20××年 夏休み -1-
もうすぐ夏休みだ。
しかし!
その前に期末テストという大きな壁が立ちはだかっている!
これを乗り越えねば、平穏は訪れない……
「はーん。見た目通り勉強苦手なんだ」
やすりで爪を磨いている、ミツバさんのズバリな一言が突き刺さる。
「苦手というか……こう……文字の羅列を見ていると眠くなるというか……」
「わからなくもないわよ、その気持ち。そんなものを一生懸命学んだって、将来何の役にも立たないしね」
「ミツバさん……!」
さすがだ!
わかっておられる!
……大人としてその発言はどうかと思う部分は少しあるけど。
「凜王は目立たないように、低すぎず高すぎない成績を取るように意識していると言っていたぞ」
どこから湧いたのか、猫が言った。
何だそれは。腹立つな。
「はいはい。お喋りは終わり。手を動かしなさい」
「はーい……」
って、俺だけが働かされてないか!?
テスト勉強から逃げるようにこの店に来たら、書架の整頓をさせられる羽目となった。
凜王は外に出ているらしく、まだ出会えていない。
こんなオンボロ書店でも客は来るようで、買い取った古本が無造作に積まれていた。
「大変そうだなぁ」
「他人事かよ」
お前も手伝えよ……って、猫には無理か。
「……なぁ、そういや気になってたんだけどよ」
俺はふと思い出し、足元にいる猫に尋ねた。
「フェイクの予告状のカードってさ……どうやって手に入れてるんだ?」
「ん? ああ、それはだな……」
猫が教えようとしてくれたそのとき、ヒュッと、俺の耳元で何か音がした。
……え?
恐る恐る見ると、顔の真横にある本に手紙のような物が突き刺さっていた。
紙で手を切ることはあるが、ここまで鋭利なものだっただろうか。
「くっ曲者ッ!」
刺客から狙われているような気がして、つい時代劇ふうなセリフが出てしまった。
振り向くと、開け放たれた窓の向こうに見える、隣の家のカーテンがピシャッと閉められた。
な……何だ……!?
「ああ……気にすることないわ、マキちゃんね」
レジカウンターにいるミツバさんに、突き刺さった手紙を見せると、あっさりとそう言われた。
「俺様も驚いちまったぜ。マキなら心配ねぇな」
「いやいや。誰だよ、それ」
下手したら俺に刺さっていたかもしれないんだぞ、その手紙。
「さっきお前が聞いてきただろ。予告状を作っているのは誰かって」
「え!? そのマキちゃんとやらが作っているのか!?」
お隣さん!?
隣っていやぁ、超デカい家だよな。
人、住んでるんだ。
それより、予告状を作っているということは、怪盗フェイクの正体を知っていることになるのか……
「じゃあ、これも……予告状?」
「いや、それはいつものラブレターね」
「ラブ……は?」
おいおいおい。
凜王のやつマジか。
すげぇ裏切られた気分。
このご時世に手紙で愛を綴るとは……一体どんな古風な女子なんだろうか。
家は西洋風だというのに……
「ただいま」
するとそのとき、タイミングよく凜王が帰ってきた!
「惣一、来ていたのか」
「おう。暇だったからな」
軽く挨拶を交わしたところで、ミツバさんが黙って例のラブレターを凜王に差し出した。
対して、凜王も黙って受け取る。
何これ?
とか、そういう一言もなしだ。
あまりにも気になりすぎて、俺は後ろからこっそり盗み見をした。
うげ、なんじゃこりゃ!
達筆すぎて読めねぇ!
筆!?
縦書き!?
かろうじて読めた文もあったが、何だか古文の時間みたいで頭が痛くなってきた。
マキちゃん……何者なんだ……
俺が目眩を感じている一方で、凜王は一通り読み終えたらしく、封筒に紙をしまい、そのままゴミ箱に放り投げた。
な、何やってんのこいつ!
捨てた!?
ラブレターを捨てたのか!?
あまりにも驚きすぎて声すら出なかった。
そんな俺の様子にも気がつくことなく、凜王はポケットからスマホを取り出して何やらいじり始めた。
……え?
何してんの……?
まさか……
「返事はメールかよ!?」
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