第3話 その日常

 ある日の昼下がり、冒険者ギルドの前に飾り立てた馬車と、それに続くように数台の馬車が止まりました。

 飾り立てた馬車から執事服に身を包んだ老齢な男性が降り、続くように高級な服に身を包んだ若い男性が降りました。

 そして2人は迷うことなくギルドの中へと入っていきました。


「だるい~」


 受付にいる少女は目の前のカウンターにつっぷしてダレています。冒険者ギルドは朝や夕方は依頼に向かう冒険者や、その日の依頼を終えた冒険者で忙しくなりますが、昼下がりのこの時間は比較的暇な時間帯といえます。

 そこへ冒険者ギルドにはとても不釣合いな2人が入り口から入って来ました。そして迷うことなくまっすぐに少女のもとへと向かいます。


「やあ、久しぶり」

「んあ、……げっ」

「人の顔を見て『げっ』とはひどいね」

「えーっと、本日はどのような御用でしょうか?」

「何、ちょっとキミの顔を見に来ただけさ」

「…はぁ。一応ここは冒険者ギルドでして、顔を見に来ただけとか言われても困るんですけど」

「はっはっは、まあいいじゃないか」

「いやよくないし」

「わざわざ時間を作ってキミの顔を見に来たんだ、もう少し喜んでくれてもいいと思うのだがね」

「いや嬉しくないし。てかわざわざ時間作らなくていいから仕事して下さい。ここの町長さんの息子さんでしょ?」


 少女に会いに来た男性はこの町の町長の息子のようです。


「いや仕事は父が頑張っているからね、何も問題ない」

「貴方も働こ? あたしが言えた事じゃないけど」

「おかげでキミに会いに来れるんだ、父に感謝だな」

「お父さんを手伝お?」

「そうだ、セバスあれを」

「かしこまりました」

「人の話を聞こ? これもあたしが言えた事じゃないけど」


 セバスと呼ばれた男性は入り口に控えていた男性に合図を送ります。合図を受けた男性が一旦ギルドの外に出ると、その男性を先頭に箱を抱えた数人の男性やらメイドやらがギルドの中に入ってきます。するとその者たちは少女の前に箱を置き始めました。


「えーっと何これ?」

「中央通りに菓子屋が新しく開店してな。とりあえず目に付くものを買ってきた」

「うあ」

「なに、端から端まで買っただけだ」

「いや端から端までって」

「はっはっは」

「はっはっは。じゃないからね」

「今度その菓子の感想でも聞かせてくれ、ではまた寄らせてもらう」

「それではお嬢さま失礼致します」


 それで満足したのか、箱を置いた者達を引き連れ二人は何事もなかったように帰って行きました。


「どうしよこれ…」


 少女が積み上げられた箱を前に悩んでいると、先ほどの馬車と入れ替わるようにまた飾り立てた馬車と、それに続くように数台の馬車がギルドの前に止まりました。

 そしてしばらくすると、入り口からこれもまた高級な服に身を包んだ男性と、執事のような男性がギルドの中に入ってきます。

 そして2人は少女のもとへと向かいました。


「よう、久しぶり」

「貴方達もかい」

「俺達もとは?」

「これ」


 そういって少女は積み上げられた箱を指差します。


「ほう、誰か来てたのか」

「町長の息子さんがね」

「ああ、アレか。どこかで見かけた馬車だと思ったがなるほど。まあいい、セバス持ってこい」

「かしこまりました」


 セバスと呼ばれた男性が入り口付近に控えていた者たちに合図を送ると、これまた先ほどと同じような事が繰り返され少女の前にどさどさと品物が置かれ始めます。


「…これは?」

「ん? ああ、領地の視察のついでにな。隣町に寄ったら珍しいもの売ってたんでな、とりあえず目に付くもの買って来た」

「いやこんなにいらないから、無駄遣いだって」

「気にするな。金ならある」

「気にしよ? 領民の税だから」


 大量に置かれた品物を前に、少女はうんざりした顔をしています。


「…はぁ、なんだかな。あ、そうだひとついい? 気になってたんだけど」

「なんだ?」

「いやそちらの執事さん。セバスってよばれてたけど。町長の息子さんとこの執事さんもセバスなんだよねえ。執事ってみんなセバスなの?」

「そうなのか?」

「それにつきましては私がご説明を。町長様のところの執事ならセバスチャンかと」

「貴方は?」

「私はセバスティアンと申します」

「紛らわしいねっ」

「セバスティアンていいずらいだろ? だからセバスな、向こうはどうなのか知らんが」


 しばらく少女とたわいも無い会話した男性は、「また来る」と言ってこれまた何事もなかったように帰っていきました。

 目の前に積み上げられた品物を前に、「む~」と唸っていた少女ですが、椅子に立ち上がるとパンパンと手を叩き。


「はいちゅーもーく。ここにあるの持ってってー、こんなにいらないからあたし」


 と言いました。


「「やったー」」


 少女の言葉にギルドの職員やら冒険者やらがわらわらと集まると、思い思いに好きなものを取っていきます。


「すごーい、これ出たばかりのお菓子よ」

「よっしゃー、今日は迷宮に潜らなくて正解だったぜ。彼女に土産ができた」

「でもいいの私たちが貰っちゃって」

「いいっていいって。あたしが貰った物だしどうしようと勝手」

「でもよー、あとからあの貴族様に怒られね? お嬢にあげた物をって」

「へーきへーき。言われたらさ、貴族様が一度人にあげた物を後からごちゃごちゃ言うんですか? って言ってやりゃいいの」

「いやそれ言えるのお嬢だけだと思うぞ」


 物なんか貰ってもメンドクサイし要らないんだけどなあと思っている少女ですが、周りの人達はまた持ってきてくれないかあと思っているようです。

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