第7話 その思い

 ギルドのある町から馬車で三日ほど行くと村があります。とても長閑な小さな村です。そこにギルドから休暇を貰った少女の姿がありました。


「おや久しぶりだね」

「おばあちゃん久しぶりっ」

「お父さんに会いに来たのかい」

「うん」

「そうかい、そうかい」


 知り合いの村人達に声をかけられながら少女は村の中を歩いていきます。しばらく歩き、村のはずれあたりまで来るとそこには小さな家が建っていました。

 服のポケットから鍵を取り出しドアを開けると、少女は家の中へと入っていきました。


「あまり汚れてないなあ。お母さん来てるのかな」


 家にあがると左手には居間があり、細い廊下を挟んで反対には小さなお風呂やキッチン、トイレなどが並んでいます。そして廊下を奥に進むと小さな部屋が二つ並んでいます。居間に荷物を置いた少女は懐かしそうにゆっくりと部屋を見て行きました。


「ここがSランク冒険者の家だなんて誰も思わないよね」


 しばらく家の中を見ていた少女ですが家の外へと出ます。家の側には小さな畑だったと思われる所が残っています。そして、家の裏手には小さなお墓が建っていました。


「ただいまお父さん」

「お父さん、お母さんがギルドに来たよ。いきなりなんでびっくりしちゃった」

「なんかギルマスに用事あったのかな、それともたまたまかな? お母さん何考えてるかわかんないしなあ。そうそう、ギルドの仕事だけどね――――――――」


 少女はお墓の前にしゃがみ込み、ゆっくりと語りかけていきます。


「でね、休み貰えたからお父さんに会いに来たの」

「ギルドマスターが冒険者はどうだとか言ってきたんだけどちょっとね。元々冒険者になろうなんて思った事ないし。それに冒険者なんかやったらお母さんの子だってバレて比べられちゃうし」

「複数属性使える有名な魔法使いの娘が、ひとつの属性しか使えないなんてね。しかも使えるのがお母さんに適正がなかった氷属性だけなんて」

「でも今は知らない人の方が多いみたいだけど、ギルドの受付なんてやってたらそのうちバレちゃうか。やりたくないなあ、お母さんの紹介だから仕方なくやってるけど…」

「あたしはここでのんびり暮らしたいだけなんだけどなあ」


 しばらくお墓に語りかけた後、少女はじっとお墓を見つめています。


「お父さんが病気になんかならなかったらもっと一緒にいられたのにね。この村で2人でのんびり暮らしていられたのに」

「あ、もちろんお母さんは嫌いじゃないよ。たまにしか帰ってこなかったけど依頼で忙しかったってのは後になってからわかったし。でもやっぱり忙しすぎだと思うんだよお母さん、それに厳しすぎるし。よく2人で怒られたよね、お父さん」

「3人でここでのんびり暮らせればよかったのになあ…」


 少女は膝を抱え込むようにして下を向きます。そして少女がそのままじっとしていると。


「あっ」


 ふと風が少女の髪を優しく撫でるように吹きました。


「うん、ありがとうお父さん。本当に嫌になったらここに帰ってくればいいしね」


 そして少女は立ち上がり。


「またね」


 お墓に向かって笑顔で手を振ると、家の中へと戻って行きました。


「あー、お風呂の掃除しなきゃ、それと晩御飯の支度か。明日一日はここでゆっくりできるけど、明後日には町に帰らなきゃ。七日間しか休みくれなかったしなあギルマス、もうちょっと休みくれてもいいと思うんだよなあ、それに――――――――」



 王国の南に冒険者の町と呼ばれる町があります。側に迷宮のあるその町は冒険者達の活気に溢れています。またその町の冒険者ギルドのギルドマスターは元Aランクの冒険者で、冒険者を目指す者たちの憧れだそうです。そしてそのギルドには、とても可愛らしい女の子が受付に座ってるそうです。

 ただしその女の子を怒らせてはいけませんよ。恐ろしい呪いをかけられてしまうかもしれませんから…。

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