Fly High!

紅月赤哉

本編

第1話

 寺坂知美はコートに立っていた。

 見間違うはずもない、バドミントンのコート。小学生の時から続けているバドミントン。コートに引かれた線の間にシャトルを何度も打ち込み、逆に落とされたりと試合をこなしてきた。

 その状況を受け入れたときにはすでに試合は始まっていて、自分の体がショートサーブを勝手に打つ。

 その時点で、知美は夢だと気づいた。

 相手はまだ一年生の頃、各学年だけで順位を競う学年別大会で戦った相手。その時は、自分が何とか差し出したラケットにシャトルが当たって跳ね返り、ぎりぎり勝つことができた。

 運と言えば運で、それをたぐり寄せたのは実力だと、周りは言ってくれていた。


(でも……やっぱり強い)


 自分よりも相手が強いと分かった上で、勝つために思考を巡らす。それがたまたま上手くいった。今度はどうなるのか。


「一本!」


 夢の中での自分は、自信を持って宣言する。それに呼応してパートナーの菊池里香が応え、相手ダブルスが「ストップ!」と対抗する。

 予定調和の中でシャトルが素早くお互いのコートを行き来していく。だが、その均衡も崩れた。


「あっ!?」


 自分へと来たスマッシュを知美は誤って高くあげてしまう。そこを狙いすまして相手がラケットを振りかぶり、打ち下ろした。

 そのシャトルはまっすぐに知美へと向かい――


「きゃあ!」


 知美は悲鳴を上げて布団を跳ね上げた。

 自分の声に驚いて、しばらく肩で大きく息をしていた。しばらくして落ち着いてくると徐々に口を小さくして呼吸の量を少なくしていく。完全に落ち着いたところで胸に手を当てながら最後に一度だけ大きく息を吐いた。


「……びっくりした」


 自分の格好はいつも着ているピンク色のパジャマ。肩の後ろまでかかっている黒髪は寝癖がかかってボサボサになり、目は悲鳴を上げた反動か涙が溜まっていた。時計を見ると朝六時半。いつも起きる時間よりも少し早い。しかし二度寝するほどでもなく、知美はそのままベッドから降りた。窓を開けると太陽が照っているも、その光は少し前よりも弱い。

 今は九月。本格的な夏が過ぎて秋口に入ろうとしている。北海道は特に八月を過ぎたら一気に寒くなったり、また八月下旬の暑さに戻ったりと不安定な気候だ。今日は前者のようだった。


「起きちゃったし、もういいや」


 知美はパジャマを脱いで簡単に着替える。制服の下に着るTシャツに下はハーフパンツ。これから朝食を食べて洗顔等し、学校に行く準備をする。いつもの手順をするだけなのだが、何故か体が重かった。夢見のせいだと思い、頭を押さえる。


「やっぱり不安なのかな」


 押さえたままで視線を移す。その先にはラケットバッグ。現在所属しているバドミントン部。そこで使っているラケットが二本入っている。

 徐々に現実が身長百五十前半の小さな知美に、大きなプレッシャーを与えていた。

 寺坂知美。浅葉中二年。

 バドミントン部の部長に就任して最初の試合の前日だった。



 * * *



「そんな夢見たんだ。気にし過ぎじゃない?」


 掃除のために教室の後ろに集めた机を前に出しながら、菊池里香は言った。ショートカットで縁なし眼鏡をかけた彼女は知美よりも頭一つ高い身長がある。同じセーラー服を着ていても、菊池のほうが一学年上に見えて知美はこの場に無関係なのに少し落ち込む。

