第4話 その??

 その日、冒険者ギルドにある女性が訪れました。


「おい、あれ見ろよ」

「あ?」


 ギルドに入ってきたその女性に、今日は休みと決め込みギルド内でうだうだ過ごしていた冒険者が目を留めます。


「うは、すっげー美人」

「エルフだよなアレ、いやでもエルフでもあんな美人見たことねーぞ」

「あっ、まさか…」


 話に加わっていた冒険者の一人が何かに気付いたようです。


「あん、どうした」

「『天災』じゃねーのかアレ」

「頭いいの?」

「ちげーよバカ。そっちじゃなくてだな」


 その女性は少女のいるカウンターへと近付いて行きます。


「ねえ、ちょっといいかしら」


 そして少女に声を掛けますが、お昼を食べた後だからでしょうか、少女は椅子にもたれかかりウトウトしています。


「しょうがない子ねまったく」


 そう言うとその女性は少女に向け殺気を叩きつけました。


「うひっ」


 殺気を叩きつけられた少女は椅子から転げ落ちます。そして周りを見回した後、目の前にいる女性を見つけると。


「…ひっ」


 恐怖に怯えたような声を上げ、直立不動の姿勢をとりました。周りにいた職員達は何事かと少女を見ます。


「ちょっといいかしら?」

「はいっ」

「用事を頼みたいのだけれど」

「はいっ」

「あら、こちらのギルドではそういう受け答え?」

「し、失礼いたしました。ほ、本日はど、どのようなご用件でごじゃりましょうか」


 周りからの「あ、噛んだ」という声を気にする余裕もありません。


「ギルドマスターに用があるのだけれど。取り次いで頂けるかしら?」

「は、はい。ただいまギルドマスターに取り次いでまいる」


 噛み噛みのままそう答えると、少女はギルドマスターの部屋へと駆け出しました。


 ギルドマスターの部屋に着くとノックもせず部屋に飛び込みます。


「ギルマスっ! 来たっ」

「おめぇはノックしろって、いつも言ってんだろうが」

「来た、来たの」

「あん、何が来たってんだよ」

「……お母さん」

「……は?」

「お母さんが来た。マスター呼んで来てって」

「…マジ?」

「マジ、マジ。ねえ早く来て」

「お、おう」


 少女はギルドマスターを連れ、急いで受付へと戻ります。


「ぎ、ギルドマスターをお連れしました」

「ありがとう。…ひさしぶりねギルマス」

「お、おう」

「ちょっと話がしたいのだけれど?」

「ああ、んじゃオレの部屋いこうぜ」


 そう言うと2人はギルドマスターの部屋へと向かっていきました。その様子を少女はそのまま見送ります。


「なあ? 『天災』ってなんだよ」

「そっちは知らねぇのか、じゃあこう言えばわかるか。『破壊の女神』だよアレ」

「…っ、まさか」

「そのまさかだよ。アレがこの国唯一のSランク、『破壊の女神』だ」


 SからFまであるこの国の冒険者ランクですが、Aランク冒険者でもかなりの実力と実績を積まねばならず、Sランクはまず無理と言われています。

 そしてその中に唯一人、Sランクとなった冒険者がいるのです。


「まあ座れや、てか久しぶりだな」

「そうねえ、何年ぶりかしら」

「何年ぶりかねえ、手紙でのやりとりはあったがこう会うのはな」

「そうね。で、あの子はうまくやってる?」

「ここに来たばっかよりはずいぶんマシになったんじゃねーか? 来たばっかの時はよくサボってたがよ」

「迷惑かけるわね」

「いんや。まあ今も騒ぎは起こすが何かと周りから好かれてるしなアイツ。徐々に馴染んできてると思うぞ」

「そう、ならいいのだけれど」


 ギルドマスターの部屋へ向かう2人を見ていた少女ですが、2人が部屋へと入るとゆっくりと椅子に腰を下ろし、そしてじっと床を見つめています。


「ああ、そういえば」

「何かしら」

「町長んとこの一番目と、領主んとこの二番目ががアレを気に入ったらしくてな、たまに来るな」

「…へえ」

「こええよ、殺気だすなよ」

「あら失礼」

「どうすんだ?」

「別にどうも、どちらも大した事ないしね。町長のとこは知らないけれど、領主のとこのは私との繋がりを狙ってるとかでしょう」

「そうか」

「まあ私の可愛い一人娘相手に何かしでかしたら」

「…したら?」

「私が遊んであげてもいいけどね」

「おいおい、派手なまねすんなよ?」

「…ふふっ」

「だからこええって」


 どのくらい時間がたったのでしょう、ギルドマスターの部屋の扉が開く音がすると、少女は椅子から立ち上がります。


「じゃあまた寄らせてもらうわ」

「ああ、またな」


 女性はギルドマスターに挨拶した後少女の所に来ると。


「元気にやりなさい」


 と声を掛けます。


「う、うん」


 そして少女の返事を聞くと優しく微笑み、冒険者ギルドを後にしました。

 しばらくギルドの出入り口を見つめていた少女ですが


「…ふう」


 と大きく息を吐くと、椅子にどさっと座り込みました。


「やっぱ苦手か?」

「…うん。なんかどうしてもね」

「そっか」

「もちろん嫌いじゃないんだよ。ただ…」

「ま、アレだ。気長にやんな」

「うん」


 ギルドマスターは少女の頭をガシガシと撫でると部屋へと戻っていきました。少女は椅子に座ったまま下を向き、何かを考えているようでした。



 昔、王国には「殲滅」の二つ名を持つ有名な冒険者PTがありました。単独PTで迷宮の奥深く潜ったり、または凶悪な魔物の討伐などもそのPTひとつで片付けたと言われています。時は流れPTは解散し、メンバーだった者ははそれぞれの道を進みました。ある者はギルドのマスターになり、またある者はその後も魔物の討伐を続け、国で唯一のSランク冒険者となったと言われています。

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