8話 帰宅中の闇、アイドルって

「ソフィア先輩とそんな事があったのですね」

「だろう、大変だったんだぞ」

 今日の部活は、水神先輩の同人の手伝いだったのだが、俺と月夜野は、初心者だったため、手伝えることはなく、みどりも委員会で帰りが遅くなるので月夜野と学校の帰りであった。

「その割に沼田先輩は、楽しそうに話しますね……実は、ソフィア先輩とは、かなり仲がいいのじゃないですか?」

不思議そうに、俺に聞いてくる月夜野だったが、今の話でいったいどこが楽しそうだったのかよくわからないのだが……苦労しかなかったぞ。

「うん、ありえないな。俺がソフィアと仲がいいなんて億光年ぐらいあり得ない」

「良く分からないですが、沼田先輩は、ソフィア先輩と仲が悪いと言いたいのは、分かります。けれどいつも死んだ魚みたいな目をした先輩から話の話題を振って来るなんて、めちゃくちゃ珍しいじゃないですか」

「よく考えてもみろ、あんなに自分のやりたいことを全力でやっている女。俺みたいなてきとう男が人として好きだと思うのか?」

そう、俺は、できることなら、何もせずに平和に過ごしていきたい、将来の夢は、不労所得者。たいしてソフィアは、全力でゲームに力を入れ、将来は、ゲーム関係の仕事に自分のゲームの才能を生かしたいと語っていたことを思い出すと、やはり俺と、アイツでは、分かり合えないと改めて思う。

「人として、好きでなくとも異性としては好きかもしれませんよ。磁石のSとNがひかれあうみたいなものですよ」

「揚げ足を取るか、この似非アイドルは」

「そうですか?私これでも人に憧れられる存在ですから。私のことを異性として好きな信者たちは、多いと思いますよ?もしかしたら、そんな信者と私が恋をするかもしれないのですよ。ありえないことが起きるかもしれないですしね」

悪戯ぽっく笑う月夜野である。たまにこいつが何を考えているのかわからなくなってしまう。

「そして、アイドルらしからなぬ問題発言……そこまでして、俺とソフィアをくっつけたいのかお前は」

「だって、私が、初めて見た先輩同士の会話って、本気の喧嘩じゃないですか。先輩同士が対面する初部活、私は、二人がまた喧嘩すると思って心配していたのに次あったら、仲良さそうに二人でゲームをしているのですよ。それは、実は、二人の仲がいいとか疑っちゃいますよね」

いや、そんな顔を見ただけで喧嘩なんて流石にありえないだろう。確かに最初、部室ソフィアと会った時は、今後のことを考え、口調が強くなった自覚はあったが、実際ゲームをするとやっていけそうな気がしたしな……喧嘩って、原因が無きゃしないよな。あの時は、俺の口調が強くて喧嘩してしまったわけだし。

「なら、耳年増なアイドルさん俺も恋愛関係になるかもしれないって言う事だが、それでもいいのか?ラッキースケベとはいえ、女性のオッパイを揉む俺だが良いんだな?」

「私は、男性から受ける好意には慣れていますよ。だって超絶美少女アイドルhiyoriですから!ふふん、私のことを愛していると言ってもいいんですよ?なんたって、私は、言われ慣れていますからね」

面と向かって言われると恥ずかしがるくせに……月夜野のこの自信満々な二ヤけ面になんか少し腹が立った。意地悪してやろう。

「あー、月夜野が可愛い。そのメガネに隠れたくりくりした瞳もかわいいし、不遜な態度も、そのオッパイも、足もかわいい」

「ふふん!もっと褒めていいんですよ?」

まだ余裕そうな月夜野だったが、これはまだ序の口、ここから、俺のほぼ17年という歳月で培った褒めのノウハウの本領はここからだ。

「なあ、月夜野?」

「なんでしょうか沼田先輩?というか、肩に先輩の手が乗っていますよ?」

「そりゃ、月夜野が可愛いからな。悪いか?hiyoriとしては、慣れているだろう?」

「そうですが……そ……その近いです、沼田先輩」

俺は、月夜野の肩を掴み、顔を近づける。普通に犯罪だがすでに胸を揉んでしまった時点で俺は、色々と吹っ切れている。……まあ、人としての道徳を逸脱しない程度になのだが。これにより、月夜野の顔は、赤くなってきていた。