 菊池が身長を武器にスマッシュ。知美がレシーブという攻撃に特化したダブルスとして二人は組んでいた。

 三年生が卒業した今、浅葉中バドミントン部の女子ダブルスの第一位として明日の試合に出る。


「だって。全国とかまでいった先輩達がいたのに、うちらってぱっとしないし……なんかほかの中学に馬鹿にされたら情けないというか申し訳ないというか」

「そこまでトモって部に愛着あるの? いいじゃん。私達は私達だよ」


 菊池はそこで話を終わらせててきぱきと机を運んでいく。知美もこれ以上話を蒸し返さないようにと無言で机を並べたが、内心では穏やかではない。

 確かにそこまで歴史のある部でもなく、強いプレイヤーがたまたま一つ上に何人か存在しただけ。部として特に伝統を守るということは必要ない。

 だが。


(昔からずっと見てきた人達から、部を継いだんだから何かふさわしいことをって悩んじゃうんだよね)


 自分の性格が悪い方に流れていると知美は思う。そう思い悩んでしまうほどの責任感も部長を任された要因だと顧問からは言われていたため、否定するものではないが、やはり思い悩みすぎというのは自分の最大の問題点だと知美は自覚している。

 いろいろ考えているうちに机を一通りそろえなおして、掃除は終了となった。菊池と二人で体育館に早足で向かう。今日は明日の試合の最終調整ということで少し早めに練習を切り上げると顧問から言われていた。掃除があった分、すでに準備が終わって練習が始まっているとしても不思議ではない。


「トモー。夢のこと気にしてたら、明日固くなって実力出せないよ」


 早足の間に菊池が後ろから話しかけてくる。知美は一瞬顔を向けて軽くうなずく。聞いているというアピール。


「それで負けたらそれこそトモが悩んでることになるでしょ? いつも通りやろ?」

「……そうだね」


 そのいつも通りが難しいと思っても、知美にはこれ以上言えなかった。菊池は副部長に任命されているが、実際に何かしているかと言われると特にしていない。知美がいない場合に彼女の役目をするくらいだ。そんな違いで、知美は溝があるように思えていた。


(私だけが空回りしちゃうのかな……)


 憂鬱のままに体育館に付き、扉を開ける。横にスライドするドアを軽く開けて隙間から中へと滑り込んだ。

 知美の思ったとおり、すでに部活は始まっている。

 入り口のところには男子部。少し離れたところで女子部が荷物を固めていた。


「掃除おつかれー」


 入り口付近で柔軟体操をしていた見知った男子に声をかけられた。知美は一度ラケットバッグを背負いなおしてから言葉を返した。


「竹内。どこまですんだの?」

「全員でのフットワークは終わってる。後は男女別の練習だけだな」

「そっかぁ。ありがと」

「あ、そうだ。あいつ、まだ来てないみたいだぞ」


 竹内と呼ばれた男子が言う『あいつ』

 知美は気分を重くしながらも「ありがとう」と答えて女子の集まっている体育館ステージに小走りで進んでいった。

 三年生が引退して、男子部の新部長となった竹内と知美はお互いにどのように部をまとめるかについて意見交換を頻繁に行っていた。その中で、最近の話題を占める『あいつ』はラケットバッグを置いて見回してみると確かに見えなかった。来ていない部員はとりあえず置いて、知美はステージの男子から影になるところに隠れた。更衣室に向かう手間も省くためにさらっと着替える。次に出てきたところでちょうど顧問が女子全員に収集をかけた。


「集まってー。はい、注目」


 年齢は三十には届かない女性。新体制になってから新たに副顧問としてバドミントン部に来た女性教師だ。バドミントンは学生時代にしていたが、特に大きな大会には縁はなく、特に指導力に秀でたところもない。基本、知美達に任せて連絡事項だけ伝える。大会に引率だけするという、典型的な中学部活の顧問だった。


「明日の話ですが、明日は午前八時にスポーツセンターに集まってください。初めて開催される大会だから勝手が違うだろうけど、いつも通り実力を発揮してね」

「多向先生。初めてって、どういうことですか?」


 一年生部員が副顧問――多向美香(たむかいみか)に向けて手を挙げて質問する。知美も一年生に説明できる人にはしているが、人によって交流するレベルも異なる。質問した女子は、ちょうど知美とは接点がなかった。多向は教科書を読むようにすらすらと答える。


