20××年 夏 -10-

翌日の昼休み。

俺は凜王を連れて教室を出た。

「どこへ行く気なんだ? 食堂か?」

「うるせぇ。飯食ってる場合かよ」

人の波に逆らい、科学室等がある棟へと進んでいく。

途中、廊下の曲がり角で、俺は足を止めた。

「……情報が欲しい」

そして、誰もいないように見える曲がり角の先に向って言った。

「……対価は?」

くぐもった声が聞こえてきた。

対価……そうか……対価……

「……購買の焼きそばパンでどうだ?」

「ハァ!? てめぇ、ふざけてんのか!?」

さっきまでのが嘘だったかのように、途端に甲高い声が廊下中に響き渡った。

「アタシの情報の価値、わかってんのか!?」

目の前に姿を見せたのは、やたらに化粧の濃い女子だった。

ギャルと表現すれば想像しやすいだろう。

間違いなく教師から注意を受けそうな格好をているにも関わらず、今のとこ生活指導室に連行された気配はない。

ちょっと髪を茶色に染めた程度の俺ですら、即連れて行かれたというのに……

「惣一……何なんだ、このギャル……」

さすがの凜王も引いているようだった。

無理もない。

どこからどう見てもギャルだからな。

化粧だけじゃなくて、キャラも濃いし。

でもな、凜王よ。

こいつも同じクラスだぞ。

「つーか、あんたら最近つるみだしたとか、どういう心境の変化? そこの情報無さすぎてアタシ超発狂しそうなんだけど。説明してよ」

凜王が何か言いたげな目で、俺を見てくる。

わかるよ、わかるけどよ。

蝶乃ちょうの……俺らのことより、教えてほしいんだけど……」

「だから、見返りを寄越せっつってんだよ」

「焼きそばパンじゃ駄目なのかよ」

「だから、なめてんのかって」

「惣一……」

そんな目で見るなよ!

俺だってわかってるって!

「大体、この女は何なんだ」

「わお。クラスメイトによくそんなことが言えるね。超ウケるんだけど。さっすが」

こいつにはクラスメイトとか、そういう認識ないからな……

「こいつは蝶乃っつって……実はこいつも同じ中学出身で腐れ縁っつーか」

「蝶乃舞美まみでーす。改めてよろしくぅー」

「中学んときはこんなギャルじゃなくて、むしろクラスに一人はいる地味女子だったんだけどよ……高校デビューが炸裂してこうなってしまった」

「オイ、てめぇ。裂くぞコラ」

グロいな!

「地味だろうがギャルだろうが、とにかくこいつの持っている情報は膨大で、国一つ支配できるんじゃないかって言われているほどだ」

「普通にありえねーけどな。ウケる」

今のどこにウケる要素があるんだよ。

「ふぅん……要はそいつから、情報を聞き出そうということか」

「そうだな。それが一番手っ取り早い」

「で、その対価がほしいと」

「当たり前じゃん。タダでやってられっかよ。アタシの情報は安くないよ」

焼きそばパンで十分じゃねぇかよ……

何がダメだっていうんだ。

人気商品だぞ。

「こいつを信用してもいいのか?」

凜王はまだ疑っているようだった。

「ああ、もちろんだ。こいつの持っている情報は確かだ」

「マジで? アタシ、信用されてない? 超ウケる。あんたのその不名誉な噂、全部嘘だと思ってやってんのにぃ」

「親がいないとかそういう話か? あながち間違っていないからどうでもいい」

どうでもよくないだろ……

本当、凜王こいつときたら……

「ここは惣一の言葉を信じるとするか……。対価があれば情報をくれるんだな。だったら、情報には情報でどうだ」

「へぇ。どんな情報があるわけ?」

「連絡先、教えろ」

凜王はスマホを取り出し、蝶乃と連絡先を交換し合った。

そして、何やら素早く文字を打ち込んだ。

当然、俺には何をしているのかわからない。

凜王から送られてきたものを見たと思われる蝶乃は、にやりと口を歪めた。

「焼きそばパンより超価値があるじゃん。オーケー、これで手を打とう」

一体何を教えたんだ……

というか凜王……スマホ持っていたのか……

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