20××年 夏休み -17-

 ……なんてうっかり喜んでしまったが。

 正体を暴きに来たって、どういうことだ?

「ああ……そう……騙したのね……私を……」

 陽子は操り人形のように、フラフラと窓から離れた。

 その目つきは、とても正気のある人間のものとは思えないものだった。

 本当に、彼女の意志で動いているのだろうか――

 その疑問を持ってしまうほど、目の前にいる彼女の姿は奇妙に見えた。

「よくも……よくも私のおもちゃを。よくもよくもよくも――」

 うわ、何だ、こいつ。

 壊れたか……!?

 何度も同じ言葉を繰り返す陽子に、恐怖を抱く。

 気味が悪い。

 俺と眞姫は、オッサンを庇うように立った。

「オマエ ヲ ユルサナイ」

 片言でそう言い放ち、陽子はパカッと大きく口を開いて上を向いた。

 そして、自分の目を疑うような光景が起きたのだ。

 陽子の口から……黒いもやのようなものが出てきた!

「な……何なんだ……あれは……」

 眞姫も信じられないといった口調でつぶやく。

「――ちくしょう! そういうことか!」

 いつからいたのか……黒猫が凜王の足下で叫ぶ。

 ……って、おい!

 オッサンの前で喋ってんじゃねぇぞ! 猫!

 慌てて俺は、背後にいるオッサンを見た……が。

「あ!? ちょっ……! しっかりしろ! オッサン!」

 なぜかオッサンは倒れていた。

「気絶しているようだ……いきなりどうしたと言うんだ……」

 眞姫が屈んでオッサンの様子を見て、そう言った。

 もうわけわかんねぇよ。

「無駄だ、惣一。しばらくそいつは起きない。お前たちは耐えられたが……普通の人間のそいつには、ちとばかり重かったようだ」

 猫がよくわからないことを言う。

「この間の一件といい……全部お前の仕業だったのか! 魔女!!」

 黒い靄はやがて、人の形となった。

 箒に腰を掛け、宙に浮いている女の姿に。

「ウフフフ。まるで私だけ悪者扱いなのね」

 黒い靄を全て吐き出した陽子は、眠りについたかのように倒れている。

 無事かどうか確かめたいところだが、あのおかしな女が近くにいるせいで近づけない。

 つーか、魔女って何だ!?

 あんなテンプレみたいな魔女……本当にいるのか!?

「あーあ。残念。せっかく面白いものを見つけたと思ったのに。邪魔されちゃった。つまんないの」

 女は大きなため息をつき、パチンと指を鳴らした。

 すると……

 窓の外の景色が、一瞬にして変わった。

 ランドの崩壊から逃げ惑う人々などいない。

 純粋に花火を楽しむ人しか、そこにはいなかった。

 爆発による揺れもいつの間にか治まっており、花火の打ち上がる音しか聞こえない。

「人間の考えたつまらないお遊びに、すっかり騙されちゃった」

 どうやったのか知らねぇが……あのランド崩壊の様は嘘だったってわけか。

 ……本当じゃなくてよかった。

「……クローバー。どうする。あいつを捕まえればいいか?」

 こんなときでも、冷静な凜王。

「いや……無理だ。今のお前じゃ魔女には勝てない」

「ウフフ。坊やたちは、悪魔と契約でもしたのかしら」

 魔女は不気味に笑い、俺たちを一人ずつ、なめ回すように見ていった。

 俺はさっと目をそらす。

 目を合わせてはいけないような気がしたからだ。

「可哀想な坊やたち……。いつかその魂を食い潰されちゃうのね。私たちはそんなこと、しないわ」

「うるせぇぞ!」

 シャーッ! と、毛を逆立てて威嚇するクローバー。

「ウフフ。怖い怖い。今日のところは許してあげる。次、私の邪魔をしたらどうなるか……わかっているわよね?」

 ウフフ。と笑う、魔女の姿がだんだんと薄くなっていく。

「おい、こら! 目的を言えーっ!!」

 クローバーの叫びも虚しく、魔女は完全に消えてしまったのだった。

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