聖地巡礼記 ~秩父編~

ヒナハタ フロウ

第1話 旅立ち

 夏風の来訪、ノックオン。


 正確には夏風などではない。

 ベランダに干されたバスタオルが、風にあおられてパタン、パタンと窓を叩くのだ。

 不自然なリズムながら、これが自然のリズムなのだと実感する。


 人間の一日は二十四時間で、その時間の中で時間割を決め、急か急かと過ごしながら一日を終える。

 規則的なリズムが当たり前に溢れすぎ、歩く歩幅すら決められているようだ。

 学校は社会に出るための練習、そんなことを聞いて久しいがなるほど。


 時間割の中身が変わるくらいなもので、学校と社会はさほど変わらない。

 自然で、規則的に続く毎日はそれでも日付を替え、私の年齢も外見も大人にし、生きづらく窮屈な日々に変えていく。


 連日の熱帯夜は、沈んだ気持ちを呼び起こす。

 パタン——長い静寂が続く——パタン、パタン。

 寝苦しさにエアコンのスイッチを入れる。

 仰向けになり、薄暗い天井を仰ぎながら眠りについた。


 騒がしい早朝、窓を開ける。

 草むしりを終えた庭は害獣がいじゅうに作物が掘り返されたような様相で、小鳥が舞い降りては小刻みな動きで土中を探り、チュンチュンと鳴きながら得意げに空を舞う。

 ミミズでも獲れたのだろう。


 一日だけ訪れた夏休み。

 待ち望んでいたわけでも無く、むしろ久しぶりの休みに戸惑い、今日の私はどんな時間割で臨もうか。

 何をするでもなくダラッと一日を過ごす予定であったが、連日の天候不順が嘘のような快晴。

——これは出掛けないと勿体ないよ——

 久しぶりに見上げた雲一つない青空に、背中を押されるように身支度を整える。


 さぁ、何をしようか。

 行きたかった場所があるんだと、車のキーを持ち玄関を出る。

 後回しばかりの選択、この時は不思議と前を向いた。


 エンジンをかけ、ミュージックサーバーを探る。

 ギアをドライヴに入れて一呼吸。

 空気を吸い込み、吐き出すタイミングで曲が流れる。


 空想フォレスト

 

 私は旅に出る。

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