第3話:フィン・リアーディス

「そこだ!」

 コントロール・レバーを握り直し、トリガーを引く。

 ロックオンされた目標はシールドで防御する事も出来ずビームライフルの一撃を胸部に食らい、爆散した。

 スコアに+1された事を確認してから、新たな標的を探す。


 今日こそは勝てる。


 だが、頭上から降ってきた敵機は完全にフィン・リアーディスの不意を突いた。


「なにっ!」

 驚愕と共にレバーを後ろに引く。一旦距離を取るべきと判断したフィンは後退を選択した。

 だが衝撃音と共に視界が揺れるのみ。ブースターは正常に動作している。


 ああ、そうだった。背後が障害物である事を忘れていた。


(いつも戦いやすい荒野ばかりを選んでいたから!)


 敵が迫る。

 盾を前面に押し出し、大型ビームサーベルを構えた前衛タイプが同時に3体殺到する。

 成す術もなく、フィンの乗機は爆散し、敗北した。




「駄目かー!」

 VRヘッドセットを勢いよく外し、コントローラーを机に放りだしたフィンは、座っていたソファに寝そべった。

 ひとしきり悔しい思いを噛み締めたあと、部屋の鏡台に歩いていく。

 鏡台には、おおとり市高校の制服をだらしなく着崩した、蒼髪の少年が映っていた。若々しいが、顔には疲れが見て取れる。


 高校入学当日の夜にやることじゃないな。

 改めてそう思ったものの、高校生にして一人暮らしをしなければならない身としては、心細さを何かで紛らわせたいところだった。


 父さんと母さんは元気かな。


 天上を見上げ、遠くの地にいる両親に思いを馳せる。

 父も母も、別々の、遠い土地に行ってしまった。

 とはいえ、断じて死別したわけではないし、別に家族仲が悪いわけでもない。


 ディスティニーを名乗る大規模なテロ集団、恐竜という巨大な怪物たち、果ては異次元からやってきた侵略者…。

 諸島国家イヅモには、そういった得体の知れない者共が群れ成してやってくる。

 それにより、イヅモは最大にして唯一の戦力、人型起動兵器『ガーディアン』をより多く欲し、ガーディアンを操る存在である『リンケージ』も欲した。

 そして、フィンの父親はガーディアン研究者であり、母親はリンケージだった。


 そして両親は御国に忠を尽くしている。それだけの事だった。


 何もかも嫌になったフィンは、ひとまず明日に備えて眠る事にした。ベッドに横たわり、照明を消す。

 締め切った部屋の閉塞感と暗闇に包まれ、ほんの少し心が落ち着いていく。



 瞼を閉じ、ここに至るまでの日々をなんとなく思い出す。

 その時、別れ際の両親が言った言葉を思い出した。



『仕方ないさ』



 フィンは、両親が好きだった。あの温かい日々はかけがえのないものだった。

 だが、その言葉には同意出来なかった。

 侵略者たちは、いつもイヅモを滅茶苦茶にする。

 ただ、私利私欲の為に。


 要は、それだ。


 明日の事を思うと、手のひらに汗がにじむ。

 実を言うと、今日になってリンケージ用VRトレーニングに精を出していたのは、理由がある。

 明日は学校は休みだが、学校よりもよほど重大な用事があるのだった。


(遂に、明日だ)


 そう、明日は鳳市フォーチュン支社で行われる、リンケージ適性試験がある。

 フィンは書類選考を通過し、なんとか適性試験にこぎ着けたのだった。


 別れ際、母親が渡してくれたVRヘッドセットはフィンの玩具にして、希望でもあった。

 こんなのしか無くてごめんねと、母親は言っていた。その時母親は泣きそうな笑顔だった。

 自分がどんな顔をしていたかは覚えていないが、きっと同じような顔だったろう。


 前線で戦うリンケージ。肩書は格好のいいものだ。

 だが、無事に帰って来れるのか分からない。

 フィンは母親が帰って来られる確率を高める方法を必死になって考えた。

 その結果としてフィンは母親の所属しているPMC“フォーチュン”に対し、応募書類を送っていた。


 リンケージではない父親だって、危険は同じだ。

 今やイヅモは危険に晒され続けている。7日のうち、1日は襲撃を受けているのだ。まともじゃない。

 そしてイヅモのガーディアン研究施設と言えば、ガーディアン開発技術においては地球圏でも随一。敵から狙われる危険性はかなり高い。

 もしかすると、母親以上に危険なのかもしれない。



(必ず、生きて再会する。平和を取り返してみせる)



 前者はともかく、後者は大それた夢だ。

 それは自覚しているが、見て見ぬふりはしたくない。


 フィン・リアーディスという男は、まったく不器用であった。


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