俺と恵さん 25匹目の犬

93話 顔に手を当てる




「優様はもう少し自分に自信を持つべきでは?」




そういって、俺が顔にあてていた手を触る。




「急になんです?」




「よく手を顔に当てられる癖があるじゃないですか。あれは顔という自分の主要な部分を隠してしまう心理的な自分への自信のなさを表すものだそうです」




「別にそんなつもりはないんですがね」




でも無意識にそういうことをすることはある。直したほうがいいか。




「あるいは小顔に見せるために口元を隠すというのも考えられますね」




そういいつつ、恵さんが自分の口元を隠す。




確かに、顔が小さく見える。もともと恵さんは小顔だが。




「俺はそんな女子みたいなことはしませんよ」




「あるいはフェ○チオを成功した後に出たあれを、こぼしそうになって手ですくってこぼさないようにする練習ですか?」




「俺は男のものを加える趣味はありませんよ」




「俺体固いんで」




柔らかければやるというわけではない。




自分のをくわえる趣味を持っていて、体もそこまで柔らかい人は貴重だろう。




俺は正常な人間だ。




「セルフフェ○チオですか!」








94話A 婚姻の話




父さんから今朝、結婚を考えていないかという話が出た。




俺は特にないと答えたが、するとたくさんのお見合い写真を見せられた。




特定のだれかを紹介できないのであれば、とりあえずお見合いをしてくれということだ。




俺にしろ相手にしろ、結婚そのものは後になるとしても、早い時点で婚約をしておいて、関係を作っておくことが多いらしい。




次に戻ってくるまでに決定しなければいけないらしい。俺には決めた相手がいるのに……。




あの場に恵さんがいなかったのだけは幸いだったな。




さて、俺はどうするべきか……。




俺がここで相手を選んだ場合でもまだ俺は16歳。実際にそういう生活をおくるのは実際には先になる・




だれか1人を選んでとりあえず形にしておけばそれまでは恵さんと一緒にいられる。




だが、それではもう恵さんに告白するチャンスはなくなってしまうかもしれない。




だったら、いっそのこと告白してしまうか? 




しかし恵さんは俺をそういう目で見ていないかもしれない。もしふられるようなことがあったら、恵さんともう一緒にはいられないかも……。




仮に答えてくれたとしても、父さんや母さんは許してくれるのか。




お見合い写真にもらったのは、プロフィールを見る限りでは名家のお嬢様ばかり。




恵さんを悪く言うわけではないが、恵さんは名家の生まれではない。あくまでも使用人である。




それを俺はあと3日足らずで決めなければならないのか。










「優様?」




俺がテーブルに写真をおいたまま悩んでいると、恵さんが後ろから覗いてきた。




「何ですか? 盗撮ですか?」




そして恵さんが写真を眺める。




「……お見合い写真でございますか……」




恵さんは特に表情を変える様子もない。やっぱり脈ないのかな……。でも俺は……。




「恵さん」




俺はつい恵さんの肩をつかんでいた。




「は、はい、どうされましたか?」




「俺は……、婚約をしなければならなくなりました」




「は……、はい。おめでたいことですね」




「恵さん、俺は恵さんのことが好きです。もしかしたら両親に反対されるかもしれません。でもこの気持ちだけは……、伝えておきたかったです」




俺はつい恵さんに思いを告げた。やっぱりこの気持ちを隠したままでは、ほかの人と婚約なんてできない。ふられてもいいから、聞いてしまった。




94話B 恵さんサイド






「ゆ、優様、ご冗談がすぎます」




自分の表情はうかがえませんが、動揺してないでしょうか?




優様が私のことを好き?




そう言われるのを何度夢見たでしょうか……。




ですが、その思いには答えるわけにはいきません。




学もない、家柄もない、しかも4歳も年上の私では優様を支える自信がございません。




両思いであるならそのお気持ちにはお答えしたい……。でも…………、どうすれば……。断ったら優様ショックを受けられるでしょう。瞳に不安の色が映っていますもの。




ああ、どういたしましょう。




94話C 優サイド




「め、恵さん。泣くほど嫌なんですか?」




恵さんは涙を流し始めた。俺の告白が嫌だったのか……。ずっと弟のように思ってた俺にそんなこと言われてショックなのか……。




「い、いえ違います……。これは目から愛液が出てるだけです」




汗ではなく愛液……。微妙に下ネタがでるところは恵さんである……。




「じゃあどうして……」




「わ、私も…………優様のことを好いております。ずっとずっと昔から私には優様しか見えておりません……」




「じゃあ!」




恵さんも俺のことが好き……。俺が生きてきてこんなにうれしいことはあっただろうか。




でもなら泣くのだ?




