20××年 夏 -13-

俺のせいで、どうでもいい教師との絡みに無駄な時間を費やしてしまった。

本題はここからである。


「凜王、この後はどうするんだ?」

狗山の大体の情報は得た。

しかし、妖精の髪飾りとやらに関しては謎のままだ。

放課後はいつも通り凜王と学校を出た。

「まだまだ他にも情報は必要だ。クローバーにでも情報収集させるか……」

「猫だもんな。……って、よく考えたら、猫って便利だな!」

どこへでも潜り込めるじゃないか。

意外な発見をしてしまった。

「いつもはどうしてるんだ?」

「クローバーと姉さん任せ。何もするなと言われる」

「お前……何かやらかしたんじゃないのか……」

不満そうな顔をしているが、絶対そうに違いない。

「けど、何もせず待ってるのも嫌だよな……」

そもそも俺、素人だった。

「本当に俺で大丈夫なのか?」

急に不安になってきて、尋ねてみた。

「やってみないとわからないな」

……うん。こいつに聞いた俺がバカだった。

「どういうルートで盗むとかあるだろ?」

「建物の状態も全て調べた上で盗みに入る。そこの指示はクローバーから受ける」

「また猫任せかよ……」

何だ、こいつ。

実践以外はてんでダメなのか。

怪盗の名が泣くぜ、全く。

「でもさ、セキュリティとか万全にしているだろ。そういうのはどうやって突破するんだ?」

まさか猫がハッキングなんぞできるわけもない。

凜王は「うーん……」と唸ってから、

「いつもどうにかなっている」

とだけ言った。

大真面目な顔で。

答えになってねぇし。

「お前本当に大丈夫なのか!? そんなんでよく捕まらずにこれたな!?」

「お前は一体何をそんなに気にしているんだ?」

「気にするわ! 捕まるのはごめんだからな! 俺は!」

何度か補導はされているが、盗みで捕まれば完全にお終いだ。

うっかり引き受けてしまったが、それでもやはり捕まるのだけは嫌だ。

「頼むからちゃんと教えてくれよ!? 俺は一応普通の男子高校生なんだからな!?」

「……あ」

そんな怪盗様様が前を見て、声を上げた。

「聞いてるのか!?」

話をそらそうっていうのか。

その手には乗らねぇぞ。

「あれ」

「そんなんで気をそらそうたって、そうはいかねぇからな!」

「いや、見ろよ。あれ」

「あれって何だよ。やっぱり適当なこと言ってんじゃねぇかよ」

「狗山」

「え? マジか」

その名に、つい反応してしまった。

凜王の言う通り、狗山が俺たちより数メートル離れた先を歩いていた。

だが、その姿は。

「……何か……おかしくねぇか……?」

おかしいのは前からだが、疲れているのレベルを通り越しているような気がした。

足取りがかなりふらついている。

危ないな……

そう思いながら遠くから見ていたが、あいつが歩く先に信号があることに気がついた。

嫌な予感がする。

信号は……しばらくの点滅の後、赤に変わった。

「……おい、嘘だろ」

狗山の足は止まらない。

車用の信号はまだ赤だ。

今ならまだ間に合う。

「狗山ぁっ!!」

叫ぶが、俺の声は届いていないようだ。

こうしている間に、すぐ車は発進し出すだろう。

やばい、走って間に合うか!?

このままだと、あいつ。

俺が動き出すより早く、鞄を放り出して凜王が走り出した。

信号が青に変わり、車が一斉に走り出す。

狗山は歩くことをやめない。

信号に気づいていないかのように。

追いつかないとわかってはいるが、俺も狗山の名を呼び名ながら走り出した。


狗山の足が、白線を踏みかけたその瞬間。


凜王が襟をつかんで、思いっ切り後ろに引いた。

狗山の体はそのまま倒れ、大惨事は免れた。

安心した俺は、体から力が抜けていくのを感じた。

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