第6話 その実力

 迷宮に入ったギルドマスターは転移陣を使い5階層へと降りて行きます。この迷宮はひとつひとつの階層は結構な広さがあり、階層の中に一箇所、下へと繋がっている所があります。またそれとは別に5階層ごとに地上と行き来できる転移陣がある箇所があり、冒険者達はそれを使い行き来しているようです。


「でいったい何なのよ。それといいかげん降ろしてってば」

「おう」

「…うぷっ、揺れたんで気持ち悪い」

「あ、わりぃ」

「でいきなり迷宮に連れ来て何?」

「ああ、イレギュラーがでた」

「イレギュラーってアレでしょ。ほかの階層のやつ」

「そうだ」

「で、なんであたしがここにいるの?」

「ああ、下層にいるフレイムリザードがここに出やがった。すまねーがお前に力を貸してもらいてえ」

「あたしが?」

「腕のたつやつ等はここより下に潜っててな、何処にいるかわからねえそいつ等探すには時間がかかる。探すにもそれなりに腕がたつヤツじゃねーとマズイしな。それで俺とお前の出番ってわけだ」

「あたし冒険者じゃなくて受付なんだけど」

「そりゃわかってる、だがすまねぇが今回は力を貸してくれ」


 そういうとギルドマスターは少女に頭を下げました。


「あたしあまり派手な魔法は使うなって言われてるんだけど」

「そこをなんとか頼む」


 自分に頭を下げ続けるギルドマスターをしばらく見つめていた少女ですが。


「…はぁ、今回だけだからね」

「…わりぃ」

「晩御飯おごりだからね」

「わかった」

「それと休暇もね」

「休暇もか?」

「ダメならやらない」

「わかった。休暇もつける」

「んじゃそいつのとこまで露払いよろしく」

「お、おう」


 ギルドマスターは少女を庇うように迷宮を進みます。事も無く魔物を倒しながら迷宮を進むギルドマスターに少女が尋ねます。


「ねえ、ギルマス一人で倒せるんじゃないの?」

「いや。ここらのヤツなら問題ねえんだが、俺も引退して結構立つしな、アレはちとキツイ。フレイムリザードってのはでかいし硬いし火の玉吐くしで面倒なんだよ」

「ふ~ん、面倒なんであたし連れてきたんだ」

「いや、そういうワケじゃねぇんだが…。ほれ行くぞ」


 そのまま魔物を倒しながら迷宮をしばらく進むと。


「止まれ」


 ギルドマスターの指示でその場に止まります。そしてギルドマスターの指す方を見ると、赤い鱗に包まれた大きなトカゲがのっそりと動いていました。


「うへぇ、ホントでかい」

「だろ? マジでひとりじゃキツイんだよアレ。んでアレに強烈なヤツぶち込んでくれ」

「強烈なヤツって…。そういうのって集中と詠唱に時間かかるよ?」

「俺が引き付けて注意をそらす。なるべく急いでくれよ、んじゃ行ってくらあ」


 そう言うとギルドマスターはフレイムリザードへと向かって行きました。それを見た少女は精神を集中し魔力を練り上げながら詠唱の準備をします。


 少女にフレイムリザードの意識が向かないように立ち回りながら、ギルドマスターはその大きな剣を振るいます。


「やっぱきついってこのクラスは。俺も年かね」


 しばらくフレイムリザードの相手をしていたギルドマスターですが、そこへ少女の声が掛かります。


「いけるよっ!」

「よし待ってた、でかいの頼むぜ」


 そう言うとギルドマスターはフレイムリザードから離れます。そして少女が魔法を詠唱する声が聞こえてきました。


「罪深き者を繋ぎし鎖よ、此に現れ其を捕らえよ、其を捕らえ永遠に繋ぎ止めよ」


「『咎人の鎖クリミナルチェイン』」


 少女が呪文を唱えると白く輝く鎖がいくつも現れフレイムリザードに絡みついていきます。それを振り払おうとするフレイムリザードですが、絡みついた鎖はその大きな体を縛り上げながら冷気を発し、徐々に凍りつかせていきます。そしてしばらくする完全に凍りつかせ、フレイムリザードはその動きを止めました。


「…ふう、疲れた」

「悪い、助かった」

「これっきりだからね」

「ああ、しっかしあんな魔法を完璧に制御するのなお前。冒険者やりゃいいとこ行くんじゃねーか?」

「興味ないし」

「もったいねぇなあ」

「しつこく言うと呪いかけるよ」

「だからやめろってそれ」

「ねえ、アレはどうするの?」


 凍りついたフレイムリザードを指差し少女が聞きます。


「ああ、下に潜ってるやつ等が上がってきたら回収させる」

「でも騒ぎにならないアレ?」

「無理やり誤魔化す」

「無理やりって…。ま、いいか、あたし達の仕事はこれで終わりでしょ?」

「ああ」

「じゃ帰ろ」

「おう」


 そうして2人は地上へと戻る転移陣へとゆっくり歩いて行きました。


「なあ?」

「冒険者はやらないよ」

「いやそれじゃなくて、あの呪いって冗談だよな?」

「…ふふっ」

「お前のそういうとこはほんとアイツに似てるよなあ。呪いもアイツの入れ知恵だろ?」

「違う、お父さん」

「そ、そうか」


 父親も変わってんなぁと思ったギルドマスターですが、少女の手前口に出す事はしませんでした。


「あ、それとな」

「何?」

「その呪いって女はどうなるんだ?」

「んー、おっぱいが小さくなる?」

「……はぁ。それ絶対に女性の前で言うなよ。絶対にだぞ」

「えっ、う、うん。わかった」


 なぜかすごく真面目な顔でギルドマスターに言われた少女は、よくわからないまま返事を返しました。


 その後、下層から上がってきた冒険者達にフレイムリザードの回収を頼んだギルドマスターですが、回収を終え何か言いたそうな冒険者達に「オレと謎のお手伝いさんとで討伐した、それ以上は何も聞くな」と強引に説明し。「余計な詮索をするヤツには恐ろしい呪いがかかる」と脅したそうです。

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