20××年 夏 -8-

怪盗フェイクこと、如月凜王がクラスメイトたちに興味がないのはよーくわかった。


そら、ぼっちにもなるわ。

親がいないから……とかおかしな噂のせいもあるんだろうけど。

それ以前の問題だった。

全く、困ったものだ。


狗山には、俺と仲良くしてやってくれなんて言われてたいたが、むしろ俺の方が仲良くしてやらねばならん。

恐らくあのお節介委員長のことだから、新学期当初、凜王との交流を深めようとしたに違いない。

あの様子だと、総スカンだったんだろうな……


「あの学級委員長なんだが」

「え?」

放課後。

前回同様、並んで帰宅していたら、まさかの向こうから話題にしてきた。

ビックリしすぎて、思わず凜王を凝視してしまった。

「言っていた通り、かなり疲弊しているようだな」

「へ? ああ……塾か?」

「気がつかなかったか?」

金色の瞳がじっと俺を見つめる。

「さっきの授業のとき、あいつ船を漕いでいたぞ」

「マジか」

あの優等生委員長が。

居眠りとな!

「そんなに疲れているのか……塾って大変だな」

俺とは縁遠いものである。

「あ、噂をすれば」

凜王が声を上げた。

俺たちの少し前を、狗山が歩いていた。

その姿は完全に疲れきっていた。

つーか、あいつ。

「おーい、狗山ぁ。部活はどうしたー?」

俺が遠くからその背中に向かって呼びかけると、狗山は力なく振り向き、微笑んだ。

「今日は塾があるんだ。だから部活はサボり。先生の許可は得ているけどな」

じゃあな。と、狗山は行ってしまった。

部活を休んでまで……そんなに勉強が大事か?

文武両道の無敵委員長じゃあなかったのか?

「納得がいかないって顔をしているな」

「いや、だって」

中学のときから、あいつは何に対しても平等に全力で挑んでいた。

それが塾なんぞを言い訳に。

サボるなんて。

おかしい。

何かがおかしい。

「そういや狗山って、どこかで聞いたことのある名だな」

凜王がそうつぶやいたので、ふと思い出した。

「あいつん家の親父、あれだよ。町長だ」

俺たちの住む、稲穂ヶ岡町いなほがおかちょうの町長。

それが狗山の父親である。

「へぇ……」

なぜか興味を示した凜王だったが、このときの俺は そんなことを気に止めなかった。

「狗山も大変だな。もしかして、あいつも町長とかそういうの目指してんのかな」

だったら勉強ばかりしているのも納得がいく。

だからといって、部活を切り捨てたりするだろうか。

中学のときからあいつはずっと陸上を続けている。

大会でも好成績を残しているというのに……

「人にはそれぞれ事情というものがあるのさ」

凜王が何やら意味深な言葉を放ったが、俺の耳にはきちんと届いていなかった。

「それにしてもあっちぃな。アイスでも買うか」

「賛成」

俺たちはいそいそと近所のコンビニへと向かった。


コンビニの前でアイスを食しながら世間話をし、その日はそこで別れた。

俺にしてはかなり早い帰宅時間である。

この炎天下の中、ぶらつく元気もない。

涼しい家の中で大人しくしていよう。

「あら。珍しいわね」

家では母が、お菓子をつまみながらワイドショーを見ていた。

晩飯の準備はまだらしい。

そんな母を横目に、自分の部屋へ行こうとしたときだった。

テレビから気になる単語が聞こえてきたのだった。

『狗山町長が所持されております、“妖精の髪飾り”ですが……』

ん? 狗山?

俺は思わず足を止め、テレビを見た。

『一体これがどんなものかと言いますと……』

小さな、可愛らしい髪飾りがパッと映しだされる。

「へぇー……こんなものがあるのねぇ。どうやって手に入れるのかしらね? そういやあんた、確か息子さんと同じ学校じゃなかったっけ?」

母の質問は聞こえていなかった。

狗山……

何だかタイムリーだな……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る