7話 これを読んだらSANチェックです(嘘)
部活初日、今日は、ソフィアが俺の歓迎会と称し、TRPG……テーブルロールプレイングゲームをすることになった。このゲームは、ゲームマスターと言う進行役によって進められるゲームで、ソフィアが、進行役の元ゲームは、進められているのだが……単純に、ソフィアが俺とゲームで戦いたかっとだけなのじゃないかと言う無粋なことは、言わず楽しんでいた。
「さて、ラストシーンよ。香織を助けるためには、SANチェックを二回してもらうわ。もちろん最大値の1d100で!」
「このヒロインを助けられるのは、俺だけか」
1d100……十面ダイスを二つ振り、十の位と一の位で確率を出し、その値で結果を出すらしいのだが、このSAN、と言う値がゼロになれるとゲームオーバーらしく、俺のキャラクターは、残りSANが、25しかないため、25以下の数字を二回出さないといけない。失敗すると1d100のSANが減ってしまうため、俺は、ここで失敗するとゲームオーバーである。
「面目ないです……沼田先輩にこんな大役任せてしまうなんて……」
「そうだね……私や、のびちゃんは、まだSANが60以上あったから、成功確率も上がったのだが……少年のキャラクターじゃ難しいのかもしれん」
そうして、話からなぜか、俺ばっかりSANを削られ、最終決戦、ヒロインの香織を助ける所で、助けられるのは、俺だけになってしまった……これは、ゲームマスターの悪意を強く感じてしまう。だって、渋川井先輩と月夜野は、これまで、SANの削れるイベントが極端に少なかったのだから。
「これ、俺がやんなきゃダメ?」
「ダメよ。ねえ!糞部長改め、サブマスター!」
「……僕から言わせると、ソフィアタソの悪意をものすごく感じるけれど。確かに、ここは、沼田氏がやるしかない」
サブマスター、進行役の手伝いをする水神先輩も、初めて会った時に見せた笑顔ではなく、ソフィアの容赦のなさにドン引きしていた。
「ささ!サイコロを振るのよ!英二!」
うきうきと俺にサイコロを振らせようとするソフィア、鬼の首を取ったように笑顔だが、鬼なのは、完全にソフィアであった。
「……はいよ。ふりゃあ良いんだろう。振れば」
俺は、ヤケクソにサイコロを振ったのだが、一回目の結果は、成功。24がでて成功。
「危なかった……」
「良かった。香織を助けなければ、私たちは、負けてしまっていたからな」
「あと一回です!沼田先輩!私!応援します!」
「渋川井先輩見ていてください!先輩の為なら成功させて見せます!」
「沼田先輩!?私は!」
安心している渋川井先輩に良く分からん応援をする月夜野……しかし、あと一回成功しないといけない。これは、割とプレシャーになった。とりあえず、月夜野は、スルー。
「チッ!まだ一回あるからいいけれど」
舌打ちをするソフィアに俺は、絶対勝ちたいとお言う気持ちで二回目のサイコロを振るのだが、出た目は……失敗。
SANの減少が決定した。
「死んだわね!ふふん!」
「まだ、減少値が決まったわけじゃない!」
そう、減少は決まったが、まだ、助かる見込みはあった。25以下を出せばだが……運命の一投。俺は、サイコロを振る。
「頼む!」
「ふふ……ようやく私が、エイジを倒すのね……って!な!減少は……1!?」
サイコロは、1を出した。つまり、俺は、ゲームオーバーにはならずついつい笑ってしまう!
「よっしゃ!」
「やりました!香織ちゃん救出です!」
「よくやった少年!」
プレイヤー側は、歓喜に包まれるが……ゲームマスター側のソフィアは、震え、水神先輩は、少し安心していた。
「……嘘でしょ」
「ソフィアタンの負けだ……ここまでやって、沼田氏を倒せないのだからあきらめよう」
……こうして、俺達は、ゲームに勝利をし、またソフィアを倒した。ソフィアは、苦虫をかんだ表情をしていたが勝利の余韻に俺は、浸ってやった。
そして,TRPGが終わると辺りは、暗くなっていた。校舎の中も静かになっていたが、俺とソフィアは、二人で部室に残っていた。
「……先輩達は、帰ったし月夜野もバイトでもういないんだから俺達も帰ろうぜ……あ、王手」
「絶対いや、私が勝つまで今日は、帰らない。むむ……大駒で受けるしかないわ」
「いや……そしたら、後何局指せばいいんだよ。詰み」
「え!嘘!で……でも……あ、逃げればよかったのね……もう一局!」
決して放課後残るカップルの様な蜜月はなく、TRPGの後は、ソフィアが、俺に将棋を挑んできたので、受けてやったのだが……一度勝ってしまいその後、ソフィアが勝つまで指し続けることになり、二時間……いまだにソフィアは俺に勝てなかった。
わざと不利になる手を指そうものなら、机の下で俺の脛が思いっきり蹴飛ばされるため、わざと負けることは許されていなかった。
「なあ、ソフィア。とっくに下校時間すぎているぞ、もう帰ろうぜ」
「絶対に嫌。勝ち逃げなんて許さない」
ふくれっ面のソフィアに俺は、溜息をついてしまう。
「はあ……別に今日勝たなくたって、いつか勝てるだろう。それにたかがゲームにそこまで真剣になぜなれる」
「たかがゲームだから真剣になれるのよ!それにあんたに勝てないと私が納得いかない……私には、これしかないから!」