「明日の『鹿島杯』っていうのは、中学の公式な大会ではなくて、この市内のみの大会なの。一つ上の世代が全国までいったから、今後、もっと他の学校同士で切磋琢磨する機会を増やすってことで今年からできたわけ」


 多向の回答に納得して、一年生は「ありがとうございました」と礼を言う。その他に鹿島杯についていくつか説明した後で、特に議題もないと言うことから練習に戻るよう多向が全員に言った、その時。体育館のドアが勢いよく開かれて、一人の女子生徒が走って入ってきた。


「すみません。遅くなりました」


 すでにジャージ姿の女子は元々色素が薄いのか、薄い茶色のショートカット。平均的な女子からすれば少し目が大きめで口元にはほくろ。一年の中でも特に顔立ちが整ったその女子は、その場にいるだけで存在感が際だっていた。


「朝比奈さん。何度も言うけど遅刻しないでね。悪い癖よ」

「すみません」


 朝比奈、と呼ばれた女子生徒は小さくなって謝る。しかし知美は多向が視線を外した後での目の鋭い光に気づいていた。朝比奈美緒(あさひなみお)は、けして反省はしていない。今も自主的に筋トレや運動をして、ラケットを持つ段階になって初めて合流したのだ。

 朝比奈美緒。

 三年生が引退した新体制の女子バドミントン部の中で、実力ならば一番の女子。三年生がいた頃から頭角を表していて、実際インターミドルの地区予選にも出ることが内定していた。だが、直前の練習で右足首を怪我をしてしまい、出られなかったのだ。

 だからこそ、実力に反して実績がない。今回の鹿島杯は市内大会。公式の大会ではないとはいえ、彼女の力が発揮されるだろう。

 誰もがその実力を認めているだけに、こうした遅刻にもあまり強く言えない。唯一副顧問の多向や、今まで男女両方の顧問をしていて、今は男子部をメインに指導している庄司くらいだ。


「じゃあ、解散。怪我しないように頑張ってね」


 多向の最後の言葉は、朝比奈へと向けられたように知美は思った。その時はまだ副顧問ではなかったが、就任した際に庄司から聞いたのかもしれない。

 解散して練習に戻ると、知美はあらかじめ作っておいた大体のタイムテーブル通りに進めようとみんなに言った。


「えーっと……じゃあ明日の試合に出るレギュラーは試合形式で練習開始してください。一年はコートの間で自由に打ち合っていてください」

「はーい」


 全員が合わせて返事をする関係上、微妙に間延びした声になり、知美は不安に襲われる。自分が部長としてちゃんとしていないからどこかでバカにされているのではないかという被害妄想。それを振り払って、知美はレギュラー達とコートに集まる。

 試合は個人戦のみ。単複で三人出場する。

 シングルスは二年生の大西恵里奈。一年生の朝比奈美緒と宮越歩(みやこしあゆみ)。

 ダブルスは二年生の寺坂知美。菊池里香。三木道代と青柳由香。そして一年生の桐木昌子(きりきまさこ)、章子(しょうこ)の双子。

 道外から転校してきた朝比奈以外の一年は知美の小学校時代に所属したサークルの後輩に当たる。


「じゃあ、シングルから。エリー。朝比奈さんとお願い」

「りょーかい」

「よろしくお願いします」


 大西は人懐っこい笑顔をしながらおどけて。逆に朝比奈は無表情でコートに入る。じゃんけんでサーブ権を獲得した大西は朝比奈に向けて「今日は勝つ!」と叫んでいた。知美は内心その宣言は無理だろうと思っていた。


(最初にやってから、一度も一点も取れてないんだもんね……)


 一年生に審判と線審を任せて、知美は二人の試合を壁際に腰掛けて眺める。菊池は知美の隣に腰をかけて、残り二人は邪魔にならないところに移動してドライブを打ち合っていた。

