20××年 夏休み -12-
狗山の報告待ちということで、その日は解散となった。
俺は狗山と共に凜王の家を出た。
「ちょっと緊張してきたよ」
さすがの狗山も、自分から言い出したこととは言え、この大仕事に興奮しているようだ。
緊張しているなんて口では言っているが、その表情はワクワクしているようにも見える。
プレッシャーが大きいほど楽しめるタイプなのだろうか。
「如月の家もすげーけど、隣も隣でヤバいな?」
そんな成績優秀の学級委員長様が、突然語彙力の乏しいことを言い出した。
言いたいことはわからんでもない。
こんな今にも潰れそうなおんぼろ古本屋の隣に、洋館が建っている。
奇妙な並びだ。
「一体あの家にはどんな人が住んでいるんだろう」
……この間学校に勝手に入ってきた変態です。
――と、言いたいところだが俺はあえて黙っていた。
眞姫のことをわざわざ教える必要はない。
俺たちは、そんな変態の住む洋館の前を通り過ぎようとした。
しかし、思わず足を止めてしまう。
なぜなら、とある女性たちが前方からやって来たからだ。
メイクも派手。服も派手。
服というのがまたきわどいので、思春期真っ盛りの俺たちは目のやり場に困りつつもつい見入ってしまう。
「可愛いー高校生だぁ-」なんて言って手を振ってくる。
反射的に俺と狗山も手を振ってしまった。
彼女たちは楽しそうにお喋りをしながらなんと、眞姫の家に入っていったではないか!
「な、何で?」
俺は無意識に声に出してしまっていた。
「な……何だろう……今の人たち……ホステスっぽい感じだったけど……?」
狗山の言う通り、まさにホステスといった身なりの女たちだった。
そんな人たちがなぜ?
眞姫の家に?
思えば、俺は眞姫が何者なのかよく知らない。
凜王の隣の家に住んでいる。
家はとてつもなくデカい。
俺たちと同い年。
金持ち学校に通っている。
不登校気味。
でも成績は優秀。
見た目は女子みたい。
凜王に異様に執着している。
フェイクの予告状を作っている……。
それだけだ。
俺は凜王と出会ってから古本屋へよく通うようになった。
そのたびにあの洋館の前は通っている。
……今まで触れてこなかったが、俺はあの洋館は無人なんだろうと勝手に思い込んでいた。
まさか人が住んでいるなんて思ってもみなかった。
だって。
あの洋館からは、人の気配が全く感じられない。
人が住んでいる気配なんて微塵も感じられないんだ。
夜になっても部屋の明かりは点かないし、外からでも庭の手入れがされていないのがわかる。
眞姫が住んでいることすら疑わしいのだ。
眞姫がもし本当にあそこに住んでいるのだとして……
……家族は?
やつとはまだ数回しか話したことがない。
両親は何の仕事をしている、兄妹は? なんて会話ができるような仲でもない。
あいつは……もしかすると、一人であの広い家に住んでいるのだろうか。
だったら、さっきのホステスたちは?
……わからないことだらけだ。
聞けばあいつは教えてくれるだろうか。
それとも凜王に聞けばいいのだろうか。
……凜王はどうやって眞姫と知り合ったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます