20××年 夏休み -15-

 まず……なぜ八月一日なのか。

 この日というのは、毎年恒例行事となっている、花火が打ち上げられる日なのだ。

 二十時半からランド閉園時刻の二十一時までの三十分間。

 花火が上がる。

 入場者数が最も多い日でもあった。

 そんな日をどうして選んだのかは……俺にはわからない。

 客が多い日なんて、一番危険じゃねぇか!

 きっと警備もガチガチに固められるだろうな!

 ――なんて思っていたが。


 俺と眞姫はあっさり侵入に成功していた。

 大前浩のボディーガードとして、

 大前のオッサンが俺らを怪盗フェイクだと認識しているのかどうかはわからない。

 ただ黙って、俺と眞姫は警護に徹していた。

 ――サングラスに黒いスーツって、映画かよ。

 オッサンは普段、ランド近くにある本社で仕事をしているようで、夜になるとボディーガードの俺たちと共に現場へと向かった。

 ……正直言うと、詳しい作戦の内容は知らない。

 オッサンに付いているよう指示があっただけだ。

 ――何かあったときはよろしく。

 凜王は俺の肩に手を置いて、そう言った。

 何かって何だ!

 俺は応用が利く人間じゃねぇぞ!

 ――そんな俺たちは、ランド内にあるホテルの最上階にいた。

 だだっ広いその場所は、結婚式の二次会なんかで使われるホールとなっている。

 俺と眞姫が、それぞれ扉を開け、オッサンが中に入ると……

「あら……おじ様。ようやくいらしたのね」

 部屋のど真ん中に椅子を置いて、足を組んで座っているおかっぱの女子が口を開いた。

 ……日之旗陽子だ。

 眞姫が通う高校の制服に身を包んでいる。

 何でこいつ、制服なんか着ているんだ?

「陽子さん君……一人でここへ来たのか」

 オッサンが驚いた様子で彼女に向かって言った。

 オッサンの言いたいことはわかる。

 こっちはボディーガードを二人も連れているというのに、女子高生の日之旗陽子は一人。

 メディアにも出たりと渦中の人であるにも関わらず、一人で行動しているという。

「ええ、そうよ。何かおかしい?」

「いや……」

 おかしなことなんてない。

 だが、不気味である。

「ふふ。怖い顔をしているわね、おじ様。私はすごくワクワクしているわ」

 楽しそうに笑う陽子。

 こんなやつがクラスにいたら……かなり目立つだろうに。

「陽子さん……今からでも遅くない。考え直してはくれまいか」

 オッサンは本気で彼女を心配しているかのような口調だった。

 幼い頃から彼女を知っているがゆえに、出た言葉だろう。

 なのに、やつときたら……

「考え直す? 何を?」

 バカにしたように、鼻で笑いやがった。

「ファンタスティック・マジカルランドは、日之旗家の城。日之旗以外の人間が城主になるなんてあり得ない。あなたたちはしょせん家臣でしかないわ」

 な……何てことを言いやがるんだ。

 このオッサンだって、ランドを造った人間のうちの一人だ。

 それを……家臣呼ばわりか!

 ――とは思うが、ボディーガードに発言権がないのが辛い。

「一体どうしてしまったんだ……。昔の君は、ランドの経営に興味なんてなかったじゃないか」

「私ももう子どもではないということよ、おじ様」

 外が何やら騒がしくなってきたな。

「そろそろ時間のようね」

 時計を見ると、二十時半が近づいているではないか。

 いよいよだな……

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