20××年 夏 -19-

おいおいおい!

誰もいないんじゃなかったのか!?

入ってきたのは、狗山……同級生の方の狗山だった。

最悪だ!

どうすんだよ!

俺は凜王を見たが、やつはまだピッキングをしていた。

ピッキングは一旦やめなさい!!

「もしかして……怪盗フェイク? 本当に髪飾りを盗みに来たのか?」

俺はどうすればいいのかわからず、狼狽える。

凜王!

何とかしてくれよ〜!

「……ちょっとそこ、どいてくれるかな」

噂の怪盗を目の前にしているというのに、狗山はひどく冷静だった。

凜王は黙って、ピッキングの手を止め言う通りに狗山に場を譲った。

「……安易なことにこれ、俺の生まれた年がパスワードなんだよね」

狗山が四桁の数字を入力すると、金庫の扉は簡単に開いた。

「……はい、これ」

そして、古びたそれを凜王に手渡した。

俺はポカンとする。

「な……何で……?」

思わず声を発してしまった。

「これがなくなれば、親父は元に戻るんだろ? わかっていたんだ。このよくわからない物が原因なんだって……。でも、俺じゃあどうすることもできなくて」

狗山もわかっていたのか……

「怪盗が狙ってくれないかなって思っていたら、本当に予告状が来たから驚いたよ。大丈夫。俺は体調不良で寝込んでるってことになっているから」

早く行けよ、と、狗山は言う。

何、こいつ。

知ってたけど超いいやつじゃねぇか!

「でも驚いたな。まさか井瀬屋まで怪盗だなんて」

…………ん?

今、何つった?

「え? あれ? 如月と井瀬屋だろ、お前ら」

ばっ……バレとるやないか~っ!

「ちょっ、おまっ……どうすんだよ!」

「どうするって」

「しらばっくれるんじゃねぇ!」

終わった。

早速バレるなんて。

この先どうすればいいのやら……

「ごめん。言わない方がよかったか?」

「そういう問題じゃねぇ……」

俺は頭を抱えた。

「安心して。正体を世間に晒したりなんてしない。約束する」

狗山の目は真剣だった。

こいつが嘘をつくとは思えないが……

「それより、早く行けって。誰かが帰ってきたら面倒だろう?」

俺たちはグイグイと背中を押され、ベランダまで追いやられる。

「助けてもらってばかりだからな。俺にも手伝わせてくれよ」

「そんなことっ……」

そんなことない。

むしろ俺のほうがいつも助けられてばかりで……

「行った行った! また学校で会おうぜ」

狗山は俺達に軽く手を振り、ベランダの扉を閉じたのだった。

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