木曜日
「えっと、、、初心者なんですけど、、、」
「大丈夫大丈夫!記事書くついでに頼むよ!」
「ついで、と言われましても、、、」
ラケットを両手で持って、困ったように先輩を見上げる。
他の高校と合同練習ということで、試合をしてみるという流れになったのだが、この運動部に関係のない新聞部である二人がそのコートに入っているのは明らかに可笑しい。
勿論、二人は新聞部以外の部活には入っていない。
それなのに。
一方、何故かの観客席では
「流石に、可哀想だな」
「そうか?ああ見えて
「バロンさんですか?あの二人を放りこんだのは」
「俺はただ、人手不足には新聞部が良いぞっていうのを言っただけだ。だがまぁ、こうなるとはわかってたし、いいんじゃないか?」
「何企んでるんですか?」
「他校にない素晴らしい人材がここに潜んでるんだぞ、っていうアピールだな。差を見せ付けたいがためだ」
そんな会話は流石の地獄耳な夜影でも、聞き取れるわけがない。
取り合えず、ルール等も付け焼き刃だが頭に入れてやり方だけの初心者二人で、他校の相手を見つめる。
「さ、才造、、、こちとら記事書きに来たんだよね?」
「今はもう、気にするな。多分先輩に騙されたんだ」
怯えたように構える夜影とは別に、才造は冷静に構える。
そんな二人が新聞部であることも、初心者であることも知っている相手は一つ年上の先輩だった。
片方はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべているが、もう片方は真面目な顔で立っていた。
「おいおい、初心者が俺たちの相手かよー。大丈夫なのか?お前ら。手加減出来ねぇからな?」
「う、あ、すみません、、、」
「雑魚は引っ込んでた方が良いんじゃねぇの?練習の邪魔邪魔!わかってんの?」
「申し訳ありません、、、」
真面目に謝りつつ怯えた様子を見せながらも、夜影は段々イライラとしてきていた。
先輩だから、仕方がない。
それだけだ。
「おい、やめとけ。後輩を虐めるな。」
「だって、折角の合同練習だぜ?こんなんに無駄にされるとか運がないわぁ」
大袈裟な溜め息だ。
才造は夜影に目配せする。
夜影はハッ、と息を短く吐いてスゥと構え直す。
試合開始の合図で、サーブを打つのは先輩の方だった。
上がった獲物を目に捉えて、キッと目の色も鋭さも変えて、二人は素早く反応した。
次を予測して下がっておく才造と、片手で向かってくる獲物をロックオン、そのラケットで打ち返す。
そう力を籠めずとも飛ぶようにはなっているが、それはなんとなくでしか把握していないし、本当に練習さえせずただ部員達の動き等を眺めただけのぶっつけ本番なのだ。
先程よりも素早い獲物に食いつく才造は、手前に落とすように軽く跳ねさせた。
それにも対応した先輩が手前に叩き落としてきたのを滑り込みで夜影が打ち上げ返せば、キュッと床が音を鳴らした。
直ぐ様体勢を整えようと、素早く下がり、返ってきた獲物に食いついて素早く飛ばした。
「おっとっと」
思わず声を漏らして拾い損ねた先輩は、目だけでそのハネを追った。
フォローを入れて打ち上げ返されたが、才造が手前に叩き落としたのでギリギリかくらいで打ち上げたが、才造が遠慮もなく斜めに叩き落としたのには手が届かなかったらしい。
先ずは一点だ。
ギロリと相手を睨み付け、静かに構える二人に眉を寄せる先輩。
その風景にはもう、周囲の音も色も映ってはいなかった。
「ほら、いけるだろ?」
「バロンさんも結構酷いですよねぇ」
「そうか?にしても、バスケ部に来て欲しいが運動部に興味がないとなれば勿体無いな」
「勧誘したんですか?」
「即答で駄目だった」
今度は此方がサーブを打つ番だ。
才造が丁寧に打ち上げたハネは、素早く打ち返されてそれを目で捉えていた夜影の体は反射的に動いた。
それを確認した才造は動こうとはせず、ただラケットが当たらないように距離を保つ。
打ち返したハネをこれまた素早く打ち返されたが食いついて今度は才造がラケットを振るった。
カンッと音がして、ハネは思わずとも手前に落ちていく。
それに舌打ちした先輩が走り込んだ。
しかしまた遠慮もなく夜影が叩き落とし、それにフォローを入れるが才造が奥へと飛ばした為に、先輩は思いっきり走る羽目となった。
