20××年 夏 -17-

まず結果を伝えておくと、猫の機嫌は直った。

高級猫缶で。

お前、猫缶食うのかよ。

と、ツッコミそうになったが、俺は堪えた。

また機嫌を損ねられても困からな。

そして、潜入調査の結果報告として、俺達が立ち入れなかった部分の構成を聞いた。

が、ほぼ頭に入ってこなかったのは内緒だ。

そんなことよりも、ついに予告状を出すということの方が大事だ。

決行日は展示会の最終日。

時刻は午前0時。

つまり、だ。

盗んでしまえば最後の展示会は行えないということになる。

一目拝みたい人には、非常に申し訳ないスケジュールだ。

ちなみに最終日は日曜なので、夜更ししても何ら問題ない。

高級猫缶をぶら下げて、古本屋を訪れた日に決まった日程である。

「さすがに緊張してくるな……。予告状って、どんなのを出すんだ?」

「これだ」

凜王は手袋をはめ、一枚のカードを見せた。

誕生日やクリスマスのときに渡すような、メッセージカードくらいの大きさの物だ。

シンプルに「怪盗FAKE」という文字が斜めに書かれ、その反対側にはいつ盗む等の予告メッセージが記載されていた。

これが怪盗フェイクの予告状……!

改めて、こいつは本物なんだということを再認識した。

「これを出せば……後戻りはできねぇんだな」

「そういうことだな。怖気づいたか?」

「うるせーな。こっちはテメェと違って初めてなんだぞ。緊張もするわ」

すると、猫がフンと鼻を鳴らした。

「ヤンキーが緊張か。笑わせてくれるな」

「置いてけぼり食らってすねてたくせに、偉そうにしやがって」

即座に言い返すと、猫はグッと、押し黙った。

ざまぁ。

「誰がその予告状を出すんだ?」

「俺様に任せろ」

ここでもまた猫の登場である。

「お前……大丈夫なのか?」

「大丈夫に決まっているだろう!? 素人は黙っていろ!」

む……ムカつく……

さっき俺にバカにされたからって……

「予告状を出せば、きっと持ち主は焦るだろう。そうなればまた作戦を練られる」

なぜか猫は楽しそうに言った。

「どういうことだ?」

「怪盗を名乗る者から予告状を受け取れば、間違いなく警察に相談するだろう。警察が動けば俺様がまた当日の動きを探ることができる。あいつらは当てになんねぇからなぁ。これまで散々フェイクにやられて焦っているから、ボロが出まくりなのさ」

猫は笑うが、俺は全く笑えない。

やはり俺は素人らしい。

「これで今回もフェイクの勝利だな!」

もうその気でいるのか……


その後は、特に侵入方法などを聞かされたわけでもなく。

いつの間にか予告状も狗山町長のところへ届けられており。

あちこちで怪盗フェイクのことが話題となっていた。

こういうときこそ素知らぬふりをして、堂々としていなければいけないのに、俺としたことが妙に縮こまってしまっていた。

まぁ……誰も次から次へと盗みを行っている泥棒もとい怪盗が。

こんな平凡な町に住む高校生だとは思いもしないだろう。

俺だってビックリだかんな。

だが、ここで怖気づいたって仕方ない。

後には退けねぇんだ。

それに、成功すれば……

狗山の悩みの種が消える……はず。

なぜあいつのためにそこまで。と、自分でも思うが、助けてやりたいと思ってしまったのは隠しようもない事実だ。

同級生、先公共がどれだけ俺を冷たい目で見ようとも。

あいつだけは変わらず接してくれた。

……動機はそれだけあれば十分だ。


よし!

心の準備はできた!

ショーの幕開けだ!

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