすると、頭が冷えた爺さんは、ふてぶてしく答える。
「うちの孫をアメリカのハイスクールに転校させようと思っているのじゃ」
「いや!おじいちゃん!だから言ったじゃない私は、アメリカには、行かないって!」
ソフィアは、前も離された話なのか、断ったのだが……この爺さんも伊達に社長をやっているわけではなかった。突然しゃべり方が、品のある紳士のようになった。
「まあ、そう言われていたことは知っているよ。しかし、今はうちの会社に必要なのは、ソフィアの持つ経営の力だ。経営もゲームの様なものだ。得意だろう。お前の両親には、後で納得してもらうが、やはり、お前が必要だ。断る理由なんてあるのか?」
「そ……それは」
そう、ソフィアの断る理由は、特にない。彼女にとってこの話は、良いものであった。確かにソフィアには、ゲームの才能を生かせる仕事に就くという夢があるが、その才能は、経営にも生かせるのだから。
「無いのなら、行かないか?」
「いやだ!行きたくない!」
「わがままだけなら、関係はないな」
そして、冷徹にも見えるが、これは、経営者に必要な手腕である。しかし、ソフィアは、本気で嫌がっていた。しかし、彼女に断る明確な理由がない。
そして、俺は、なにを思ったのか、とんでもないことを言っていた。
「爺さん、すまんそれは無理だ。ソフィアは俺にゲームで勝てたことがない。コイツに黒星を飾ったまま返すのか?」
「え……エイジ?」
ソフィアは、不思議そうに俺を見るが今は、わざと無視をし、爺さんの目だけを見た。
「ほーん、そうか、ならあきらめてもらおう。次は、気味がゲームでソフィアとしてもらおう。ソフィアが勝てば、もう思い残すことはないな……」
「そうだ!だから……」
このまま、ソフィアと俺が、ゲーム勝負で結果を決めるような話になれば、いつもソフィアには勝てる俺がソフィアに勝って、話がなかったことにしてしまえばいいと思っていた。
「そうだな、ソフィアが、小僧に勝てれば、思い残すことはないだろう。ならゲームで小僧にソフィアが勝てれば連れ帰る」
計画通りだったこのままことが進めば……と思っていたのだが、爺さんは、にやりと怪しく笑ってきた。
「といえば、ソフィア連れ返す可能性は、著しく減るからのお。逆にワシは賭けてやる。次もソフィアは、小僧にゲームで負ける。負けたら、諦めてアメリカに来てもらう」
「しかし……!」
俺は、矛盾を指摘しようとしたが、爺さんは、やめなかった。
「こりゃ、ワシと、ソフィアのゲームじゃ。帰りたくないのなら、その心を、見せてもらうしかあるまい。勝てんようなら、一緒にアメリカに帰ってもらう。不公平じゃないからな、八百長だって恥ずかしくなければやったっていいのだ。フェアじゃろ。それに経営者も常勝というわけでもないしのぅ」
「二人とも!なにを話しているの?私は……」
フェアではなかった。ソフィアには、悪いが、駆け引きの中でこいつにかまっていると、この爺さんに飲み込まれてしまう。
「……分かった。ソフィアが勝てばいいんだろう」
「そうじゃ」
「あ……アンタら!」
無理だ、単純に修羅場をくぐった経験の差が、埋められない。この爺さんに完全に俺は、飲まれていた。だから、俺は、ソフィアを安心させることに一点を置いた。
「ごめん、ソフィア……けど任せろ」
「信じていいの?」
「信じろ」
不安そうな表情のソフィアは、珍しく俺の制服の袖をつかみ震えていた。しかしやるしかない。
「ふむ、成立じゃ。では、期限は一週間後。内容は……好きにせい、ゲームなら何でもよい、それの勝敗で、ソフィアが帰るか決める」
「分かったよ」
こうして、俺は、理不尽な要求をのみ、一週間の期限が与えられた。どうして俺は、月夜野の一件も含め面倒ごとを抱え込みやすいのだろうか。多少の後悔もあったが、今は進むしかなかったのだった。
この日、ソフィアは、このまま、爺さんを連れ一度、早退することになった。帰り際、教師に怒られ縮こまっている爺さんを見て、さっきまでの爺さんとのギャップを感じ、大人って分からないという感想を持ってしまった。
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