「それ、初めてゲームした時にもいってたな。けどソフィアは、成績が悪い訳でもないだろう。普通に暮らしていれば、普通に人生を送れるだろうに」
そう、ソフィアは、負けず嫌いを通り越して、なぜか勝ちに固執していた。俺は、前から不思議に思っていたことだ。ソフィアは、成績も悪くなく……言葉使いさえ直せば悪くない人生を送れるはずなのに……
しかしソフィアは、俺の質問にいつもなら、怒って来るはずなのに今日は、そう言ったことはなく頭を抱えながらも冷静さを保っていた。
「普通ってそんなにいいもの?」
「なんだそりゃ、悪くはないだろう」
「ま……そうよね……普通は、そう答えるし、私もそう思う。けど、悪くないだけで、良くはない。良くも悪くも平均値……それが、ゲームを取っ払った時の私なの」
妙に落ち着いた受け答えをするソフィアは、少し不気味だったが、言いたいことは、分かる。普通は、確かに俺の様な自堕落な人間だって生まれるのだから……。
けれど俺は、なんとなく察していたソフィアにも何かしらの悩みがあって、それと戦うからこそ今のソフィアがあるのだから。だから慰める訳ではないが、認める努力は俺にもできた。
「まあ、自己評価が、そう言ったものならどういってもしょうがないかもしれんが、ゲームが無くてもきっと俺は、お前とこうやって仲良く喋れるだろうよ。お前は、そんだけの魅力がある人間だぞ」
「へぇ、エイジもそうやって人の気持ちをいたわって慰められえるのね。あと。私とアンタは、仲良くない。敵なんだから……にしし」
ソフィアは、そう言うと、楽しそうに笑っていた。入学の当初から、俺は、ソフィアを見ていたが、初めてこいつが笑う所を見た。
「なんだ、ソフィアも笑うんだな」
「私だって、楽しかったら笑うわよ……もう」
「そうかい……俺は、てっきり笑顔は、故郷のアメリカに置いて行ったのかと思ったよ」
「……だから、言っているけれど、私は、日本生まれ、日本育ち。国籍も日本よ。人種だけで言えばアメリカ人だけれど」
「地球育ちのサイ○人みたいな設定乙!」
「いや、うん……間違えていないような気もする」
クラスでもするくだらない話をし、時間を忘れこの後も話続けていた。
そして俺達は、すっかり忘れていた。話始める前がとっくに下校時間を過ぎていたことに……
「あいびきや不純異性友好はいねぇがーん……ありゃ、全……なんちゃら部の部室、電気がついておるじゃないかー、残って不純異性友好かー!」
部室棟を回ってきたのは、宿直の見回り教師……声からして沼田先生の様なガバガバ巡回ではなく、名門校に居がちな頭がちがち教師(髪の毛はない)の声が聞こえた。
なんちゃら部とかつけないで、全部と言っちゃえばいいのに真面目に部室の名前を言おうとしている辺り頭は絶対に固い……
「げ!今日の宿直ハゲじゃない!ヤバいわ!」
「ハゲって……」
相変わらず口の悪いソフィアであったが、確かにヤバい、時間はすでにゴールデンタイムも終わっていて、男女二人が部室に残っていたら、なにをしていようが問題になってしまう。
「エイジ!こっち!」
「お……おい!」
俺は、ソフィアに手を引かれ、掃除用具入れに入れられてしまう。……狭い空間に二人で隠れるが……胸の感触などは、一切なく、すっぽりと俺たち二人は入ってしまった。
「……なによ、残念そうな顔して」
「……いや、こういう場面って、胸が当たってドキドキするものかと思っていたがそんなことなかったなって思って」
キッと俺を睨むソフィアだったが、その顔は、どことなく赤かった。よく見るとソフィアは、俺の胸板に顔をつけていたのだった。
「ム……!貧乳で悪かったわね」
「んーなんだ……電気がつけっぱなしなだけか……しけてるねぇ、不純異性交遊見て、今日のネタに……今のはなし……」
宿直のハゲは、少し気になることを言い、部室を出て行ったのを確認し、俺とソフィアは、掃除用具入れから出た。
「助かったよ、ソフィア……」
「そ……そう……」
「さっきから何顔を赤くしているんだ?」
「そ……それ言わないとダメ?」
狭い空間から脱出して、顔の色も元に戻るのかと思ったら、ソフィアの顔は、余計に赤くなっていた。しかし俺だって気になるものは気になってしまう。
「……えっと、俺の口臭かった?」
「違う」
「ソフィアの昼飯、にんにくがいっぱい入っていたとか?」
「もっと違う!デリカシーなさすぎ!」
最近デリカシーがないことをよく言われる俺だったが、そんなにデリカシーがないのだろうか……少し不安になってしまう。
「いや、じゃあなんだよ」
「本当にエイジってデリカシーないわね……私が感じたのは……」
「感じたのは?」
「アンタ……胸板が意外と厚いのね……ってこと」
……それって顔を赤くして言う事か?女子的には、熱いポイントなのか……?
「なあ、それって顔を赤くして言う事か?」
「知るかバカ!」
結局この日は、このまま帰ることになったのだが、帰路でやった思考ゲームに熱中してしまい帰ったころには、眠っていた紫と怒ったみどりが待ち構えており、こってり絞られてしまうことになった。
もう少し、俺は、小学生の妹がいることを自覚するべきだったのかもしれないと考えてしまったのであった。
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