24話「ストーカーまがいの幼馴染」

12月22日(水)


 相変わらずの曇り空で、黒く立ち込めていた。外はよっぽど寒いようで、部屋との温度差で窓に水滴がついている。この調子だと、もうすぐ雪が降るかもしれない。それに憂鬱ゆううつな気分になりつつ、早く冬があけないかなと思う俺がいた。そんなことを考えながら、俺は朝の準備を始める。それからいつものようにリビングに向かうと、そこには誰もいなく、テーブルに朝食と書き置きがあった。そこには、


『ゴメン! 今日は寝坊しちゃって朝食しか作れなかった! お昼は自分でなんとかしてね!』


 と書いてあった。


明日美あすみが寝坊なんて、珍しいな」


 そんな独り言を呟きながら、明日美の作った朝食を食べ始める。だがそのメニューには少し違和感があった。それらは昨日の残り物でもなく、明らかに朝に新しく作ったもの。寝坊して急いでた人が、はたして作れるだけの時間があるだろうか。もちろんこの『寝坊』とは『朝の生徒会の仕事に遅れる』という意味で、別に遅れても何か罰があるわけではない。だから遅れ覚悟で作ったということもあるが、だったら弁当も作れそうなものだ。朝食作るついでに昼食も同じ感じのメニューにして、手を抜いてしまえばできるはず。だから俺はこの朝食に違和感を覚える。でもだからといって、ここでああだこうだと考察してても答えは出ない。後で、明日美にその辺のことを訊いてみよう。そんなことを思いながら朝食を食べ終え、いつも通りの時間で家を出た。すると、それと同時に向かいからアイツが現れた。


「おっ、おはよう、れん


 諫山いさやまなぎさだった。渚は俺に気づき、そう挨拶をしてきた。今日は珍しく、姉妹一緒じゃないようだ。


「おはよう、渚」


「き、奇遇ね、こんな時間に会うなんてっ!」


 そんなわざとらしい言い方で、そんなことを言ってくる渚。だがその嘘には幼馴染の俺には通用しない。あからさまに嘘をついてる。だから、渚は俺に合わせに来たというわけだ。


「なあ、なんでお前は俺が家を出る時間がわかんの?」


 奇遇じゃないことはわかっていても、そのトリックがよくわからなかった。どうやって俺の出る時間がわかっているのだろうか。まさか俺の家に盗聴器、盗撮ビデオが仕込まれてるわけなかろうに。


「はぁ!? な、なな、なにいってんの!?」


 図星をつかれて、あきらかに動揺している渚。前回の時もバレたのに、今回は誤魔化せるとでも思ったのだろうか。流石に無理があると思うが。


「渚、嘘バレバレ」


「嘘なんか、ついてないし!」


「や、顔にでてるし」


 そう言うと渚は面白いように、自分の手で顔を触って確認していた。その滑稽こっけいな姿に思わず吹いてしまいそうになるが、必死で堪えて渚にこう訊く。


「んで、なんでストーカーみたいなことしてるわけ?」


 これは俺と渚の仲だからいいものの、他の人にやったら確実に犯罪だ。そんな危ないことをしている幼馴染に、その理由わけが訊きたい。


「や、煉と一緒に学校行こうと思って……」


 すると渚はモジモジとしながら、乙女みたいになってそう答える。その姿はまるで妹のみおみたいだった。やはり双子の姉妹といったところか。素になると、よく似ている。


「は? だったらメールでもすりゃいいじゃん」


 それでも今の時代、文明の利器を使えばいくらでも離れた人と会話ができる。このご時世にそんなストーカーまがいなことをわざわざする必要はなかろうに。


「だって、恥ずかしいもん……」


 両人差し指を合わせながら、顔を赤らめてそんなやはり乙女みたいなことを言う渚。どうやら渚さんには幼馴染に一緒に登校する約束をするのすら、恥ずかしいようだ。どんだけウブなんだよ、とツッコみたい。がここは心の中に留めておく。


「なんだそれ。でも、澪がいないのはなんで?」


 そんな理由ならざる言い訳は置いておいて、それよりも諫山姉妹は2人で1つみたいなところあるから、澪がいないのが不思議だった。


「あっ、えと、澪はちょっとクラスのことで用事があったの」


「ふーん、そうなんだ」


 また嘘ついてる。てことは澪は先にってわけか。まったく、はた迷惑な話だよな。


「あっ、あのさ……」


 しどろもどろになっている渚。そんな珍しい渚も可愛くていいんだけど、このままだと全くもって話が進まない。


「ほら、学校いくぞ」


 だから俺は助け舟を出してやることにした。


「えっ、あ、うん……」


 歩き出す俺に、ついてくる形で歩いている渚。ホントに、澪と一緒にいるような気分になる。それから俺たちはしばらく無言で歩いていたが、気持ちが落ち着いたのか、渚はいつもらしさを取り戻していた。


「――そういやさ、なんでお前は俺が家を出る時間がわかったの?」


 それを確認したところで、俺は一番訊いてみたかったことを改めて訊いてみる。


「ん、なんとなくかな?」


「なんとなくでわかるのかよ、すげぇな」


 幼馴染クラスになると、家を出る時間帯もわかるのか。とでもツッコミたかったが、また渚が澪化するのを恐れて自重した。それにしても、なんで時間を合わせるようなことをしたんだろうか。


「ま、ずっと一緒にいるし」


「そうだけどさ……」


「あっ、そうだ。煉さ、今日昼は?」


「ん? あー今日さ、明日美が寝坊して弁当作れなかったみたいで、無いんだよね」


「へぇー珍しいわね。てかあんた料理得意なんだから、自分で作んないの?」


「自分で作ったものを自分で食べるのもな……」


 人に振る舞うのならまだいいが、自分のために弁当を作るのは、たぶん食ってる時に虚しさや、寂しさを感じるだろう。だからちょっと抵抗がある。後、いちいちメニューを考えるのも面倒だし。


「別に普通じゃない?」


「それにさ、俺朝弱いしさ」


 それ以前の問題。仕方がないとはいえ、これがあってはキツいものがあるだろう。弁当を作るには当然、早起きは必須だし。


「あー、ま、それは、しょうがないわよねー」


「だから今日は購買にでも行こうかと、でもなんでそんなことを?」


「いや、あのさ、一昨日おとといの約束……覚えてる?」


 渚は恥ずかしそうにしながら、そんなことを訊いてくる。


「えっ? 一昨日おととい……?  あっ! ああーあの渚が弁当を作ってくるってやつか」


 正直、今日までに色々なことがありすぎて、記憶がちょっと曖昧だったが、考えてすぐに結びついた。放課後にした不確かな約束のことだ。


「そう、だから、今日弁当作ってきたから、澪と一緒にどうかなーって」


「マジで!? 全然いいよ!!」


 俺は正直、とても嬉しかった。明日美の料理もいいが、渚の料理もまた一興。渚の料理もおいしいから楽しみだ。


「んじゃ、中庭で待ってるから」


「わかった、中庭ね」


 なにげに、このお誘いは割りとありがたい。昼食の無駄な出費が抑えられるし、渚のおいしい料理が食べれるし。運が良ければ、クリパの準備もサボれるし。俺はそんな感じで気持ちを弾ませつつ、渚と一緒に雑談でもしながら学校へと向かった。

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