20××年 夏 -18-

……なんて。

調子に乗ってキザっぽく言ってみたり。

「まさか本当に屋根の上を行くとは……」

いよいよ決行のときがやってきた。

俺は凜王と猫の後について、屋根の上を歩いていた。

もちろん、歩ける屋根を選んでいる。

「この格好で地上を歩くのはさすがに目立つからな」

黒ずくめの衣装を身にまとっているとはいえ、凜王の言う通りだ。

まぁまぁ目につくよな。

しかも真夏にこんなロングコートて。

「でも暑くないな」

「ふふん。俺様が気を遣ってやってるからさ」

猫が得意気に言った。

なぜこいつが威張るのかというと。

この肉球がついた前足二本で夜鍋して作ったから……とかではない。

猫の力であるには間違いないが……

なかなかに信じ難い話ではあるが、こう……なんというか……変身したというか……

何を言ってるんだと思うだろう。

安心しろ。

俺も何を言っているのかわからない。

だが、怪盗のテンプレみたいな格好をしていることだけはわかっていただきたい。

「──さて」

もうすぐ公民館近くというところで、猫は足を止めた。

「それじゃあ作戦を実行しよう」

……作戦?

めちゃくちゃ格好つけて言っているが、作戦って何だ。聞いてねぇぞ。


――何で俺。

「狗山ん家に来てんだ?」

一般家庭よりも大きい、庭付きの戸建ての家に俺と凜王はいた。

猫とは途中で別れた。

明かりも消えているし、誰もいない。

そりゃそうだ。

だってみんな、公民館の方へ行っているのだから。

「……なぜこんなことになったんだ?」

すると、凜王は人差し指を公民館のある方角へ向け、

「あっちへ行っても妖精の髪飾りはない」

と、言った。

……は?

「じゃあ、何があるんだよ?」

「偽物」

「は?」

何言ってんのかわかんねぇよ。

そもそも妖精の髪飾り自体が偽物っつったのは誰だよ。

「偽物の、偽物」

「偽物の偽物まで用意済みかよ……」

やっとどういうことなのか理解できた。

「つーか、何でお前そんなことまで知ってんだ」

「聞いたんだ」

「誰から?」

「狗山」

……まさかの。

凜王の言う狗山は、恐らく父親ではなく息子の、俺らと同級生の方だ。

あのちょっとした事件後、一日休んで、狗山は普通に登校してきたのだった。

あまり元気になったようには見えなかったが……

「いつ、そんなことを……」

「たまたま、な。あいつの方からポロッとこぼしたんだ」

思わぬ収穫を得ていた。

なぜそれをもっと早く共有してくれなかったんだ。

「それ……信じてもいいのか?」

「疑う要素はない。間違っていたとしても、公民館へ向かえばいい話だ」

簡単に言うがな……

俺は初めてなんだからな。

忘れるなよ。

「公民館の方は、クローバーが囮で行っているから問題ない。調べた限りではこの家に防犯カメラ等の設備はないから安心して潜り込める」

「不法侵入の時点で安心できないんですけど」

俺のツッコミも虚しく、凜王は近くの家の屋根から、狗山邸のバカみたいに広い2階ベランダに飛び移った。

そんなに距離がないとはいえ、なかなか勇気のいる行動である。

軽々と飛び越えた、あいつの身体能力はどうなってんだ。

俺が躊躇している間に、やつはベランダのピッキングを始めた。

マジで泥棒じゃねぇか!

──ええい、ままよっ!

俺も思い切って、ベランダへ飛び移った。

着地してみたら、思ったよりも大したことなかった。

凜王がピッキングをしている後ろで、俺は一人挙動不審になっていた。

「……開いた」

そして、早い。

どこでピッキングなんて技、身につけた。

凜王に続き、中へ入るとそこは、書斎だった。

「ここが狗山の親父の部屋っていうのも調査済みかよ」

「クローバーがな」

道理でドンピシャなわけだ。

「で? ここから探すのか?」

「そうだな」

「……思っていたよりも華麗じゃないな……」

コソ泥と言われてもおかしくないほどにな。

「あまり漁るなよ。あと、証拠もできるだけ残さないようにしろ。家に置いてあるとはいえ、鍵のかかったところにしまっているはずだ。そういう所を重点的に……」

「……おい」

ごちゃごちゃと説明してくれていたが、俺は見つけてしまった。

「何だ」

「これじゃないのか?」

適当に開けたクローゼットの中に、ダイヤル式の金庫が入っていた。

絶対これだ。

「でかした。早速開けてみるか」

「開けるって……番号わかんのかよ?」

「ピッキングすればいい」

またピッキングかよ。

ベランダの鍵とはまた訳が違うから、どれだけ時間がかかるのやら……

かちゃかちゃと、作業を始めた凜王の後ろ姿を、ため息をつきながら見守る。

地味だ……地味だわ、本当……

「……誰かいるのか?」

「……!?」

そのときだった。

書斎の扉が開いて誰かが入ってくるという、起きて欲しくない事態が発生した。

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