20××年 夏 -15-

俺たちは……というか、凜王がそれ以上は深入りしようとしなかったので、ある程度のところで切り上げた。

狗山の母親に不審がられてなきゃいいけど……

「妖精の髪飾りって、結局のところ何なんだろうな?」

それだけは狗山町長に一番近い人に聞いてもわからずじまいだ。

「狗山のお母さんもあれがどういう物であって、どこで手に入れたかもわからないっつーもんな。俺らはどうしたらいいんだ? というか、盗んだら狗山のお父さんは元の真人間に戻るのか?」

そこが一番気掛かりである。

「落ち着け。質問が多い」

そりゃ多くもなるだろ。

「妖精の髪飾りは前にも言った通り、ただのガラクタ。あれに価値などない。真人間に戻るのか、戻るだろうな。町長からあのガラクタを取り上げればな」

俺の疑問はあっという間に片付けられてしまった。

「……で、いつ盗むんだ?」

「ん。近々」

だからいつだよ。

「盗むとするなら、狗山の自宅からになるのか? なんか怪盗っつーより泥棒だよな……」

ちょっとどころかかなり複雑な気分である。

怪盗の方がまだ聞こえはいい。

「狗山の自宅……って豪邸か? どうせ普通の家だろ?」

「そうだろうけど……少なくとも、お前に言われたくないだろうよ」

あんな今にも潰れそうな本屋に住んでるやつにはな。

「行動できる範囲で広い所だったらいいんだけどな」

場所にこだわるなよ……

まさか怪盗の美学とか言うんじゃないだろうな?

都会でも田舎でもない、何とも微妙なこの町にそんな豪邸やら何やら存在するかよ。

聞いたこともねぇわ。

「その方が動きやすいしな」

あ、そっち?

そういう理由?

逃げやすいってこと?

なるほど。よくわかりました。

「でもさ、やっぱ自宅に置いてるだろ? 大事にしてるんなら。まさか仕事場に置いてるってことはないだろうし。つか、そういうのを聞けばよかったんじゃないか?」

些細かもしれないが、重要なことだった。

今更気づいても遅いが。

「……クローバーに相談するか」

結局猫任せか。


本当はまだ聞きたいことはあったが、その日は大人しく真っ直ぐ家に帰った。

続きはまた明日だ。

ここ数日、真面目に夕方には帰宅しているせいで、母親に驚かれる。

むしろ、心配されるほどだった。

……これからもっと悪いことをしようとしているせいか、遅くまでふらついたり、誰かとケンカするなんて気が失せてしまったのだ。

夕食の際に見ていたテレビ番組でも、例の髪飾りが特集されていた。

俺は思わず箸を止め、テレビの画面に集中した。

簡単にテレビから得た情報をまとめるとだな。

妖精の髪飾りというのは、その昔、とある日本人がヨーロッパより持ち帰った物だそうだ。

その日本人がどこの誰だかはさっぱりわからないが、ヨーロッパの何とかって貴族の持ち物だったそうだ。

……うん。俺の説明が悪かったな。

要は話は聞いていたが、全く頭に入ってこなかった、ということを察していただきたい。

だけど、胡散臭い話だなというのは、わかってもらえただろう。

さすがにテレビからは、どこで狗山町長が手に入れたのかという情報はわからなかったが。

「ああいうお宝を持っていたら、どこに置いておく?」

「は? そりゃあ家でしょ」

何となく母に聞いてみたら、やはりそのような答えが返ってきた。

ですよね〜……

『ここでお知らせです。来週から、この妖精の髪飾りを稲穂ヶ岡公民館にて、期間限定で一般公開することに決定致しました』

「え!?」

まさかのニュースに、俺は声を上げてしまった。

一般公開?

公民館で?

マジで?

「あんたどうしたの……? まさか、見に行きたいの……?」

母の心配そうな声をよそに、俺は慌ててスマホを取り出して、凜王にメッセージを送ったのだった。

これは、もしやチャンス!?

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