第2話 可視光景
国道百四十号線を走る。
線路を横目に進む光景があの頃に重なる。
あの頃——こんな夏の日、線路を横目にした道路を父の運転する車に揺られ祖父母の家へ帰省したものだ。
夏の思い出。
いつだって迎えられていたあの場所へ、私は何年も行っていない。
祖父は亡くなってしまったし、祖母は私のことなど分からなくなっているだろう。
隅にあっても、曖昧になろうとも決して消えない記憶の断片は、異なる場所の光景が鮮明に思い出させてくれることがある。
一曲目以降、ランダム再生を続けるミュージックサーバーを止め、再び曲を探る。
右耳と左耳で聞き分けたくなるイントロはどこか遊び心を感じ、いつだって心が躍る。
童心のままに駆け出したくなる。
信号が青になり、踏み込むアクセル音も、音程がイマイチな鼻歌も、いつの間にか今日の旅路の主題歌を歌い上げていた。
行き先は明確だ。
真っ先に駆ける少年の姿、それを追いかける少年、少女の光景。
初めて来た場所なのに思い出がある。
旧秩父橋は聖地巡礼の名所だ。
アニメーションと現実が重なる瞬間、おそらく訪れる者だけに見える光景がある。
橋全体を見渡せる場所、遠目に工場が入る
私もその中の一人。
——この場所で陽が落ちると涙が出そうだ。
橋を歩きながら、まだ正午前だというのに既に感極まってしまった自分がいる。
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