「悪いか?月夜野の顔をしっかり目に焼き付けたくてな……本当に可愛いな、まつ毛も、そのきめ細やかな肌も」

「それは、アイドル……ですもん。スキンケアは。お仕事です」

「お仕事ね……ならさ、月夜野……」

「なんでしょう?」

「俺とは、hiyoriじゃなくて月夜野でいいんだぞ」

「ふ……ふふん!私は、私ですから!」

顔を真っ赤にして強がる月夜野。しかしもう一押し、そんな気がした俺は、トドメの一言を月夜野の耳元で囁いた(ソース元、紫が持っていた少女漫画)

「俺は、hiyoriでなく、月夜野日和を愛している。隠していてもかわいいんだからなお前。好きだ、日和……」

……やっていて思うが、紫の持っていた少女漫画は、少し大人向けすぎないか?みどりからもらっていた漫画だから、恐らくみどりの趣味だが……今度みどりが、紫に漫画をあげるときは、まず、俺が検閲しないといけないな。

しかし、流石は、少女漫画。アイドルとは言え、一人の少女である月夜野は、顔を真っ赤にして、俺を押しのけた。

「ぬ……ぬぬぬ……沼田先輩!?あんた、なんてとんでもないことを口走っているのですか!別にそんなこと言われても私は……私は……うれしくないです……」

「ハハハ、つれないな日和は……」

「沼田先輩……すみません。本当に謝りますから、下の名前で呼ばないでください。今言われるととても恥ずかしいです……い……いや、やっぱり恥ずかしくなんてないです!全然恥ずかしくなんかないです!こんなのノーカンです!」

勝った……。

まあ、競っているわけでもないので、勝ち負けなどないが、これで、俺が言いたいことを思いのままに伝えられる。

「はは、そう言う事だよ、月夜野。お前も、俺に迫られて恥ずかしがるのを認めたくないように俺が、ソフィアと仲がいいことは、認めたくないんだよ」

「むぅ……なぜそこまでしてソフィア先輩と仲がいいことを認めたくないのですか?別に、私の事の様に本能的に身の危険を察知したわけでもないのに」

ムッとむくれる月夜野は俺に聞いてくるのだが、俺の行動に身の危険を察知するのか……俺ってもしかして不審者か?

「認める訳には、いけないよ。認めちまったら、俺は変われてないからな……」

俺は、そこまで言って、自分が今、何を言っているのかと思い返し、言葉を止めた。

「変わるも何も、沼田先輩は、もう少しその、死んだ魚みたいな目つきをどうにかした方がいいので絶対に変わった方がいいです」

「どういうことだよ、おい、後輩君」

「そのままの意味ですが?それに、確かにさっきの沼田先輩は、少し……かっこよか……じゃなくて、良いなとか思いましたが、生憎、私は、何かに熱中できる人の方が好きですのでごめんなさい」

……本気で告白をしたわけでもないが、こうやって面を向かってフラれる(仮)をされると全国のモテない男子には、同情を禁じ得ない。

「ほーん、誰がカッコいいって?ほれ、名前をいってみ」

「私が先輩をカッコいいなんてこれっぽっちも言ってなんか……死にたい、あんな演技にキュンとくるなんて」

思い出して悲しそうな表情をする月夜野。俺は、さっき言いかけたことも月夜野のおかげで喉元を通り過ぎたので、少しソフィアの話をしてやろう。

「……まあ、いいや。そんなに興味あるなら、俺とソフィアのことを教えてやろう」

「あ!本当ですか!」

嬉しそうな顔をする月夜野。こいつもなかなか喜怒哀楽が素直である。まあだから同じようなソフィアのことも気になるのだろう。

「そうだな、ソフィアが、なぜ俺に勝てないと思う?」

単純な質問。ゲームの天才で俺以外の人間には、俺の知る中では負けたことがない。ではなぜ、特にゲームの才能もない俺にソフィアは負けるのか。最初に月夜野が疑問に思うならそこだ。

「沼田先輩が卑怯な手ばっかり使うからでしょうか?」

「ソフィアは、イカサマの類も知ったうえで相手に勝つ。というか、なぜいきなり俺が卑怯な手を使ったとか思うんだよ……もっと俺が強いとかそういう発想にはならないのか?」

