Extra.2-2「重いプレゼント」
それから俺は授業の合間にも、お腹が空いたらさっそくチョコを食べて、消化することに努めていた。市販の子もいれば、ガチッガチの手作りな子もいた。どれもやはりおいしく、間食にはちょうどいいものとなった。ただ全然量が減らない。あきらかな市販のチョコレートのヤツは
「――やっほ―
廊下に出ると、相変わらずいつみても元気そうな感じで、そう言ってくる凛先輩。しかし、その手には数袋分のぎゅうぎゅうに詰まったチョコと、おそらく自分のチョコを持っていた。それを見て、俺は思わず顔が引きつってしまう。
「あ、ありがとうございます。
それにしたって凛先輩が単独というのは珍しかったので、そんなことを
「あぁー明日美たちは仕事で忙しくてねぇーだから代表して私が持ってきたよー! はい、これ」
と言ってまず渡されるのが、おそらく3人分のチョコレート。ただその1つに――
「うわ、ハートだ」
食べるのも大変そうな、大きなハート型のものがあった。箱の状態からもうすでにハート型とは……もうこれだけで誰のかわかってしまう。というか間違いなく、そんなどストレートに愛を表現してくる人なんて1人しかいない。
「そうだよー! これが私の愛のカ・タ・チ? なんちゃってぇー!」
その張本人が自分で言って自分で照れている。とは言っても、俺はもう既に人の男なので、その愛は受け取れないんだけど……って言うのは
「はははー……」
それに思わず苦笑いしてしまっていた。正直、どう反応していいかわからなかった。だからとりあえず笑っておこっ!
「で、こっちがファンの子たちから」
そして次に渡されるのはファンクラブの子たちのチョコレートだった。
「なんか、こういうのもアレなんですけど、量多くないっすか? 去年はこんなじゃなかったですよね?」
持ってきた袋だって結構大きめなのに、それが複数個。ぎっしりと詰まっていると考えると、3桁はいっているか。去年は袋1つ分に収まっていたのに、なぜ増えているのだろうか。
「あぁーたぶん煉くんがミスター
もうだいぶ前のことだというのに、まだこの称号は俺を苦しめるのか。でもこれは栞を好きになった一因でもあるから、一概にあの日に行ったことを後悔できない自分がいる。だからこそ、どうすることもできなくてモヤモヤしてくる。たしかに言われてみれば、だいぶ前のことだけど、報道部に追われてたこともあったけ。アレもたしかミスター聖皇になったのが原因だったし、やっぱりそういうのを取ると凄まじい影響が出てくるのだろう。
「それにしたって……この量……」
これはどう考えても、1人で食いきれる量じゃない。たぶん冷蔵庫とかに保管して、毎日数個ずつ食べても相当な時間はかかるよな。
「まあ、もはやこの学園の女子全員が会員になっていると言っても過言じゃないからねぇー」
そんな感じで困っている俺に、凛先輩そんな
「いやいや、それは流石に過言ですって! 凛先輩、話盛すぎ……」
いくらミスター聖皇になったからって、それは流石にないだろう。絶対にウチの委員長みたいに、そもそもそういうのに興味ない子とかいると思う。だいたい女子だけでも付属も合わせて何百人もいるんだ。その全員がファンクラブ会員なんて……まずありえない。
「えーそんなことないよぉー! だって付属生はもちろん、一部の先生だって会員になってるんだからー」
「はぁ!? 先生もって……それどうなんですか?」
そんなとんでもない情報を初めて聞かされる俺は、とてつもないぐらいに驚いていた。特に後者の方なんて、何かの聞き間違いじゃと思ったほどだ。でもまさかその一部の先生って――
「ふふふーそれだけ煉くんがみんなに愛されているってことだよー!」
まるで自分のことみたいに嬉しそうな顔をして、そんなことを言ってくれる先輩。ただその『自分』は嬉しい気持ち半分、でもマジでちょっと宗教みたいで怖い気持ち半分だった。
「は、はぁー」
そんなこと言われても、どう反応すればいいのだろうか。よくわからず、適当な反応でごまかしていた。もはやちょっと恐怖心すら覚えてきている俺がいた。
「――そういえば凛先輩。ちょっと気になったんですけど、これだけの量ってことは買ってきたやつなんですか?」
そんなことを思いつつ、もらったチョコを袋を見て、気になったことがあって先輩にさっそくそれを訊いてみる。これだけを作るのは、そもそも場所がなさそうだし。でもそれだと、どこかのお店では品切れになってそうだけど。とにかくその経緯が気になっていた。
「ううん、一応は手作り。市販のやつを溶かして好きな型に固め直しただけだけどね。いっつも家庭科室を借りてみんなで作ってるんだー」
「へぇー随分と大掛かりなことやってんですねぇー」
これ1つにつき1人が作っているってことか。なんかその光景を想像すると、すごいことになっていた。もちろん数回に分けて作ったんだろうけど、それでも俺の頭の中では相当な数の人が想像されていた。しかもということは、おそらく家庭科室を借りているはず。流石に家でやるのはムリだし、この今袋から見えている範囲だけでも分かるように、あきらかにラッピングがみんな揃っている。ということは『ファンクラブの企画』として作ったものだろうから、やっぱりグループになって一緒にやるはずだ。だとするならば、わざわざそのために先生に許可をもらいにいったのだろうか。そうなるともういよいよ、俺のファンクラブが部活みたいになってくるけど。
「でも調理部の中にもファンクラブ会員がいるからね」
「あぁー納得納得」
そうか、失念していた。調理部の人たちも俺のファンがいるわけか。だったら調理部の活動と称してバレンタインチョコを作ることは
「でも煉くん、私が言うのも何だけど、毎年大変だねぇー」
その凛先輩のセリフは俺にチョコをくれる多くの女子たちが発していた言葉だった。もうそれは聞き飽きた言葉だし、それに対応するのも面倒になっていた。だから俺は、
「それ、耳にタコが出来るほど聞きました。それにこういう言い方は悪いですけど、凛先輩だけには言われたくないです……」
そんな感じで、ちょっと冗談を含んだ嫌味を混ぜつつ返事をする。ぶっちゃけ、ホントに失礼ですけど、あなたのせいでこうなっていると言っても過言ではないんですからね。
「ふふっ、ごめんごめん。じゃあ、たしかに渡したから、よろしくねぇー!」
それに全く悪びれる様子もなく、いつもの笑顔で笑って返事をする凛先輩。そして手を振りながらそのままどこかへと帰っていってしまった。
「はぁー……」
俺は凛先輩が見えなくなった後で、大きなため息をつく。なんというか、ファンクラブの皆さんの愛が精神的にも物理的にも重たい。そんな愛は流石に俺は受け止めきれない。まず数的にも多すぎるし。でも俺のことを好いてくれている、という事実だけはホントありがたい。まあぶっちゃけ嬉しいか、嬉しくないかとは言われたら、そりゃ嬉しいに決まってる。でももうちょっと愛情の表現の仕方をなんとかできませんかね……いや
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