 知美の思い通り、大西は一発のスマッシュでサーブ権を奪われたと思うと朝比奈のサーブを打ち返した次のショットでシャトルを沈められた。あっと言う間の得点に知美は朝比奈の姿を見た。


(また強くなってるみたい)


 朝比奈のプレイは徐々に人の関心を集めていく。男子と女子のコートに挟まれた状態で練習をしていた一年生の女子達も、朝比奈のスマッシュが決まる度に「ナイスショット!」とまるで試合のように歓声を送った。大西は逆に孤立していく。知美は大西にも声をかけようと思ったが、この状況の異様さに口をつぐんでしまう。同じ部の中での練習なのに、何か試合のように対抗してしまうのはどういうことなのか。

 結局、大西は一点も取れないままで試合は終わった。


「……っはぁ。負けたぁ。ありがとうございました!」

「ありがとうございました」


 負けた後も大西は元気に手を差し出したが、朝比奈は無表情で握手をし、コートを出る。気まずそうにしながらコートから出た大西に知美は一言「お疲れ」とだけ声をかけた。


「ほんと、疲れた……って疲れなかったけど。朝比奈さん強すぎ」

「そうだね……」


 次に入ったのは三木・青柳組と桐木姉妹。菊池が審判に入り、すぐ朝比奈と大西が線審に向かう。その合間に知美は話しかけた。


「もっと打ち解けてくれればなー。きっとうちはもっと強くなるよね」

「そうだね……」


 手を振って線審へと向かう大西に知美は苦笑いをしつつ手を振り返した。

 一年の様子を再度見てみる。線審に入った朝比奈に向けての眼差し。それと、いつも自分を見ている目線の差を感じ取り、知美は気落ちしていく。

 自分がどんどん霞んでいくように知美は感じていた。強い一年。存在感もある。追加で可愛い。いろいろと揃っている朝比奈に勝てる要素はないと、知美は思ってしまっていた。



 * * *



 告知通り、明日の試合に備えて部活は早めに終わった。体育館の掃除は一年に任せて知美達二年生は先に学校を出た。


「はぁ……」


 自然と出るため息を知美は止められない。同じ方向に帰る仲間もいないため、一人で自転車を走らせながら今日の練習を振り返る。シングルスは結局、朝比奈はずっとラブゲームをし続けた。途中で物足りなくなったのか知美達二人に試合を申し込み、それで良いゲームをしたくらいだ。結果は十五対十二で知美達の勝ち。一つ上で全国クラスのシングルスプレイヤーの先輩と試合をした時はそれでも負けていたため、まだ朝比奈の実力はそこまで至っていないと思う。しかし、年が明けたところで開催される学年別大会。更に、全道大会から始まる学校の垣根を越えた団体戦――第二回全国バドミントン選手権大会の時には頭角を現すだろう。

 実力が劣る先輩として、この先やっていけるのか。

 知美は憂鬱に頭が痛くなってきていた。その時、後ろから声がかかる。


「寺坂」

「ひゃっ!? な、なんだ……驚かさないで」


 後ろを振り返るとそこには自転車にまたがった竹内がいた。あきれ顔で見てくる竹内に、今、自分が信号待ちのまま止まっていたことに気づく。慌てて前を見たが、すでに信号は黄色から赤になっていた。ぼんやりと考えごとをしている間に信号が赤から一周してしまったらしい。


「こんなところでぼーっとしてると危ないぜ。大丈夫か?」


 竹内の心配そうな顔と言葉に知美は頬が熱くなる。竹内も普段は仲間の気を使うタイプではない。むしろ使わずにダブルスパートナーに注意を受ける。

 知美もそこまで仲が良いわけでもなく、お互い部長となった手前、相談し合う機会が増えただけだ。それでも、普段とは違う気遣いに知美は心拍数があがってしまう。


「だ、大丈夫。練習のこと考えてただけだから」

「朝比奈のことか?」


 ここ最近は朝比奈のことだけ相談していたため、先に言われてしまう。二人は自転車を走らせて、ちょうどいつも寄り道するのに使っている公園へと向かった。知美達が住んでいる市の中央付近に立っている市民ホール。そこに併設する公園は広くベンチも各所に点在しているためお金を使わず話したりするには格好の場所だった。そんな立地のため高校生や自分らと同じくらいのカップルの交流場所ともなっているため知美は最初の頃、気まずくて仕方がなかったのだが、今はだいぶ慣れていた。


