20××年 夏 -6-

結局、今ひとつ理解できないまま、その日は古本屋を出た。

一つわかったことは。


犯罪の片棒を担がされたということ。


これはもう決定事項だ。

俺に拒否権はない。

あの女は、俺を怪盗フェイクにしようとしている。

巷で噂の。

あの怪盗に。


「悩んでいるようだな」

週明けの月曜日。

誰も来ない非常階段に腰を掛け、頭を抱えていると、後ろからそんな声が聞こえてきた。

振り向くと、眼鏡の冴えない男が立っていた。

眼鏡の奥見える金色の瞳は、相変わらず綺麗な輝きを放っていた。

「フツーに悩むだろ。受け入れろっつったって……情報量が多すぎて、キャパオーバーだ」

「そうか。俺は別に歓迎するぞ」

俺の気持ちを考えろよ!

俺は再び頭を抱えた。

「お前は退屈じゃないのか?」

突然の質問に、もう一度やつの顔を見た。

「毎日が退屈なんじゃないのか? だからヤンキーになった」

「ヤンキーになった覚えはない。確かに俺は……不良みたいなことしてるけどさ……」

しかし、ヤンキーと言われると、反発したくなる。

「姉さんもきっと、この世界に退屈している」

「それでお前に怪盗なんぞやらせている……っていうのか?」

「これは俺の意志だ」

やつはきっぱりと言い切った。

「毎日、息苦しくて仕方がなかった。いじめられているからとかじゃない。毎日起きることがくだらなさすぎて、息が詰まりそうだったんだ」

それは……

理解できないとは言えなかった。

俺にも思い当たる節があるからだ。

退屈。

そうか。

俺は毎日が退屈だと感じていたのか?

「注目されたいとか、そういうのではないんだ。人と違う何かをするということは、スリリングがあって結構病みつきになるぞ?」

ニヤリと、イタズラを思いついたガキのような笑みを浮かべる。

「姉さんが言うように、お前には素質があるのだろう。見たところ、運動神経も悪くなさそうだし。きっとやれるさ」

「なぁんか、あんまり嬉しくねぇなぁ……」

本当に、俺に断る権利はないらしい。

潔く諦めるしかないのか……

「指導、よろしく頼むぜ。凜王」

何だか照れ臭いが、俺はやつに向かって右手を差し出した。

「ああ。こちらこそ。惣一」

相手は何の躊躇いもなく、手を握り返してきた。

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