20××年 夏休み -10-

 それからどのくらい時間がたったか。

 見たくもないテストの答案が返ってきた頃か。

 いよいよ夏休み間近! というときだった。

 俺は朝、テレビを見て飲んでいた牛乳を吹き出しそうになった。

「な……何じゃこりゃ!」

 突然叫んで立ち上がった息子を見て、両親は、こいつ、最近様子がおかしいな……というふうにヒソヒソと話し始めた。

 そんなことはどうでもいい。

 それよりこのニュースだ。

 要点をまとめよう。俺が驚いたのには二つ理由がある。

 まずは、ランドのこれからの経営方針だ。

 ランドはかつて、日之旗源次郎という人物を中心に、彼の友人たちと共に創られた。

その際に夢想株式会社という会社を立ち上げ、当然源次郎はそこの社長となった。

 亡くなる直前まで源次郎は社長を務め、その後は息子が引き継いだものの、病に倒れ、現在会社は社長不在となってしまった。

 社長復帰までの間、代わりに会社の経営を任されたのは、源次郎と共にランドを創った人間のうちの一人、大前浩という人物だった。

 ――ここまでは、眞姫から聞いた話通りだ。

 しかし、大前浩も高齢。

 入院中の社長の復帰が難しいならば、このまま大前が社長代理を続けるわけにもいかない。

 彼と社長とで話し合った結果、新しい社長を決めると発表したのが今朝のニュースの内容。

 それが一つ。

 もう一つは、その声明に対し、とある人物がとんでもないことを言い出し、注目を浴びている。

 源次郎の孫であり、入院している現社長の娘、日之旗陽子が、自分に会社を継がせろと言い出したのだ。

 彼女こそが、眞姫の言っていたクラスメイトである。

 会社は日之旗家の人間が継ぐべきであり、関係のない人間が社長になるなど言語道断……今の経営も大前浩ではなく、自分にさせろと言うのだ。

 無茶な話だ。

 現役の女子高生がそんなことできるわけない。

「よっぽど自信あるんだろうなぁ」

 親父がテレビを見てぼやく。

 全くその通りだ。

 かなりの自信家とみた。

 ――おっと。こんなことをしている場合ではない。

 早くしないと学校に遅れる。

 早く……凜王にも言わないと。

 朝食の残りをかきこみ、俺は早々に家を出た。


 学校に到着し、教室に入るともう凜王は登校してきていた。

 挨拶もそこそこに、俺はやつにニュースを見たかと尋ねた。

「ああ……ネットで見た」

 あんまり興味なさそうな感じだ。

「眞姫のクラスメイトだっていう女子、やばくないか? 何考えてんだろ……テレビを使ってあんなことを言うなんて」

「お前、ニュースを最後まで見てないな?」

「へあ?」

 凜王に指摘され、変な声をあげてしまった。

 確かに途中で家を飛び出した。

「見ろ、これを」

 凜王が自分のスマホを俺に押しつけてきた。

 受け取ったそれを見て、俺はまた叫びそうになった。

「な……」

「そっちのほうが面倒だ」

 そこに書いてあったのは。

 あの女子高生が、怪盗フェイクにランドを盗むように依頼……と書いてあった。

「何言ってんだ、こいつ!?」

 俺がそう言うと、凜王は呆れたように 首を左右に振った。

 人の手に渡る前に、一層のこと私の為に盗めと言うのだ。

「こんなのありか?」

 凜王はまた首を横に振る。

 ありなわけないか。

「どうするんだよ……。あの女子のせいでランドが注目されまくりだし、ここで応じれば依頼を受けたみたいになるぞ」

「そうだな」

 それしか言わねぇのかよ。

「焦るな。俺だって何も考えてないわけじゃない」

 俺が不満そうな顔をしたのを見てか、凜王は補足するように言った。

「まぁ、待ってろ。じきに動きがある」

 動きが?

 俺たちが動くのではなく……?

 俺は首を傾げたが、凜王は何も言ってくれなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る