20××年 夏休み -幕間1-

 静かに、音を立てないように玄関の戸を閉めた。

 庭は雑草だらけで手入れが行き届いていなかったが、家の中はそうでもなかった。

 ――だが、人がいるにしては、静寂に包まれていた。

 電気も点いていないので、微妙に暗い。

 廊下を、忍び足で進んで行く。

 無駄に長い、廊下。

 壁には等間隔で写真が飾られている。

 朝霞家の人々なのだろうが、楽しそうな家族写真も、この状況下では不気味にしか見えなかった。

 そうこうしているうちに、ようやくリビングにたどり着いた。

 扉は開けっぱなしだったので、そのまま中に入っていく。

 ……酷いもんだ。

 酒の空きビンや缶がそこら中に散乱している。

 カーテンは全て閉じられ、まるで外から見られないようにしているみたいだ。

 眞姫……どこにいるんだよ!?

 散乱しているゴミをに気をつけながら、俺は詮索する。

 ……何もなさそうだ。

 確か来る途中に、2階へと続く階段があったな。

 いつもあいつが顔を出している部屋は、何階だろうか。

 そこに、いるのかもしれない。

 俺は目的地を頭の中で設定し直して、引き返そうとした。

 だが、ふとキッチンが目に入る。

 アイランドキッチンとか言うやつだ。

 俺の家のキッチンみたいに、壁で囲われていない。

 その名の通り、島のようにリビングという海の上に佇むキッチン。

 母親がテレビで見て、「いいなあ」と、こぼしていた気がする。

 ……キッチンのことはいい。

 見ると、ガラスのようなものが付近に散らばっているではないか。

 割れた音がしたのは、これか?

 ゆっくり、キッチンに近づく。

 そこでようやく気がついた。

「眞姫!!」

 探していた人物が、そこに倒れていた。

「しっかりしろ! おい!」

 俺は眞姫の体を揺さぶるが、気絶しているのか反応がない。

 今日は半袖の眞姫。

 その白い腕には、痛々しいあざが。

「う……ん……? なぜお前が……」

 ――よかった! 起きた!

「しっかりしろ! 立てるか? 早くここから出ようぜ!」

「あ……ぶないっ!!」

「え――っ?」

 眞姫が俺の腕をつかんだ瞬間だった。

 鈍い痛みが、頭を走った。

 目の前が……真っ暗になった。


 一生の不覚。

 背後を取られるとは。

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