9話 老人は大切に、主人公をごらんなさい

そして、翌日の昼休み時間騒ぎは、起きたのであった。この日の天気は、天気が崩れ、どんよりとした天気であった。

「ねえ、沼田君ご飯食べようか?」

「おお、湯原(ゆばら)、今日は、珍しく弁当か」

「あはは、母さんが珍しく弁当を作ってくれてね」

俺に話しかけて来た人のよさそうな八頭身イケメン、湯原幸太郎は、見た目通りの良い奴で、俺の様な名門校には、そぐわないハグレ者にも声をかけるクラスの人気者だ。しかし、親は、スナックのママで父親は、物心つく前にどこかへ消えたりと苦労人であったりと、ラノベ主人公みたいな設定だがなぜか俺みたいなモブ男とやけに気の合う友人である。

「コータロー、エイジ!私も一緒にご飯を食べてあげてもいいわよ!」

そして、いつもの様に金髪ツインテールを揺らす、咬ませ犬ことソフィアは、俺達に偉そうに声をかけて来た。

「いや、断る。さて食うぞ、湯原、二人で」

「なによ!私が、一緒にランチをしてあげるのよ!もっと喜びなさい!というかその前に断るなあ!」

「あ……あはは、相変わらずだね、二人とも」

そして、お決まりのキレ芸をかますソフィアを見て湯原は苦笑いする。コイツ、本当にどんな時でも笑顔だからな……どれだけ人が良いんだよ。

「相変わらずとは何だ……湯原、悪いのは、ソフィアだ」

「本当よ、コータロー。悪いのは、エイジよ」

「なんだと」

「なによ」

俺は、ソフィアに無実の罪を着せられ、睨むが、ソフィアも俺を睨み返してきた。

「本当に二人とも仲がいいね」

「「仲良くない!」」

「あ……あれぇ?僕には、ものすごく仲良く見えるけれど気のせい……」

気のせいだ。俺がソフィアと仲がいいなんて、何度も言うが、億光年ありえない。

「「フン!」」

気にくわん!実に気にくわん!なぜ、コイツは、こんなに俺に絡んでくるのか、そんなに嫌なら、俺となんて飯食ってもうまく無かろうに!

「ま……まあ、沼田君、ソフィアさんと三人で食べようよ。僕だって、母さんの弁当は、みんなで食べたいし」

「む、湯原がそういうなら」

「ありがと!コータロー!」

お互いに睨み続ける硬直状態だったが、湯原がそう言うのだ仕方ない。渋々だが、俺は、ソフィアともご飯を食べてやることにした。

「うむ、俺は、唐揚げ弁当だ。流石母さん、俺の好みを知っている」

俺の弁当は、唐揚げが大量に入った弁当。男子高校生には、大変うれしい弁当である。

「か……母さん。うれしいけれど、この手紙は」

「あら、いいじゃない、お母さんのラブレター付きなんて」

「いいのか?相変わらず外人の言うことはわからん」

湯原のご飯は、のり弁揚げ物弁当……これだけなら普通なのだが、お母さんのキスマーク付きラブレターという中々に恥ずかしい一品だった。

「あ、私の大好きな筑前煮にきんぴらごぼう……お母さんありがとう」

「し……渋い」

「渋いな、外人だからステーキ弁当とばかり思っていた」

しかし、一番渋い弁当は、純粋なアメリカ人(日本国籍)のソフィアだった。きんぴらごぼうに筑前煮、サケの切り身が入った昭和なアルミ弁当箱。実に渋い。両親が親日家ということは知っていたが、もしかしたら、そこら辺の日本人女子高生より日本人らしい生活しているのじゃないか?

「エイジ……アンタさっきからわざと私のことを外人って言っている?」

「バレた?てへぺろ」

「バレるわよ!しかもテヘペロとかエイジが言うと気持ち悪い!」

まあ、これくらいの軽口は、俺とソフィアだし、良いだろう。めちゃくちゃゴミを見るような目で見てきているけれど。

「……ほ、ほら、食べようご飯!昼休み終わっちゃうし」

「そうね、いただきます」

本当にいつも湯原が空気を呼んでくれるから助かる。ありがとう、今度ハンバーガー奢るわ。

「いただき……」

俺が、弁当に手を付けようとした瞬間、廊下の方から、普段聞かない年がいった男性の叫び声が響き渡った。

「ええーいい離せぇ!アジア人めぇ!ワシは、孫に会いたいだけなんじゃ!」

「だから、爺さん!そういうことは、事前に話を通してもらわないとこちとら困るんじゃボケェ!ウチは、老人ホームじゃなくて、高校んだよ!ここにお前みたいなオムツ爺さんがいる場所なんてねえ!」