「なりません!先輩みたいなプライドが無くて、人間性もゴミみたいな人ですもん。まずは底を疑いますよね!」

胸を張って俺の悪口とを言う月夜野……俺、いつもコイツにどういった目で見られているのかは、絶対に考えない方がいい気がした。

「……そうだな。月夜野にも苦手なタイプの人間っていると思うんだ」

「それは、こういった仕事をしていますから、やはりそういう方は、居ますが」

「そういうことだ。単純にソフィアのゲームスタイルは、王道を行く戦い方だが、俺は、搦め手やら、罠やら、予測されたうえで、罠を仕掛ける戦い方」

「はあ、つまり、沼田先輩の戦い方は、後味が悪い訳ですね」

……さっきから、月夜野の言葉が心に突き刺さる。おそらく、素の感想なのだろうが、それゆえ、ダメージがデカい。俺は、強く自分を持ち、話を続けた。

「ほら……あれ、俺とソフィアの戦い方って、じゃんけんで言う、俺がチョキ、ソフィアがパーなんだ……つまり、というか、分かるだろうが、戦い方も何もかもソフィアの戦い方にとって俺の戦い方は、天敵なんだよ」

「それなら、ソフィア先輩がグーを出せば勝てるはずですが」

……アホだ。流石、お馬鹿系アイドルとして売り出し中のアイドルなだけある。話しの核は、そこじゃない。

「あいつがグーを出すときは、俺がパーを出す」

「……えっと、つまり、ソフィア先輩が戦い方を変えるときは、沼田先輩も戦い方を変えているという事でしょうか?」

「まあ、そう言う事。お前もソフィアも分かりやすいほど素直だからな。なにか企んでいる時は、大概顔か、行動に出るし」

そう、ソフィアは、必ず何かを仕掛けるとき前髪をいじる癖がある。俺は、それを見て、次くる手を考え戦い方を変えるから、ソフィアは、俺に勝てない。

「いや……理論は、分かりましたが、それを正しいとすると、沼田先輩って完全に非凡な才能を持っていることになるのですが……」

「そうか?凡人の俺が持つ個性の一つだと思うのだが」

俺は、決してこれは、才能じゃないと思う。やろうと思えば、俺以外だって絶対できることだ。ましてや、プロのゲーマーなら息を吸うようにしているはずなのだから。しかし、月夜野は、驚いた表情を俺に向ける。

「いや、相手の策略とかを癖とかで見抜き通すことなんて、普通はできませんよ」

「え……できるだろう普通?」

「先輩ってもしかして、なろう系俺tueeeeeee系な男子ですか」

……俺は、異世界にも転生していないし、特殊な才能を授かって、俺やらかしました?とか自分のやったことの重大さを認識できない様な輩では決してないのだが。

「ちがうわ……普通のどこにでもいる男子高校生です」

「……先輩。忘れているのかもしれないですが、ウチの高校って全国でもトップ争いをする名門高校ですよ?入れただけでもすでに普通の高校生じゃないのですが」

「そうかもしれないが、お馬鹿系アイドルで売り出している女の子が、その名門校に通っていることの方が驚きだと思うぞ、世間一般的には」

「それは、しょうがないです。マネージャーがそう言う設定で売り出したら売れてしまったんですから!」

なんとも世知辛い世の中だ。今や、アイドルにも設定があるだなんて、ファンが知ったらショック死する様なセリフだろうに。

「な……何か問題ありますか先輩?」

「むしろ問題しかないのだが」

「そうですよね!おかしいですよね!人前では、お馬鹿なフリをしておきながら、クイズ番組では、どう回答したら、視聴者が楽しいかとか考えながら発言しているなんて!あはははは!私も笑っちゃいますよ!あははは!お茶の間に恥をさらしてお金をもらっているなんて……これだったら知的キャラで行けばよかった!あははは、おかしいですよね、江戸幕府を開いたのが織田信長なんて、お馬鹿キャラ通り越して、ただのキチガ○じゃないですか!死にたい……誰か私を殺して、異世界に転生させてくれませんかね」

笑ったり、泣いたり、怒ったり……アイドルって大変なんだな……俺は、手を合わせ月夜野に合掌。

「せ……先輩までそうやって残念な人を見るような目で見るんですね……うう」

結局この後は、月夜野を慰めながら帰り道を歩いて帰ったが……分かったことは一つだけあった。

アイドルも仕事。闇は溜めるものだという、業界の闇の部分だった。

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