20××年 夏 -7-

怪盗、か。

まぁ悪くない響きだ。


そんな呑気なことを思っていると、ギィ……と、古い鉄の扉が開く音がした。

やべっ。

先公か!?

いつでも逃げられる態勢をとっていたが、現れたその姿を見て安心した。

「あれ? 井瀬屋……に如月? こんな所で何してるんだ?」

俺たちのクラスの学級委員長、狗山いぬやまだった。

俺とこいつは同じ中学出身なので、顔見知りである。

「珍しい組み合わせだな。もしかして、カツあげ?」

「アホか。そんなちっせぇこと俺がするかよ」

「だよな」

狗山はハハッと、軽く笑った。

委員長で優等生だが、こいつは意外と気さくな人間である。

「井瀬屋もさ、あんまり一人でこんな所にいるなよな。先生たちに煙草でも吸ってんじゃないかって疑われてるぞ」

「冗談……俺がそんなもの吸うかよ……」

不良と言われても、さすがに未成年がやってはいけないことはしない。

怪盗になろうとしているけども。

「最近お前らって仲いいの? 土曜日辺りから一緒にいるよな」

「別にぃ……」

怪盗やってますなんて言えるわけないので、言葉を濁す。

凜王は、話す気もないらしい。

少しは助けろよ。

「如月、こんなやつだけど井瀬屋も悪いやつじゃないからさ。仲良くしてやってよ」

「何だそれ……余計なお世話なんだけど……」

「だよな。俺も思った」

狗山はまた笑ったが……ん? こいつ……よく見たら……

「お前……目の下……隈、すげぇな?」

「え? マジで? あー……遅くまで塾行ってるせいかな」

そして、何だか疲れているようにも見えた。

なぜだかわからないが、不安を覚える俺。

「そろそろ受験のことも考えないといけないし、面倒だよな。……あ。もうすぐ予鈴鳴りそう。じゃ、俺先戻ってるな」

狗山はそう言って、また古い鉄の扉から出て行った。

塾……か。

「いくら受験の為といえども、疲れるなら行く意味あんのか? 睡眠不足じゃあ効率悪いだろ」

「いきなり何だ。さっきのやつのことを心配しているのか?」

「心配っていうか……あいつ、俺と同じ中学なんだよな」

すると、凜王は「ふーん」と、興味なさげな声をあげた。

「通りでヤンキーに親切なわけだ」

「だから……」

ヤンキー言うなって何度言えば……

このツッコミもそろそろ飽きてきたぞ。

「どこのクラスなんだ?」

「どこって……同じクラスなんですけど……」

マジで言ってんのか、こいつ。

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