しかし、それでもどうにか届いたが夜影も才造も動こうとはせず、目でハネを追った。
ネットに引っ掛かり、超えなかったのだ。
それを早々と察して動かなかったのだった。
夜影はラケットをグルンと回してから構える。
結果は、才影が勝った。
バトミントン部でないのに、経験もないのに、この試合は勝利を示した。
向こうの先輩が近付いてくるのを、警戒して睨み付けたままだ。
「そう睨むなよ。悪かったって。こんな出来る奴とは思わなかったんだ」
「目付きが悪くてすみませんでしたね」
睨んでいるつもりはないのだ、といいつつ不機嫌にがっつり睨んでいる。
この先輩は嫌いだ、を全開にして才造はまったく見向きもしないし、夜影は別の構えをとっていた。
「悪いな。ウチの馬鹿が。それにしても、いい動きしてたな。運動部でもないのに、俺たちに勝てるとは。」
「い、いえ。ありがとうございます」
こっちの先輩は大丈夫だ、と認識しているのであろう。
睨んでいたのをパッと一変させて、小さく笑みを浮かべる。
「うわぁ、なにそれ。」
「お前の態度が悪いんだ。大体、葉論の言った新聞部が雑魚の筈がない。初心者だとかいうのは見せ掛けに近いほど宛にならないもんなんだ。」
「バロンさんを知ってるんですか!?」
「おう。一応、中学ン時の先輩でもあるからな。今でも連絡の取り合いはしてる。夜影ちゃんだったかな?」
「え、あ、はい!」
「夜影ちゃんについても聞いてる。是非、俺のとこの記事も書いて欲しいほどだ。連絡先交換しとくか?」
「いいんです?こちとらなんかと」
「逆に他の奴等の連絡先は必要ないからな。今後何かあったら連絡する」
「はい!あ、これになります」
差し出す名刺には、連絡先も書かれていた。
「おう、ありがとな。俺は、、、これだ」
紙切れに書いて手渡されるのを、丁寧に受けとる。
「一応、個人的な方の連絡先ですが、新聞部としての連絡先も要ります?」
「いや、個人的な方ので十分だ。夜影ちゃんにさえ通じれば問題ないからな」
落ちてきた前髪をかきあげて、ニッと笑うのに釣られて夜影もニィッと笑う。
ただこの少しの短な時間で仲良くなってしまった。
「あー、ナンパ?」
「なわけない。誰がこんなとこでナンパするんだよ。」
そういう会話をしながらも、向こうへ引っ込んでいった。
「あ、才造」
「なんだ?向こうの先輩の面白ネタでもあったか?」
「何それ素敵!、、、じゃなくて、記事書いて今日のとこはさっさと逃げようよ」
「そうだな。長居するとまた組まされそうだ」
他の試合が終わるまでにさっさと記事を書き上げる。
全部頭に入ってる。
写真もちゃんと入手出来る。
今回は流石に写真部に頼る他ないが、写真部が撮ってくれていて助かった。
何せ、夜影が頼めば喜んで提供してくれるのだから。
「収穫が大きくて良かった」
「連絡先交換して何か意味でもあるのか?」
「貴重な他校の情報入手経路だよ?それに、知人にでもなっとけばそれなりに面白いこともあるって」
「仕事面で言われると、その得に偏りがありそうだな」
「損するよか良いでしょ。」
嬉しげに姿を眩ませた。
これをきっかけに、新聞部の活動範囲は他校にまで広がることとなった。
他校で徐々に名が広がっていくのを知るのは、まだ先となる。
観客席からは、もう三人の姿はなく、他の見学者たちが騒いでいる。
別のコートから四人の試合を見ていた他校の部員たちも面白いものを見つけたとばかりに目で退場していく二人を追う。
「
「あぁ、そうだったな。初心者らしい」
「え、嘘。初心者に負けたのか!?優勝したくせに!?」
「いやぁ、俺は兎も角十河は手加減してたって。あんま動かなかったし」
「悪かったな。夜影ちゃん、怯えてたし」
「あ、確かに。でも、途中で目付き変わったくね?」
「よかげちゃん?知り合いなのか?」
「ん?さっき知り合いになった。」
「うっわ、マジかよ」
「コイツ連絡先まで交換してんだぜ。ヤバいよな?」
「また女子が煩くなるぞー?いいのか?」
「夜影ちゃんは葉論から紹介されたからいいだろ。それに、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます