20××年 夏休み -5-

「ファンタスティック・マジカルランド?」

「ああ。二駅ほど向こうにあるだろう。遊園地みたいなのが」

 時は遡り、数日ほど前。

 凜王は自分の部屋の窓から顔を出し、隣の家の住人と話していた。

 眞姫の部屋は、凜王より少し上の位置にあった。

「行きたいのか?」

「まさか。人混みはごめんだ。……そうじゃなくてだな」

「ん?」

 凜王は首を傾げた。

「同じクラスの女子が、そこの創設者の孫らしいんだ」

 ふぅん。と、凜王は興味なさげな声をあげた。

 眞姫がなぜこの話をしてくるのか。意図がわからなかった。

「ファンタスティック・マジカルランドは、彼女のおじいさんが若い頃に訪れた、外国の遊園地に憧れて作られたそうだ。経営学を学んでいた友人の手を借り、二人で遊園地をオープンさせたそだ」

 今度は、へぇ。と声をあげる。

 やはり関心がわかないようだった。

「実際、遊園地の全ての所有権は、彼女の一族にあるそうだ。しかしつい先日、創設者である彼女のおじいさんが急逝した。今はその息子である彼女の父親が実権を握っているのだが、彼も病に伏せてしまったようなんだ」

 大変だな。

 凜王は適当な相槌を打つ。

 聞いていないわけではない。

「代わりに今は、当時共にランドを立ち上げた人が経営を任されているみたいだ。高齢とは言え、一番ランドのことを把握しているのは、最早その人しかいないからな」

「……で。そんな話を俺にして何が言いたい」

 凜王は我慢できず、結論を促せた。

「久々に学校へ行ったらな。知らぬ間に席が替わっていて、隣がその彼女になっていたんだ。やたらと話しかけてくるなと思ったら、そんな話をし始めたんだ。要は彼女、自分がランドの実権を握りたいようなんだ」

「……はぁ」

 早く話せと言ったが、あまりに飛躍したので、気の抜けた返事しかできなかった。

「そのクラスメイトは……野心家なのか?」

「そのようだな。二年同じクラスだが、ほぼ話したことがなかったしな」

「普通に考えて、高校生に経営は無理だろう」

「それは彼女もわかっているようだ。だが、今父親が倒れなければいずれは自分がランドの責任者になるはずだったのにと言っていた。ランドにとても強い執着心があるようだ」

「……で?」

 肝心の疑問点は解決できていないまま、また話が長引きそうだったので元に戻す。

「その、何だ。面白そうだなと思ったんだ」

「面白そう?」

 凜王は理解できないというふうに顔をしかめた。

「彼女があまりにもランドを大事そうにしているから、それを盗んだらどうなるのだろう……と」

「……盗む……ランドを」

 眞姫の言ったことを、凜王は繰り返した。

「どうだ? 君は面白そうだと思わないか?」

「ところでそのクラスメイトは、なぜお前にそんな身の上話をしてくる?」

「へ?」

 眞姫は問いかけを無視されて、思わず素っ頓狂な声を発してしまう。

「そ……そういえばなぜだろう。全く気にしていなかった」

 ほぼ不登校のくせに……

 と、凜王は小声でつぶやいた。

 眞姫には聞こえていなかったらしい。

「やはり話しかけやすいのだろうか!」

「おやすみ」

 ドヤ顔の眞姫を凜王は窓で視界から消したのだった。

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