「私はそちらのお見合い相手の方々みたいに、家柄もございませんし、学もありません……。なにより優様より4つも年上では、行為を行える期間も短いですし……。すぐにおばさんになってしまいます……」




「後半のことは関係ないです。家柄のことは俺も気にしてますが、父さんに相談するつもりです! でも恵さん個人のことに関していうなら、俺は恵さんのすべてを愛しています。俺に朝いたずらをしてくるのも、ポーカーフェイスで下ネタを言ってくるところも、俺のことを優先していつも気にしてくれていることも。でも、俺は恵さんと同等になりたいです。もっともっと恵さんの魅力を知りたいです」




「で、ですが……」




恵さんが顔を真っ赤にして、目をそらす。これだけ動揺している恵さんは珍しいし、俺の意見にこれだけ反対するのも珍しい。何かきっかけが必要か……。




「恵さん」




「は、はい」




「もし俺が今後お見合いをしてお付き合いをするとしますよね」




「はい」




「その時に、俺が恋愛に関しての経験が全くないと、きっと苦労すると思うんですよ」




「相手もお嬢様ですからね。おそらく優様がリードすることになるでしょう」




「で、お付き合いが進んでうまくいけば、キ、キスとかしますよね……」




「…………はい」




「俺、経験ないと恥ずかしいんで、メイドの恵さんが練習相手になってくれませんか……」




こんなのは建前だ。仮に恵さんと別れるとしても、両想いなんだ。ファーストキスくらいならもらいたい。




「し、仕方ないですね……、か、かまいません……」




恵さんが目を閉じる。




恵さんとの距離はずっと近かったが、ここまで無防備な恵さんを目の前でみたことはなかったと思う。




そして、恵さんの頬を両手で挟む。ああ、これだけでも気持ちがいい。




恵さんの唇に俺の唇を寄せる。あと3センチ、2センチ、1センチ……。そして0になる。




ついに……、ついに恵さんとキスをすることに成功した。




いつも恵さんから香る優しい香りが色濃く感じ、まるで体が浮いているんじゃないかというほど、ふわふわした気持ちになる。すげぇ、これがキス……。好きな人とのキス……




そして唇を離す。




ほんの一瞬だったか、それとも長い間していたか、それすら判断できないほど頭も体も熱で浮かれていた。




体中が汗をかき、手と足は震えている。




目の前の恵さんは、上気していて、目は半開き。無表情ないつもの顔が、かえって色っぽい。




そのままでいると、今度は恵さんが、俺の頭を両手で抱えて、再びキスをしてきた。








94話D 恵サイド




「ん……んぅ」




優様にキスを許しました。




優様はいろいろ理由をつけてくれました。なんてへたくそな理由でしょうか。




キスの練習など、子供のころならともかく、大人になったら、好きな人としかしないでしょう……。




そこまでして私とのキスをご所望されるということは、優様のお気持ちが本当であることが理解できてしまうではありませんか。




……、おそらく優様とのお付き合いは旦那様から反対されるでしょう。ですが、キスくらいなら……。実際の行為に及ばなければ……。






ああ、20年間だれにも許していなかった、ファーストキスを、ずっと大好きでした優様に奪っていただけるなんて。




そう思っただけでも、全身びしょびしょなのに、実際のキスは気持ち良すぎました。




目を閉じたときに、ちょっと怖くなりましたが、優しく手で包まれて、安心いたしました。




ああ、優様に奪われている……、すべてをゆだねている……。ああ、愛しいです。




そう思ったら、唇が離れたあとも、もう1度ほしくなってしまいまして、こちらからもキスをしてしまいました。




ああ、恥ずかしい。


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