20××年 夏休み -11-
凜王の言う通り、動きがあった。
それは、始業式の日のこと。
明日から夏休みだぜ! なんて浮かれていたら、俺たちの前に我がクラス委員長、狗山が立ちはだかった。
「話がある」と、やつはいつになく真剣な表情で言った。
ここじゃあ何なのでということで、凜王の家へ行くことに。
狗山は、初めて訪れる古本屋に驚いていた。
「それで、話って」
凜王の部屋に入ったところで、俺は狗山に聞いた。
クローバーのやつは、ちゃんと飼い猫のふりをして座布団に丸まっている。
「その……二人とも知っていると思うけど、ここ数日騒がれている……」
「ランドのことか?」
「あ、うん。そう」
凜王がすぐさまそう言ったので、狗山は目を丸くした。
「知っているも何も、あんなふうに指名されたらな」
「だよな」
肩をすくめる狗山。
「実はさ、あの報道が出た後、うちの家に大前浩が来たんだ」
「え!?」
さらっと言いやがったが、俺は思わず腰を浮かせた。
その際に猫の尻尾を踏んでしまい「ぎゃっ!」と、悲鳴がしたがそれどころではない。
「何で!?」
「さぁ。親父とゴルフ仲間か何かだってさ」
狗山自身はあまり興味なさげだった。
「親しいことには間違いないし、あんなニュースがあった後だったからさ。俺、二人が話しているのをこっそり聞いちゃったんだよね……」
おお。狗山……結構悪いことするじゃねぇか。
「だから、お前らに一応伝えておこうと思って。あと……少し思いついたこともあるから」
思いついたこと?
「まず、例の女子高生……日之旗陽子だっけ。彼女の行動には大前さんも頭を抱えているみたい。それは、彼女の両親もらしい」
何だ。
俺は勝手に両親は彼女のやることに賛成しているものだと思っていた。
両親のインタビューは残念ながら出てないから、実際のところはわからないけどな。
「大前さんも彼女のことは幼い頃から知っているから、ビックリしているようだったけど……どうも、普段はとても大人しいらしいんだ、彼女」
大人しい。
あの後何度もテレビで、彼女の映像が流れていたがとてもそんなようには見えなかった。
むしろ勝ち気で、堂々としていて……まるで、自分は正しいとでも言い出しそうな態度だった。
「これまでランドの経営のことに首を突っ込んできたことなんてなかったのに、突然人が変わったように自分を経営者にしろと言ってきて、困っているんだって」
人が変わったように……?
俺はその言葉に引っかかりを覚えた。
「やっぱりお前もそう思った?」
顔に出ていたのか、狗山が俺を見ていた。
「この話聞いて思ったんだよね……。これ、親父のときと似てないか? って」
……そうか。
そうだった。
引っかかったのは、狗山の親父の件があったからだ。
悲しいことに、狗山に気づかされた。
「親父は物を手にしておかしくなったから……彼女との共通点は人が変わったというところだけなんだけど。でも、この話を聞いたら何だかいてもたってもいられなくて」
言われてみれば……
人が変わったという点では同じかもしれないけれど、狗山の親父は物を手にし、反対にあの女子高生は奪われそうになっている。
この先を追えば、同じ所に行き着いたりするのだろうか。
「……ここからは、俺が考えたことなんだけど」
狗山の表情が、少し緊張気味なものになる。
俺も身構えた。
「彼女の言う通り、ランドを盗んだらどうかなって」
「お……おお……?」
どういう意図があってそうなったんだ?
「盗むことで彼女の気が済むなら好きにやってくれって、大前さんは言っていたんだ。相当参っているみたい。きっとできっこないだろうと思ってそんなこと言ったんだろうけど……。如月、お前ならランドだって盗めるんだろう」
凜王は何も言わない。
でも、Yesと言っているような自信は感じられた。
「けどさ、さすがに大がかりだろう。大変じゃないか?」
……何が言いたいんだろう。
まさか、協力するとか言い出すんじゃあ……
「大前さんの力を借りることができたら、多少は楽になるんじゃないか?」
それ以上だった!
何てことを言い出すんだこいつは!
「おい、狗山……さすがにそれは無理だろ……」
「無理じゃない。俺が大前さんに直接話す……それなら可能だろ」
「いや、でも」
「聞いてくれ。俺は親父の話をしようと思うんだ。そうすれば無視はできないと思う。さっき言ったように彼女との共通点を述べて、親父は怪盗フェイクが盗んでくれたおかげで正気に戻ったと言うつもりだ。怪盗フェイクとはある仲介人を通じて連絡を取り、犯行の手助けをした……どうかな」
どうかなって……
「誰だよ、仲介人て……」
「そこは蝶乃にお願いをして、可能なら一緒に来てもらおうと思っている」
よりによって蝶乃かよ……
「大丈夫! 蝶乃にお前らのことは言わない! ただ仲介人のふりをしてもらうだけだから……」
当たり前だろ。
蝶乃なんかに知られたら、俺たちは終わりだ。
「……わかった」
凜王が静かに口を開いた。
わかった?
何が!?
「狗山に任せる。話をして、何かわかれば教えてくれ」
「も、もちろん!」
緊張気味に狗山は頷いた。
「おい、凜王! いいのかよ!? 狗山を巻き込んで……」
「言っただろう、惣一」
金色に輝く瞳が、俺を捉える。
「動きがある、と。これに乗らない手はないんだ」
さいですか……
凜王がそう言うなら従うまで。
俺も狗山のことは信用しているので、きっと上手くやってくれるだろうと思って待つか……
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