20××年 夏休み -13-

 惣一と狗山が帰った後、凜王はしばらく畳の上に寝転がり、天井を見つめていた。

「おい、凜王。いいのか。関係のないやつを巻き込んで。まぁ俺様の知ったことじゃあねぇけどな」

 クローバーが話しかけるが、返答はない。

「……腹が減ったな。ミツバの所へ行こうっと」

 凜王に聞こえるように独り言をつぶやき、クローバーはやれやれといったふうに部屋を出て行った。

 そんな黒猫がいなくなったのを見計らってか、凜王は起き上がり、机の上に置いてあったスマートフォンに手を伸ばした。

 画面を伏せるように置かれたそれをひっくり返すと『朝霞眞姫』『通話中』の文字が現れた。

 凜王は通話終了のボタンをタップし、すぐ目の前にある窓を開けた。

 すると、凜王の部屋より少し上の位置にある、大きな窓も遠慮がちに開いた。

「……凜王……」

 顔を覗かせたのは、隣の家の住人である眞姫だった。

「すまない。何だか大事になってしまって……」

「大事? どこが」

 素っ気ない凜王に、眞姫は何と言い返せばいいのかわからなくなった。

「これはなるべくしてなったことだ。お前がどう思おうが関係ない」

「……それはそうかもしれないが……」

 凜王の顔色をうかがおうとするが、表情に変化がないので全くわからない。

「凜王、今回は俺にも手伝わせてくれ。足は引っ張らないようにする」

「当然だろ」

「不機嫌な君も愛おしいよ……」

 うっとりとした表情になる眞姫だったが、突然、何かを察したように背後を振り返った。

「……どうした」

 凜王はそんな彼の様子を見て、不穏な気配を感じ取った。

「――悪い、凜王。また今度話そう」

「おい」

「何か俺に出来ることがあれば教えてくれ。それじゃ」

「待て! 眞姫!」

 窓を閉じようとする眞姫に向かって叫ぶ。

 そして、手を伸ばした。

「こっちへ来い! 逃げるんだ!」

「……ありがとう。その気持ちだけで十分だ」

「眞姫!」

 悲しそうに眞姫は微笑み、窓は閉じられた。

 虚しく、差し出された凜王の左手だけが残る。

 ――どこからか、何かの割れる音が聞こえてきたような気がした。

「――……」

 凜王は目を伏せ、再び畳の上に寝転んだ。

「……結局俺には何もできない……」

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