20××年 夏 -20-
「惣一、いつまで頭を抱えているんだ。頭痛か?」
「頭痛もするわ! ちょっとは気にしろよ! クラスメイトにバレたんだぞ!?」
しかも俺はこれが初仕事だってぇのに!
「正体がバレるのは今に始まったことではないしな……」
「何言ってんだ……って」
そっか。
俺にバレてるもんな。
じゃあ、いいのか。
「……良くねぇわっ!」
「何なんだ。俺は何も言ってないぞ」
「一人ツッコミだから気にすんな!」
ああ、何でこいつはこんなに平然としていられるのか。
いちいち狼狽えてる自分がバカみたいだな……
「もう何でもいいわ……。それより、猫はどうすんだ?」
「上手くやっているだろう。家で合流する」
だから……何を上手くやっているんだ……
「にゃーはっはっはー! 順調、順調! バカな警察共を出しぬいてやったぜー!」
噂をすれば、屋根を走る俺達の隣に猫が現れた。
そしてそのまま並走する。
「おい、猫。なんだか知らねぇが上手くいったのか?」
「あたぼうよ。俺様に抜かりなし! そういうお前たちも上手くいったようだな。ま、凜王に限ってヘマなどしないだろうが」
残念ながらクラスメイトに正体バレたんですけど……
俺たちはあえてこのことは言わなかった。
古本屋まで何とかたどり着いた俺たちは、睡眠中だったと思われるミツバさんに出迎えられた。
思春期真っ盛りな男子高校生にはちょい刺激的なパジャマ姿である。
しかし、本人はそんなこと気にする素振りもなく、「ご苦労」と、一言だけ言って自室に戻っていった。
「どうせミツバにはこんな錆びれた物、興味ないさ」
猫が素っ気なく言った。
「俺様にとってはご馳走だがな!」
そして、目を輝かせた。
「さぁ! 早く寄越せ、凜王!」
ピョンピョン飛び跳ねて、凜王の持つ髪飾りを取ろうとする。
元気だな……休ませろよ……
「クローバー、おすわり」
おすわりって……犬じゃああるめぇし……
呆れるが、猫はよっぽど欲しいのか、大人しく言うことを聞く。
プライドはないのか。
凜王が猫の鼻の先までそれを持っていくと、パカッと口を開けた。
剣を飲み込む手品のように、猫の口の中へと髪飾りは消えていく。
ごくり。
噛み砕くとかするわけでもなく、丸呑み。
喉につまらねぇのかな……
「──に゛あああぁぁぁああーっ!!!」
そんなことを考えながら眺めていると、猫が突然悶え始めた。
な……何だ?
「クローバー……?」
「にゃんじゃこりゃああああ! まっじぃぃぃぃ!!」
そりゃ不味いだろうよ。
何言ってんだ、こいつ……
「どういうことだ? クローバー。不味いって」
「とんだゲテモノを食わされた……! こんなもの、俺様の腹の足しにならねぇ!」
どういう味がするのか全く想像がつかないが、猫はかなりご立腹である。
「騙された! こいつを狗山に売りつけたやつだ……きっと、そいつに騙されたんだ!」
誰かもわからないやつを、詐欺師呼ばわりしだす。
俺にはよくわからないままだったが……
俺の怪盗としての初仕事は、思わぬ形で結末を迎えた。
成功といえば成功なのだろう。
だが、猫にとっては失敗だったのかもしれない。
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