第3話 ジャックと僕


「僕はネ、ジャック!ジャック・オ・ランタンだよ〜」


少しおどけ様にぴょんぴょんと跳ねるジャックはさっき貰ったお菓子をもう食べている。


マスクも脱がず、空いている口にポンポンと放り込む。よく見たら本物のおばけかぼちゃをくり抜いているみたいだ。服装もなんだかちょっと変、サイズのあってない大きめのセーター。夜になると肌寒くなる季節なのに膝の見えるツギハギのハーフパンツ、手には使い古したグローブが今にも落ちそうにサイズ違いでハマっている。


ちょっと関わりにくいし、どうしよう。


「そ、うか、ジャックじゃあ僕は別の所に行くから」


そういい、離れようとすると


 


「あ!お菓子のいい匂い発見〜!コッチ!」


えっ、僕はジャックに手を引っ張られ次の家にへと向かう。待ってと言ってもジャックは僕の方を見向きもしない。


 


「到着〜コンコンコン!」


そこには威厳なおじいさんもじゃもじゃな立派な髭と眉毛がくっついてどこが目だか分からないくらい。


少し怖い顔を家の奥に向け「待ってろ」と一言。まだジャックは僕の手をギュッと握って離そうとしない。使い古したグローブがチクチク刺さって少しもどかしい。


 


「ほら、」


部屋の奥から出てきたおじいさんの手には、大きなカップケーキ。いい匂いが勢いよく鼻に入ってくる。


「ありがとうございます...」


恐る恐る受け取るとおじいさんは何故か嬉しそう。(ホントはいい人なのかも)


 


ジャックなんか受け取ってすぐにむしゃむしゃと食べてしまった。そして大きな声で


「おかわり!」


嬉しそうにまたおじいさんはカップケーキを持ってくる。


「君にもあげよう」


僕にも2つ目のカップケーキを持ってきてくれた。バターが程よく香りジャックが直ぐに食べたのも何となく分かってしまう。


「ありがとうございました」


 


おじいさんの家を後にした僕達は再びお菓子のいい匂いのお家探しに駆り出す。


なんで一緒に行ってるかって?


ジャックの鼻はよく効くんだ。立て続けに5件も大当たりの家を探し出した。


お菓子目当てだけじゃないよ、だってジャックが手を握って離してくれなかったんだ。


 


そう、一緒にいたのはただそれだけさ。


 


ちょっといつもと違うハロウィンの雰囲気に飲まれたかもしれない。誰かと一緒にいるのはめんどくさいばかりと思っていたけど、こんな日があってもいいのかもしれない。


ほんのちょっとだけ、いつもより楽しかった。




ジャックはお菓子のことしか話してくれない。どこから来たの?本当の名前は?何歳?なーんにも答えてくれない。


好きなお菓子は?


 


「カップケーキ!」


 


これだけ即答。


一つかたが外れたら、どんどん出てくる独り言。


猫の髭3本、カラスの涙ティースプーン1杯、おじさんの靴下、底の空いた鍋、かぼちゃの種5個、バッタの足。


何に必要なのかは教えてくれなかったけどジャックの大切なものなんだって。


これも変なの。


ジャックは不思議なことを沢山話してくれる。


時々ジャックは僕の方を見て


「楽シイ?」


と聞いてくる。楽しいよ、そう答えると。繋いでいる手の力がキュッと強くなって少し可愛い。ジャックはもしかしたら女の子なのかもしれない。だから顔を出すのが恥ずかしいのかな、かぼちゃ越しの声は少し篭ってよく聞こえない時が多い。


覗こうとしたら、恥ずかしいのか口元を手で隠してどうしても見せようとはしなかった。


 


お菓子を食べている時に覗いてもその中は真っ黒。


もしかして中身がないのかも...


そんなことを考えてるとき風がビュッと通り背筋がピーンと力が入る。

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