そして、その老人につられる様な喧騒……うちの顧問、老神先生が、実に汚い教師らしからなぬ言葉を浴びせていた。

クラスは突然の喧騒にざわざわと騒ぎだすのだが、一番驚いたのは、珍しく、頭を抱えるソフィアであった。

「あぁ……物凄く聞き覚えのある声が二つ」

しかしどうせ、俺には関係ないし腹も減ったので、無視して、俺は、おかずを口に運んだ。

「たく、迷惑なボケ爺だな……いただきます。……うん、母さんの作った弁当は、うまいな」

「いや、沼田君。この騒ぎで良くご飯を食べようと思ったよね……普通は気になってやじうまとかしに行かないの?」

「関係ない」

「あはは……うん、僕は、沼田君のそういった無駄に肝の据わった性格がうらやましいよ」

無駄とは、なんだ?俺の人生に無駄の二文字なんてないのだが……しかし、なぜソフィアは、頭を抱えている……きんぴらごぼうと何かおかず交換してもらうつもりだったのに。

そして、爺さんの声がデカくなってきた。近づいているのだろう。

「だーかーらー!離すのじゃ!ソフィアァァァァ!おじいちゃんだぞおぉぉぉぉ!顔を見せておくれえぇぇぇぇ!」

「うるせぇ!クラフトの教室は、この先だから黙れやボケェ!」

廊下から聞こえる声はソフィアという女性を探しているようでクラスの視線がソフィアにそそがれ、ソフィアは、恥ずかしそうに顔を隠した。

「最悪……やっぱりお爺ちゃんじゃない……」

「え!?ソフィアさんのお爺さんって、アメリカに住んでいるんじゃないの!?」

「あっそ、ソフィアの爺さんが、来ているのか。先に言えよ、驚いたろう。あ、きんぴら交換しない?」

「……本当にすごいよね。なんで沼田君は冷静なのさ」

俺は、そんな爺さんのことなど、どうでもよく、いま、俺は、目の前にある弁当のことを考えることに精一杯だったのだが、そう言うわけにもいかず、ガラガラというとの開く音がし、俺の居る教室に身長と鼻が高い爺さんが乗り込んできた。

「ソフィアあぁぁワシじゃ!お爺ちゃんじゃぞおぉぉぉぉ!」

「おい、ソフィア。爺さんがきているぞ」

「知らない……ことにして。なんでお爺ちゃんが、日本に来ているのよ……」

……どうやらソフィアも、予想はついていたらしく、知らないふりをしていようとしたのだが、そんなことが、血のつながった祖父には、通用するはずもなかった。

「ソフィアさん、残念なことにお爺さんが、凄い形相で近づいてくるね」

「ソフィアあぁぁぁ!おったな!お爺ちゃんだぞ!」

「……シリマセン、ワタシ、あいどんとのー」

わざとらしいカタコト英語で、ごまかそうとするソフィアだが流石に無理があるだろう。

「沼田、後は頼んだ……この爺さんパワフルすぎる……年金制度爆死しろ……カク……」

「老神先生め……面倒ごとを押し付けやがって」

ソフィアの爺さんに引きずられ続け力尽きた老神先生に俺までソフィアの様に頭を抱えてしまいそうであった。

「帰るぞ!アメリカへ!おじいちゃんと、アメリカの田舎でゆったり暮らそう!もう、お爺ちゃん経営者とかいやだあぁ!」

「お爺ちゃん!何度も言っているでしょう!私は、あんな糞田舎になんか住みたくないって!私は、洋ゲーって好きじゃない!」

「いやじゃあぁぁぁぁ!いやじゃ!経営なんてしとうない!」

狐耳ロリババァみたいに喚き散らす、ソフィアの爺さん、とにかく収拾がつかない。

「経営なんて……」

「あ!ぬ……沼田君!」

そして、爺さんが大暴れし、ガタンという音は、俺の机から発せられたものであり、机の上にあった俺の弁当が、地面に落ちた。そと同時に、俺の中にあった道徳等の理念が抜け落ちた。

「なあ、湯原、ロープ持っているか?園芸とかで使うやつ、まあ、この際、縛れればいいが」

「まあ、園芸部だし、今日使う結束バンドなら持っているけれど……沼田君、何に使うの?」

「いいか、湯原、何も考えず、あの爺さんを抑えてくれ、一瞬でいい」

「う……うん分かった。はい、結束バンド」

「サンキュ、じゃあ、俺の合図で、あの爺さんを抑えてくれ」

「?あまり、乱暴は、しちゃだめだよ」

俺は、湯原から、手渡された結束バンドを手に取り、爺さんの鎮静化をすることに。園芸部のほんわか系イケメンの湯原は、きっと俺が何をするか分からないのか、ポカンとしていた。

そして、俺は、爺さんの鎮静化作戦を決行した。

「湯原いまだ!」

「お爺さんごめんなさい!」

湯原は、爺さんを止めようと前から、レスリングの様に爺さんの懐に入った。

「なんじゃ!邪魔するな!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

暴れる爺さんを必死に抑える湯原を横目に俺は、爺さんの死角に入り込み手に持った結束バンドで輪を作り、爺さんの親指同士をつなぎ思いっきり引っ張る。

「そして、ふん!」

「こ……小僧なにをグぎゃあ!」

親指が拘束された爺さんに俺は、本気の足払いをし、爺さんを何もない床へと転ばした。老人だろうとなんだろうと関係はない、弁当の恨みは怖いぞ。

「おい……爺さんどうしてくれるだ……俺の弁当落ちちまったぞ」

「そんなことどうでもい……うぴ!」

俺は、爺さんの頭を冷やさせるため、持っていたアイスカフェオレを爺さんの顔にかけてあげた。うん、俺優しい。

「ちょ……え……エイジ!?流石にコイツだろうとやりすぎ……」

「ああ、ソフィアはやさしいのう……なら一緒にアメリカに……」

最初は、祖父を心配していたソフィアだが、爺さんの一言で、ソフィアの顔は、鬼の様に恐ろしいものとなった。

「エイジ、ホットのお茶あるけどいる?」

「ソフィア、サンキュ」

「ちょ!二人とも!それは冗談じゃないよ!ダメダメ!」

湯原が止めなければ、この爺さんにホットのお茶をかけてやっていたが、とにもかくにも、爺さんは、鎮静化に成功したので、俺達は落ち着いて、爺さんの話を聞くことにした。

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