20××年 夏休み -2-

「ランド的な所へ行こう」

「俺の渾身のツッコミは?」

スルーか?

スルーする方向でいくのか?

ああ、いいさ。

スルーでも何でもするがいい。

「……で? ランドって?」

「ほら、あるだろう。魔法の国。ファンタスティック・マジカルランド」

「ランド的なも何もランドじゃねぇか」

海外、国内共に観光客が必ずと言っていいほど訪れる場所だ。

そんな人気の大型アトラクション施設に、俺たちは最寄り駅から電車ですぐに行ける距離に住んでいる。

なぜリアクションの薄い凜王が、そんなものに誘ってくるのか謎である。

「男だけであんなとこ行って何が楽しいんだよ……」

しかも、二人で。

夜なんてカップルの巣じゃねぇか。

勘弁してくれよ。

「知り合いも一緒に行きたいと言っているんだが、構わないか?」

「……誰?」

「隣の家の……」

「マキちゃんか!!」

何で知っているんだ。という顔をされた。

知ってるも何もさっきまで散々話題になって……つーか、それよりも!

「二人で行けよ!!」

そこに俺も入るって!?

何たる気まずさ!

「……俺とマキの二人で? 嫌なんだけど……」

嫌?

嫌って言ったか、今。

しかも何でそんな露骨に嫌そうな顔をしているんだ。

あんなとこ、家族かカップルで行くもんだろ!

「俺様も行きたい! 凜王!」

「ああ。そうだな」

空気読めよ。猫。

「ペットの持ち込みは禁止です」

「残念だな……クローバー……」

「ペットじゃねぇ!」

今は猫なんぞどうでもいい。

「来週の日曜でいいだろ?」

「……もう好きにしてください……」

俺は知らねぇからな……

痴話喧嘩にだけは巻き込まんでくれよ……

「そういやうっかり忘れるところだったけど、テスト勉強はいいのかよ」

期末テスト前にランドへ遊びに行くとは。

あまりにも不真面目すぎやしないか。

俺が言えたことではないが。

「テストか……忘れていた。ま、大丈夫だろう」

「大丈夫じゃねーわ」

お前とはちげぇんだよ。

「そのマキちゃんだって、期末テスト近いんじゃねぇの? そういやどこの学校? 同じか?」

石槻いしつき

「金持ち学校かよ……」

しかも偏差値高いし……

「テストに関しては特に問題ないらしい」

「さいですか」

頭のいい人はいいですね、全く。

「マキもたまにはいいだろう。ずっと引きこもっているし」

「ひき……え?」

何つった?

引きこもり!?

「ほとんど学校に行っていないんだ、あいつ。行く意味がないって」

……不良だのヤンキーだの言われている俺ですら毎日通っているというのに……

こいつの彼女……どうなってんの……

「その……成績の方は……?」

「成績に関しては問題ない。むしろ優秀すぎるほどだとか」

何それ、羨ましすぎるんだけど。

「マキちゃん何者……」

ボソッと俺がつぶやいたそのとき、下の階からミツバさんの悲鳴が聞こえてきた。

「……ちょっと見に行ってくる」

ため息をつきながら、凜王は俺と猫を置いて部屋を出て行った。

「実は俺様も実物には会ったことないんだ」

凜王がいなくなってから、猫がそう言った。

「マジでか」

「凜王とミツバだけさ。マキは引きこもってばかりで、なかなか姿を拝めない。外からも見えないしな」

そういや隣の家……どこもかしこもカーテンで閉ざされているな……

「そんなんで凜王とマキちゃんは上手くいっているのか……?」

「さぁ。長い付き合いだが、未だに凜王の思考は読めん。マキは間違いなく、凜王にゾッコンだろうが……」

なんだろうな……

羨ましいようで羨ましくないような……

「予告状はいつから作ってもらっているんだ?」

「そういやいつからだろうな……気がついたときには、マキが作っていた。正直凜王がどうやってマキと出会ったのか、俺様にもわからない。凜王とはほぼ毎日を共にしているというのに……俺様も不思議で仕方がないよ」

喋る不思議猫が不思議に思う、凜王とは一体……何なのか……

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