63話「2人の思惑が交差する時」
1月17日(月)
ただでさえ学生にとって
「――あれ、澪は?」
いつもの流れなら3人で食べる、もしくは澪と2人で食べるはずの昼食。だが今日に限っては澪の姿がなかった。いつも2人セットみたいなところがある諫山姉妹なのに、今は渚だけしかいないという珍しい状況になっている。
「お手洗いだって」
「ふーん、そっか」
そんな渚の言葉を聞いて、俺は何か嫌な予感がしてきた。もうそれがここ最近で直感的にわかるようになってきた。だいたいこういうパターンはそんな感じがする。もちろん、それが確実にあっているとも言えないし、俺はとりあえず渚と適当に話でもしながら、澪の帰りを待ってみることにした。
「――なぁ……それにしては遅くねーか……?」
だけれども一向に待っても、澪が帰ってくる気配はなかった。そうなると、もういよいよ俺の予測が確実性を帯びてくる。
「そうねぇー……」
ただまさか待ってる相手を放って、俺たちが昼食を先に食べるわけにもいかないだろう。渚も同じ思いなようで、俺たちはそれからもお弁当を食べずに澪の帰りを待っていた。そんな折、俺と渚の携帯の着信音が同時に鳴る。それでもう俺にはだいたいその相手がわかっていたが、確認すると
『急用が出来たから、2人で食べて』
という文章が澪から送られてきていた。ただ澪は渚のやったことを単に真似ているからなのか、はたまた偶然双子だから似てしまうのか定かではないがその手法にはやはり既視感があった。これで間違いなく、それは澪の策略だということを確信を持ってそう言えるようになった。これもその計画の1つなのだろう。
「だってさ。しょうがない、食べようぜ」
まさか澪がそんな考えを持ち、行動に出ているとは
「そ、そうね」
そんなわけで俺たちは2人きりで昼食を食べ始めることとなった。それはいつもとなんら変わらない風景で、特にとりとめのないものだった。そして思うのだが、これではたして『くっつける』という作戦が果たせるのだろうか。渚の時もそうだけど、単にご飯を食べているだけでそんな期待するようなイベントなんてまるで起こらないと思うのだが。そんな疑念を抱きつつ、俺は自分の弁当を消化していく。
「――渚、米粒ついてんぞ」
そんな弁当を食べている最中、渚がまるでいつかの澪みたいに米粒を自分の唇の横らへんにつけて気づかないでいるのがわかった。それに、俺は渚の米粒がついているところと同じところを自分の顔で指して、場所を教えてあげながらそう指摘する。
「えっ、どこどこ?」
なのにも関わらず、動揺しているのかその正反対のところを触って焦りながら探している渚。その姿は悪く言えば
「こーこっ、落ち着いて食べろって」
でもこのままじゃ
「あっ……」
そんな様子を見ていた渚が何か言いたそうな顔をするが、すぐに口をつぐんでしまう。
「ん、どした?」
でも俺にはその仕草の意図するところがわからず、渚にそんなふうに質問をしてみる。
「ううん、なんでもない……」
だけれど、渚は恥ずかしそうにしながらも俺の質問に答えることはなかった。結局、その質問の答えがわからず仕舞いで、なんか気持ち悪い感じだが本人が『なんでもない』と言うのだからしょうがない。
「そっか。でも子供じゃないんだからちゃんと気をつけて食べろよ?」
なので俺はまるで親が子供に
「う、うん……気をつける……」
そんな俺の説教じみた注意に、意外にも渚は小動物みたいに縮こまって可愛くなっていた。それは決して怒られてシュンとしているとかではなく、やはり恥ずかしさでそうなっているみたいだった。俺はその姿に、さっきまでの注意なんて忘れて素直にかわいいと思ってしまった。それは思わず頭を撫でたくなってしまうほどで、俺はそれを必至に理性という壁で抑えていた。なんというかそれにしても澪のおかげもあってか、やはり渚とのこんな些細な幸せな時間が増えることは俺にとって多大なるメリットとなっていた。これで誰の邪魔も入らずに、渚と一緒にいられるのだから。それに渚の策略は、澪の意思によって簡単に
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