水曜日
「失礼します」
一礼する
そのくらいの注目にも慣れている夜影は怯むことなく教室をグルリと見渡す。
「来たか。すまん。」
「いえいえ!バロンさんのお呼びとあらば!」
お目当ての用事の相手である先輩、
夜影が先輩の中で一番尊敬している相手であり、尚且つ親友的関係を築いている相手でもある。
一時は葉論は彼女がいるのではないか、と噂されて色々探りを入れた女子生徒が夜影と二人きりで楽しげに会話しているのを何処かで目撃してその彼女とやらが夜影なのではないか、と夜影が
勿論、葉論も夜影のことを恋愛的な意味で好意を持っていたが、夜影からの尊敬の目を向けられて中々告白に至らずその内に夜影が恋愛絡みはかなりの苦手とわかり親友的関係に留め控えた結果である。
葉論が今日、夜影を呼び出したのはそういう話に一切関係ない。
バスケットボール部についての記事依頼である。
近々大きな試合を控えているので、それとそのついでに幾つかを記事にしてもらう。
[尊敬されている先輩]の特権として見られている[新聞部の夜影を呼び出す]行為をまた周りがコソコソと喜んで話し始める。
何故そう見られているのかと言えば、夜影は先輩であっても新聞部に関わる呼び出しは受けないのが基本的自己ルールだからだ。
葉論以外の先輩の呼び出しには、断ってしまう。
この特権は葉論のみである。
それを利用して頼むということも不可能で、葉論がそういうことは断る。
「バスケ部の試合ですよね!行きますよー、応援!」
「あぁ、頼む。
これもまた、夜影にカッコイイ姿を見せようと努力しているだけになり、勿論夜影の目には葉論の勇姿しか見えていないので都合のいい目と耳である。
「じゃぁ、簡潔に短く注文させてもらうぞ。」
廊下で指折り指折り記事の注文を短く簡潔に伝える。
それを聴き逃しのないように、そしてそのままをペンを高速で動かしメモとして残す。
「以上だ」
「はい!少々お待ちを、」
「いや、影宮の腕は知ってるし信用してるからな。確認は無しでいい。頼む」
「では、放課後にて!」
「あぁ、体育館にいるからな。それと、別件で」
首を傾げてメモ帳を胸内ポケットにさっとしまう。
新聞部ではない用件なのだと察してメモ帳は必要ないと判断したのだ。
「今夜の仕事だ。脱走した囚人共の回収に加勢することになった。あまりにも捕まえらないからな」
「そろそろだと思いました。では、終わり次第捜索に当たりますか?」
「そうしてくれ。どうやら警察の方からもまた二人加勢に来るらしいからな」
「というと、
「っぽい、じゃなくそうなんだけどな」
「わかりました!では後程!」
予鈴のチャイムと共に窓から飛び降りる。
階段から降りて、、、じゃ間に合わないのでそういった手段で自分のクラスの教室へと戻るのだった。
何を隠そうこの二人、高校生でありながら既に働いており、しかもアルバイトだのというレベルではないのだ。
二人とも刑務所で働く看守なのだ。
年齢等問わなければならない点は多々あるが、葉論は看守長、夜影はその副看守長を勤めている。
だが、昼間はそうそう刑務所という職場に居ることは出来ない。
だから夜間、葉論は毎日刑務所へ行っているのだ。
最早、刑務所が我が家的な場所に変わりつつある。
夜影はというと、これはいつ刑務所に来るのかわからない。
決まって二人は夜間だけ刑務所に行く。
しかし、夜影は刑務所に行くのは1ヶ月に二度三度、、、。
最早、幽霊副看守として刑務所内では知れ渡っている。
仕事はほぼ刑務所外で、看守というのは名ばかりというやつだ。
そのたまーに現れる夜影看守に、他の看守や囚人はデレデレなのだから、どれだけ夜影がモテる体質なのかよくわかる。
何処へ行ってもそんな調子だから、その反動で恋愛が苦手なのかもしれない。
ただ、夜影は幾つか他にも仕事をしているわけで、看守というのはあくまでも副職業である。
さて、先程名が上がった二人、小桜と光宮だが、これもまた別の職場で働く高校生だ。
光宮は警察官、小桜は捜査官なのだ。
そんな警察組二人と、刑務所組二人が手を組めばもう他のベテラン達も要らないのだ。
故にこれらは最終手段扱いとなった。
その話をしていたのだ。
夜影が窓から去ったことについては、本業故の動きである。
飛び降り、下の階の窓から入ったり、飛んで、向こう側の棟の教室の窓へ入って行ったりと、いくら看守であっても不可能な動きをするのは、夜影に留まらない。
この高校の名によく合う職業といったら?
そう、忍だ。
この高校には看守や警察官どころか忍までいるのだ。
勿論、そういう高校ではないので一般人の方が多い。
忍といえども様々な種類があるわけだが、夜影や才造は戦忍だ。
夜影は常に忙しい状態を保っている理由もこれにあたる。
忍の身体能力を活かして看守となり、軍隊の一員にもなり、忍の情報収集能力を生かして情報屋になり、新聞部までやって、忍を元とした出来ることは幅広くなんでもするのだ。
だが、そうなれば身体1つでは足りない。
だからなんだというのだ。
忍だ。
影分身が使えて当然なのだ。
身体1つどころか、分身いくつあるか知れない。
そもそもこの今、ここにいる夜影が本物なのか分身なのか区別する術がないのだし、どっちなのかわからない。
こうして、夜影は様々な仕事等をこなしながら違和感なんて働かせない日常風景を歩く。
「おう!影宮!今日は何色?」
「お前は本当にそういうのやめろ!」
「痛ぇ!?」
光宮にツッコミを入れられつつ、夜影に話しかける小桜に、首を傾げた。
「何してるんです?」
「待ち伏せー」
「あぁ、そうですか。」
「いかにも興味無いって反応やめて!?あと、影宮を待ち伏せてたんだって!」
「暇ですか。小桜さんってだいたい暇そうですよね」
「まぁ、暇な時の影宮が来るからなぁ」
「暇じゃねぇけどな。今日中の提出物まだな奴が言うかよ」
「光宮に千のダメージ」
「なんで俺なんだよ!?つーか無駄にダメージデカい!!」
ツッコミ役は今日もボケを見逃さず。
光宮のツッコミ先は何処にでも行くが、それでもその半分は小桜に飛ぶんじゃなかろうか。
「で、ここ一学年の教室ですけど」
「新入り来たろ?」
「あぁ、アレは三組ですよ?」
「アレ扱いするな!確か
「そんな名前してましたね。で、何用で?」
「アイツ、運動出来るか?」
「人手不足ですかぁ。期待は出来ませんよー?サッカーやら野球やらとなると本当に」
「だよなぁ、、、。吹奏楽部に行くくらいだもんなぁ。出来たら文化系行かねぇよな。」
「ですね。で、それだけじゃないですよね?」
「流石影宮。察しがいいな。新聞部の才造ってやつ貸してくんね?」
「才造、、、ですか?」
そこで一度背後を振り返る。
そこには誰もいない。
しかし、夜影は唸った。
貸そうか貸さまいか、本人に話しを通さなければ。
その本人が警戒して向こうの角から出てこないのだった。
「無理そうか?」
「難しそうです。無口ですし、どうやら警戒してるようで」
「警戒されてんのかよ。」
「すみません。誰か見繕いましょうかね?」
「いや、いい。無理ならいい。行くわ。部活始まっちまう」
そういうと、駆け足で玄関へと向かって行った。
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