「ほらよ」


 先に知美をベンチに座らせた竹内は、ペットボトルのお茶を買いに行ってから知美へと手渡した。お礼を言って口を開けて軽く飲む。それで一呼吸置いた後で知美は内心を語り出す。


「朝比奈さんが強いのはいいんだけど……彼女、この部をどう思ってるのかなって何となく考えてた」

「いっつも遅れてきてるしな。あんまり優先してる感じじゃないし。でも、いつからそうだっけ?」

「早坂先輩が引退してからだよ」


 知美が一番自分を攻めている理由だった。

 早坂由紀子。

 三年生で、中学一年の時から市内でもトップレベル。二年、三年時は全国大会も経験している、ここ数年の浅葉中において、更には北海道においても女子シングルス指折りの実力者。

 早坂がいる間は、朝比奈も毎回練習には遅れずに来ていた。更にシングルスの練習で何度も早坂と試合をしていて、その時はまだ今よりも感情豊かな表情を見せていたように知美は思う。

 早坂は引退し、代が変わったあとから朝比奈も変わっていった。

 男子も女子も全国経験があるような強いプレイヤーが引退し、自分達は多少は経験していても絶対的に力が足りない。逆に、朝比奈は最初から実力があり、更に早坂と何度も試合をすることで飛躍的に力を上げた。怪我がなければインターミドルの予選に出て台風の目になっていたに違いない。


「朝比奈って地元じゃなくて本州から来たんだっけ? 友達いないのか?」

「そんなことないみたいだけど。でもほとんど部員達と話してるのは見たことないかな……やっぱりバドミントンしていてつまらないのかもね」


 もう一度、自分のダブルスと朝比奈のシングルスで対戦した時を思い出す。朝比奈のスマッシュやシャトル回しに翻弄されまいと必死になって、相手の表情まで見ている余裕はほとんどなかった。それができないことこそが自分達が先輩に及ばなかった理由なのだが。それでもかすかに見えた朝比奈の表情はかすかに笑っていたように思える。

 強い相手との試合。そこでどう勝とうかと思考する。それがバドミントンの醍醐味だ。その意味では、単独で彼女を楽しませるプレイヤーがいないことが朝比奈を部から遠のかせている原因かもしれない。


「男子はなぁ。初心者ばっかり入ったからな。指導の仕方の方が大変だけど。特に困るやつもいないし。楽だったのかもな」

「それはそれで大変そうだけどね。でも、最近はずいぶんマシになったんじゃない?」

「飲み込み早くて、もう試合にも出れそうになったからな。あとは、田野に任せたら楽になった」

「それ押しつけてるだけじゃん」


 副部長であり、竹内のダブルスのパートナーである田野は知美と同じ町内会のバドミントンサークル出身だった。長身で顔立ちも良く、気も利く。後輩の指導にはちょうどいいのかもしれないと知美は過去を思い出していた。


「とにかく。まずは明日頑張ろうぜ。ダブルスで寺坂達も強いんだから」

「……そうだね」


 一口、ペットボトルのお茶を飲んでから二人は立ち上がる。公園から出て自転車に乗ったところですぐ竹内とは別れた。小学校の学区が全く異なるため、竹内は基本、知美とは逆方向に家がある。


「そのダブルスも、危ういんだよね……」


 遂に竹内に言えなかったもう一つの不安。

 一度学年の中で一位となったとしても、今でもそれが通じるかは分からない。

 その不安を抱えたままで、寺坂はペダルを漕いで自宅へと向かった。

 さっきまでよりは少し軽かったが、それでも重たいことに変わりはなかった。

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