20××年 夏休み -9-

「納得がいかない」

 凜王はいつまでも不満げだった。

「一応眞姫のおかげでミツバさんも許してくれたみたいだし、良しとしようぜ」

 俺はフォローしたつもりだったが、あまり効き目はなかった。

「次の獲物を決めるのに、いちいち姉さんの許可がいるのか?」

「知らねぇよ……お前は一体何が不満なんだ……」

 眞姫の説明であっさり許可したことを怒っているんじゃなかったのか?

「ああ……怒っている君も愛らしいよ、凜王」

 変態の戯れ言は無視しよう。

「それで? 何か策はあるのか」

 これじゃあ話が先に進まないと思い、俺は無理矢理話題をランドへ方向転換させた。

「ランドを盗むってどういうふうにやるんだ? 実体はあるけど、この間の髪飾りみたいに手で持ち運べるようなものではないし……」

 先日の狗山の一件で、俺はクローバーの食事を目の当たりにした。

 今、座布団の上で猫らしく丸まっているこの黒い動物は、あの髪飾りを食べたのだ。

 普通に考えておかしなことではあるが、でも、食事としては口に入ってしまうサイズだ。

「なぁ……お前、土地とか食えんのか」

「食えるわけねぇだろ!」

 すかさず猫が、飛び起きて威嚇してきた。

「……とは言ったものの、まぁ俺様が必要としているのは、感情だからな。それがあの土地にたまっているのなら、吸い上げればいい」

 ……よくわからん。

 俺の思考が停止している横で、眞姫が口を開いた。

「凜王から大体の話は聞いている。人間の醜い感情とやらで、貴様は腹を満たしているのだろう。何かにその感情が宿っていれば、それがあの巨大遊園地でも構わんということか?」

「ああ」

 猫っぽく、クローバーは前足で顔を洗う。

「でもお前、髪飾り食ってたよな?」

「だから、髪飾りに宿った感情を食ったんだ。髪飾りそのものを食ったんじゃない」

 ますますわけがわからん。

 食ってたじゃん。髪飾り。

「アレは一応俺様の喉を通るサイズだったからな!」

 やっぱり食ったんじゃねぇかよ!

 わけわかんねー!

「これ以上はやめておこう。時間の無駄なような気がする」

 眞姫も理解に苦しんでいるのか、諭すように俺に言った。

 そうだな……

「だが、今回の場合はどうする? 俺として非常に良い獲物だと思ったのだが……これだと難しそうか」

「いいや、そんなことないさ。あの遊園地には様々な感情が入り乱れている……この間行ってみてわかった」

 そうなのか。

 じゃあこの間のは、ただ遊びたかったわけではなかったんだな。

「問題はあの中からどう見つけるか、だな」

 どういうことだ?

 俺と眞姫は首をかしげた。

「言っただろう。色んな感情が入り乱れているって。その色んな感情の中から、眞姫が言っている女の感情だけを見つけるんだ。今はあの中に混じっていてどれか判別がつかない。女に何かきっかけを与えて、もっと感情を表に出させるんだ」

 んん……なかなか難しいことを言うな……

 俺たちが何か彼女に対して何かアクションを起こさないといけないのか?

「お前もう、全部食っちまえば?」

 俺は我ながらいい提案だと思った。

 そうすればお腹もいっぱいになる。

「何言ってんだ! バカ惣一! いいか、あの中には楽しいって感情とかも入っているんだ。それは俺様にとって全く必要のないものだ。そんなものまで一緒に食ってたまるか!」

 バカ呼ばわりされるとは……

「プラスの感情だけ吐き出せばいいじゃん」

「簡単に言ってくれるな! 食中りでも起こしたらどうしてくれんだ!」

 食中りになることなんてあるのか……

 そのときは動物病院に行くしかあるまい。

「……おい、凜王。さっきから黙っているけど、お前は何かないのか」

 らちが明かないので、俺は一言も発さない凜王に話を振った。

 俺たち二人と一匹しか話し合っていない。

「そうだな……今日はもういいかな」

 何だ、それは。

 俺はずっこけそうになった。

「何をしなければいけないのかは、大体わかった……。少し様子を見よう」

「はぁ……」

 凜王がそう言うならそうするしかない。

 この後、俺たちは凜王の部屋にあった古いゲーム機で遊んでから、解散した。

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