俺と恵さん 念願の18回目の誕生日

65話 いわゆるDQNネーム




「匠音で『しょーん』……、七音で『どれみ』……、夢希で『ないき』……。読めないですね」




恵さんが紙を片手にもってにらめっこしていた。




「ああ、キラキラネームってやつですか」




横からこっそり覗くと、上に苗字が書いてあったので、名前とわかった。




「あ、おかえりなさい。優様。はい、これは近所の小学校のとあるクラスの名簿です。教卓に名前のフリガナがないと読めないそうで。これはPTAの奥様からいただいたんです。こんな名前を付けないようにしてくださいって」




「キラキラネームを否定はしませんけど、読める必要はありますよね。桃太郎はどうかとは思いますけど、一応読めますし、羅夢らむも一応読めますから」




名前を付ける権利は親にあるのだから、そこは否定しない。困るのは本人だから。だが、読めないのは純粋に迷惑だから困る。




俺が学校の先生だったら、桃太郎は変だが、読めるからいい。世間がどう思うかは知らないが。




「ですが、優様。これだけキラキラネームが流行ってくると、将来的にはこういうキラキラネームが当たり前になって、太郎や花子のような名前が逆に変な名前になる可能性がございます」




「そんなことはないと思いますが……。でも分かりませんね」




俺はそんなことにはならないと思う。だが、未来はわからないからな。




「優様はいい名前をいただいてますね。お名前通りお優しいです」




「恵さんもいい名前だと思います。名前通り、包容力があって、思いやりもありますし」




「…………」




「…………」




なんか恥ずかしい。付き合いの長い人を改めて褒めるのはなんかむずがゆい。




「旦那様と奥様もお名前は一文字ですよね」




「ああ、はい。押切家では代々1文字の名前だと、幸せになれるジンクスがあるそうです。あ、父さんが母さんを好きになったのは本当ですよ。名前が偶然一文字だったんです」




恵さんも一文字……。可能性はあるのかな。




「しかし、今後もしキラキラネームが主流になったら一文字では難しいですね。考えてみますか?」




その日は暇だったので考えたが、泡(そうぷ)、穴(あなる)、性(えろず)、尺(ふぇら)などろくなものがなかったので、仮に俺の望む未来が来たとしても恵さんには決めさせない。




だが、そのあと一応調べたら、精飛愛(せぴあ)、精子(せいこ)、愛歩(らぶほ)とか、恵さんよりやばそうなのがあった。世の中大丈夫なのか。






66話 難聴だと困ります




「エスカレーターの事故が今日あったそうですね」




「…………」




「恵さん?」




恵さんはいつも通り、ソファーに座っていて、声をかけたのだが、返事が来ない。




「恵さん!」




「は、はい! あ、優様おかえりなさいませ」




「どうしたんですか? いつも俺が声をかける前に気づくのに」




恵さんは音には敏感で、俺が近くに来ると先に気づいている。




もちろん偶然キッチンにいたり、外にいればさすがに気づかないが、普通に俺が視界に入るところにいて、気づかないのは珍しい。




「申し訳ございません。少し耳の調子が悪くて……」




「体調が悪いんですか?」




「いえ、買い物をしておりましたら、店員の方が食器を落とされまして、その方がケガをしてはいけないので、助けたのです」




「さすがですね。恵さんは大丈夫だったんですか?」




「はい、全員ケガはありません。ただ、ぎりぎりだったので、耳元で割れる音が聞こえてしまい、耳が少しキーンとなって聞こえずらいのです。ついさっき帰宅したのでまだ戻らなくて」




「それは大変ですね」




「すぐに治ります。ちょっとだけご迷惑をおかけしてすいません。近くで話していただければお話しできますので、どうぞ」




「あ、はい。今日、事故がエスカレーターが原因であったそうです」




「事後がエスカレーターですか?」




「違います。じ、こです」




「ああ、事故ですか。それは私も聞きました」




「階段式ではなくて、オートスロープ式で起こったそうです。滑りやすいですね」




「猥談をしてて、オートスロートで滑りやすい?」




「今回の話はまた夜しましょう」




「オートスロートを夜にする? 自動的な○ィー○スロートの開発に成功したんですか?」




聞き間違えるはいいんだけど、内容が全部そっちに向かうので、あとは無言で夜まで過ごした。








67話 簡単ですか?






「明日の朝は炊飯器が故障したので、お米がございません」




「そうですか」




朝にお米を食べるか、それ以外を食べるかは、恵さん任せで、大体バランスよくローテーションされる。




確かに明日はお米を食べる日か。




「別にいいです。何があります?」




「いいリンゴがありますので、アップルパイか、あさって用に作るつもりでしたパンがあります」




アップルパイはおいしいけど、恵さんのパンは美味しいんだよな~。迷う。




だったら、恵さんが楽をできる方がいいかな。




「恵さんはパイ? パン? どっちにしても簡単にできます?」




「はい。一応処理はしております」




ん? どっちも下処理はしてあるのかな? 微妙に質問の答えが違う気がするが。




次の日は、アップルパイを希望した。




そのあと、よく考えてみると、よろしくないことを言っていた……。完全に俺が悪い。

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