20××年 夏休み -4-

 言わずとも、ランドは激混みだった。

「ものすごい人の数だ……」

「そりゃ、日曜だからな」

 一番クローバーがふらふらしている。

 大丈夫かよ、こいつ。

 本当は猫だし……

「けど俺様ワクワクしてきたぞ! なぁ、あれに乗ろう!」

 ……いきなりジェットコースター……

 俺は一応後ろの二人にも確認の意で見た。

「俺は何でも」

「凜王に従う」

 ……そうっすか。

「くっそー! ジェットコースターでも何でも乗ってやらぁ!」

「どうした、惣一。ヤケになって」

「うるせぇ! 行くぞ!」

「うにゃっ!?」

 俺は猫の首根っこを掴んで、ズルズルと引きずっていった。


「うぅ……ジェットコースター……なんて恐ろしい……」

 乗った後は、お決まりのパターンだった。

 猫はベンチでうめいている。

「ふん。猫風情が人間様の乗り物で遊ぼうとするからだ。キャットタワーにでも登ってろ」

 ……こいつ……すげぇ暴言吐いてくるな……

 俺は白い目で眞姫を見るが、当の本人は風で乱れた凜王の髪を一生懸命整えていた。

「クローバー、何か飲み物でも買ってこようか」

 一応飼い主として心配はしているのか、凜王が声をかける。

「お……おう……頼む……」

「俺もついていくわ。お前、迷いそうだからな」

 眞姫に噛みつかれるのでは、と少し気にしながら言ったが何も言ってこなかった。

「ふむ。じゃあ眞姫はここで間抜けな猫のお守りしているとしよう」

 そう言って、眞姫は猫の隣にどかっと座った。

 一緒に行くと言わなかったのは意外だが、自分のことを名前で呼んでいるという事実に俺は驚いている。

 ただでさえこのキャラだというのに……痛いな……

 凜王の趣味を疑うというか……

「おい、惣一。行くぞ」

 ボーッとしていると、凜王に呼ばれたので慌てて後を追いかけた。

「なぁ、凜王」

 横に並んで、俺は尋ねた。

「あのさ……眞姫ちゃんって、いつもあんな感じなのか?」

「あんな感じとは」

 凜王は首を傾げる。

「その……結構攻撃的というか、当たりがきついというか……」

「あぁ……。変わっているからな。あいつ」

 うん、まぁそうだけど。

 お前に変わってるとか言われたくないよね。

「気にするな。誰にでもあんな感じだ」

「お前にはそんなことないじゃん」

「最初は俺に対しても冷たかったぞ。何とか心を開いてくれた」

「そうなのか」

 それにしても、開けすぎじゃねぇか!?

「惣一ならきっと、打ち解けられると思う」

「うーん……」

 別に友だちの彼女と打ち解けたってな……

「あれか、売店」

 凜王が前方に売店を発見した。

「そういや何がいいのか聞いてこなかったな。クローバーは炭酸系はやめておくべきだよな?」

「俺に聞くなよ……。猫だし、水とかにしておけば」

「そうだな」

 凜王は冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出した。

「眞姫は……お茶でいいか」

 おい、いいのかよそれで。

 絶対、あの和風なイメージに合わせただけだろ。

 それでも彼氏か。

 つーか、本当につきあってんのか?

 疑問に思いながら、俺も適当に飲料水を手にした。

 そして会計を済ませ、二人のもとへと引き返すのであった。

「……なぁ……ずっと聞きたかったんだけどよ……」

 その道中、俺は隣にいる友人に尋ねた。

「お前、本当は何が目的でここへ来たんだ?」

 ずっと引っかかっていた。

 突然だったということもあるが、なぜ、ここなのか。

 ただ遊びに来たかったわけじゃない。

 絶対、何か意味があってこの場を選んだ――。

 予想通り、無表情だった凜王が、ニヤリと笑ったのだった。

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